(月刊 国際法務戦略 2000年4月号掲載)

中国ビジネス・ローの最新実務Q A

第4回

合弁契約の実務(その1)

黒田法律事務所     黒田 健二

萱野 純子

Kenji Kuroda, Sumiko Kayano/Kuroda Law Offices

これまで、商標の登録等の実務、ライセンス契約の実務に関する問題点を取りあげてきたが、さらに中国においてビジネスを展開することを考えた場合、中国の企業と合弁会社を設立することも選択肢の一つとして挙げられる。そこで今回は、合弁契約の実務について、合弁会社設立にあたり最も重要な合弁契約書を中心として、日本企業の法務担当者から当事務所に問い合わせの多い初歩的な疑問点のいくつかを取り上げることにする。

  合弁契約の交渉を開始するために必要な手続

Q1       中国側当事者との間で合弁契約の交渉を開始するにあたって、予め何らかの手続を経る必要があるでしょうか。

A1         中外合弁企業法実施条例(以下「合弁法実施条例」という)第9条(1)項により、中国側当事者は企業主管部門に対し、合弁会社を設立しようとする事業の建議書(プロジェクト・プロポーサル)、企業化研究報告書(いわゆる初期FS)を提出しなければなりません。中国側当事者は、その許可を得てはじめて合弁契約や定款の交渉等の作業を行うことができます。

  合弁契約書に記載する必要のある条項

Q2       中国の法律上、合弁契約書に記載しなければならない事項はあるのでしょうか。

A2         合弁法実施条例第14条により、合弁契約書には以下の事項を記載する必要があります。

(1)合弁各当事者の名称、登記国、法廷所在地及び法廷代表者の氏名、職務、国籍

(2)合弁会社の名称、法廷所在地、目的、経営範囲及び規模

(3)合弁会社の投資額、登録資本金、合弁各当事者の出資額、出資比率、出資方法、出資の払込期限ならびに出資額の未払い、譲渡に関する規定

(4)合弁各当事者の利益分配及び損失負担の比率

(5)合弁会社董事会の構成、董事の定員の配分ならびに総経理、副総経理及びその他の高級管理職の職責、権限及び招聘方法

(6)採用する主な生産設備、生産技術とその調達先

(7)原材料購買と製品販売の方式、製品の中国国内と中国国外での販売比率

(8)外資資金の収支計画

(9)財務、会計検査の処理原則

(10)労務管理、賃金、福利、労働保険等の事項に関わる決定

(11)合弁会社の期間、解散及び生産の手続

(12)契約違反の責任

(13)合弁各当事者の紛争を解決する方法と手続

(14)契約の本文に採用する文字と契約発効の条件

  合弁会社設立の申請の際に提出すべき書類

Q3       合弁契約書のほかに、合弁会社設立の申請のさいに提出する必要がある書類にはどのようなものがあるでしょうか。

A3         合弁法実施条例第9条(2)項によれば、合弁契約書の他、以下の書類を提出する必要があります。

(1)合弁会社設立申請書

(2)合弁各当事者が共同で作成した企業化研究報告書

(3)合弁各当事者の授権代表者が署名した合弁会社の取り決め及び定款

(4)合弁各当事者が任命した合弁会社の董事長、副董事長、董事の名簿

(5)中国側当事者の企業主管部門及び合弁会社所在地の省、自治区、直轄地の政府が当該合弁会社の設立について記した意見書

  企業化研究報告書と合弁契約書の関係

Q4(1)日本法人A社は、中国法人B社が企業主管部門に対し、合弁会社C社設立のための初期FSを提出した後、諸事情により、事業内容等、重要な条件について大幅に変更しなければならなくなりました。その事情についても、企業主管部門に対して説明することは困難なのですが、このような変更は可能でしょうか。

(2)上記の変更が企業化研究報告書(第2回目のFS報告書)を提出した後で必要となった場合、変更することはできるでしょうか。

A4(1)    初期FSからの大幅な変更は可能ですが、事業内容が全く異なる場合(例えば合弁企業の生産する主要な製品が異なる場合)には、そもそも異なるプロジェクトと判断され、最初の項目建議書からやり直しとなります。

(2)    第2回目のFS報告書について政府の許可を得た場合には、FS報告書の内容から締結する合弁契約の内容を大幅に変更することは極めて困難です。

審査許可機関は、合弁契約及び定款の審査に際して、これらの内容がすでに計画管理部門等により許可された第2回目のFS報告書が定めた基本的な原則を変更しているかどうかを審査し、もし資本金、総投資額、出資比率等の重要な条件がFS報告書の規定する条件と異なることを発見した場合、当事者に対して合弁契約や定款を再度協議して修正するよう要求する。従って、このような場合には、許可を受けた第2回目のFS報告書自体を変更して合弁契約や定款の内容と合致するようにしなければならず、その場合に大幅な変更を行う理由の説明が困難であれば、変更についての許可を得ることは難しいであろう。

  中国側当事者と外国側当事者の出資比率について

Q5(1)日本法人A社と中国法人B社が合弁会社C社を設立するにあたり、以下の出資比率とした場合、A社にはいかなるメリット及びデメリットがあるでしょうか。
①A社   80B社   20
②A社   20B社   80

(2)日本法人A社と中国法人B社との出資比率をそれぞれ51%と49%にした場合、上記(1)①のメリット及びデメリットと比較して異なる点があるのでしょうか。

A4(1)    主に、出資リスクの大小、董事等の合弁会社の重要ポストの任命派遣、氏名、推薦に関する権限などについて、それぞれメリット及びデメリットがあります。

(2)    出資比率を51%とすることにより、出資リスクが小さくなる等、出資比率を80%とした場合のデメリットについて一定の範囲で減少することができますが、董事等の合弁会社の重要ポストの任命派遣、氏名、推薦に関する権限について、董事の人数が同数となる可能性が高い等のデメリットがあります。

A.日本法人A社がマジョリティである場合

具体的なメリット及びデメリットは以下のとおりである。

(1)メリット

(a)日本法人A社が任命派遣する董事の人数が董事全体の3分の2以上となる可能性が高く、法令で定められた全会一致決議事項(定款変更や増資など)以外のほとんどすべての重要事項について日本法人A社が最終決定権を持つことができる。

(b)董事長や総経理など合弁会社の重要なポストの指名権・推薦権をもつことが可能である。董事長を指名できれば、会社の法定代表権を獲得でき、総経理を指名できれば、日常業務の執行をすべてコントロールすることができる。従って、特に合弁契約で別段の定めをしなくとも、生産、販売、経理、法務、人事等のすべてにわたって日本法人A社がコントロールすることができる。

(c)日本法人A社が第三者からライセンス許諾されている特許について、合弁会社に自動的にサブライセンスすることができる。

(d)完成品の品質管理や輸出に伴う他地域でのライセンシーやディストリビューターとの競合問題をすべて容易にコントロールできるため、合弁会社に商標等のライセンスを付与しても発生する問題が少ない。

(e)合弁会社からの配当が多い。

(f)合弁会社が黒字の場合、その黒字額を連結決算に取り込むことができる。

(g)合弁会社と締結した契約の変更や合弁会社と将来締結する契約の条件交渉が容易である。

(h)合弁会社の金融機関からの借入金を減らすために日本法人が設備代金や部材代金の支払にユーザンスを与え、代わりに債権回収を確実にするため何らかの担保契約を要求する場合、この担保契約の制約条項等の条項を完全に遵守させることができる。

(2)デメリット

(a)合弁会社破産の場合に失う出資額が多い。すなわち、出資リスクが大きい。

(b)合弁会社の金融機関からの借り入れに対する債務保証及び担保提供の割合が通常高い。

(c)合弁事業が失敗した場合の経営責任を押しつけられる可能性がある。

(d)合弁会社が赤字の場合、その赤字額を日本法人の連結決算に取り込む必要がある。

(e)中国側が通常主張する「平等互恵」「公平」「友好」の精神に合致せず、交渉にたいへん骨が折れる可能性が高い。

(f)中国側が合弁会社の経営に対して積極的に協力するインセンティブが小さいので、合弁契約に定められた各種の義務を履行しない可能性が高い。

(g)中国へ派遣する日本人社員が増えるので、コスト面で競争力が低くなる可能性がある。

B.日本法人がマイノリティである場合

具体的なメリット及びデメリットは以下のとおりである。

(1)メリット

(a)合弁会社破産の場合に失う出資額が低い。すなわち、出資リスクが小さい。

(b)合弁会社の金融機関からの借り入れに対する債務保証及び担保提供の割合が通常低い。

(c)中国における合弁事業では、通常、配当による利益の獲得よりも部材の供給や完成品の輸出を独占的に行うことによる利益の獲得や合弁会社への貸付による利子の取得の方が確実である。そこで、中国側パートナーの出資比率を大きくして経営責任を中国側に押し付けることができる一方、事業リスクを最小限にするため安全確実な部材の販売による利益や貸付金利子の獲得を図ることが可能である。

(d)一般に、中国へ派遣する人材が少なくて済む。

(e)合弁会社が赤字の場合、その赤字額を日本法人の連結決算に取り込まなくて済む。

(f)中国側が合弁会社の経営に対して積極的に協力するインセンティブが高い。

(2)デメリット

(a)合弁会社に重要事項として列挙した事項以外については、すべて中国側の決定に従わなければならない。従って、特に合弁契約で別段の定めをしない限り、生産、販売、経理、法務、人事等のすべてにわたって日本法人はコントロールを失う。

(b)董事長や総経理など合弁会社の重要なポストの指名権をもつことが通常できないか非常に難しい。

(c)日本法人が第三者からライセンス許諾されている特許について、合弁会社に自動的にサブライセンスすることができない。つまり、国際的なライセンス契約において、ライセンシーがマジョリティの株主である子会社に対しては自動的にサブライセンスできる条項が入っていることがしばしばあるが、マイノリティの株主である子会社に対しては自動的にサブライセンスできないのが通常である。中国の技術導入管理条例や同施行細則によりライセンシーたる日本法人は合弁会社に対して契約上完全なワランティを与えることが要求されている以上、この問題はきわめて深刻な問題となりえる。

(d)日本法人が合弁会社に商標のライセンスを付与した場合、完成品の品質管理や輸出に伴う他地域でのライセンシーやディストリビューターとの競合問題をすべて完全にコントロールすることができないため、問題が多く発生するおそれがある。

(e)合弁会社からの配当が少ない。

(f)合弁会社が黒字の場合であっても、その黒字額を連結決算に取り込めない。

(g)合弁会社と締結した契約の変更や合弁会社と将来締結する契約の条件交渉が困難である。

(3)デメリットに対する対策

日本法人A社がマイノリティである場合のデメリットに対する事前対策は、合弁契約の付属書類として、できるだけ多くのかつ詳細な契約書(現物出資協議書、機械設備売買契約、技術援助契約、商標使用許諾契約、排他的販売店契約、人員派遣契約、部材供給基本契約など)を添付し、設立後に中国法人B社と交渉する実質的な事項を極力減らすことである。また、事後対策は、副総経理に董事長又は董事を兼任させて中国法人B社推薦の総経理による日常業務管理の執行を監視し、かつ、董事会をできるだけ頻繁に開催して「重要事項」の範囲を拡大し、中国法人B社推薦の総経理による独断専行を防止することである。

C.日本法人A社が出資比率51%のマジョリティである場合

日本法人A社が出資比率51%のマジョリティである場合、マジョリティでありながら、出資比率が80%の場合のデメリットを最小限にすることができるが、以下のデメリットに注意すべきである。

(1)日本法人と中国法人の出資比率がほぼ同等であるため、任命派遣する董事の人数も同数となる可能性が高く、その場合、董事会で決議するすべての重要事項について、日本法人が最終決定権を持つことができない。

(2)出資比率におけるわずか2%の違いだけで、董事長及び総経理双方の指名権を日本法人が取得するのは「平等互恵」「公平」「友好」の精神に反するとの強い反発が予想される。仮に、董事長を中国側にとられると、董事会の決定を無視する董事長を指名された場合に、日本法人としては、董事会でこの董事長を解任する以外になく、解任されても、再度董事会の決定を無視する董事長を指名されると仲裁や訴訟に持ち込む以外対抗策がないので、董事長の指名権も取得するのが望ましい。総経理は、合弁会社の日常業務の遂行を行い、実質的には日本の会社の「社長」に相当する強大な権限を有するので、日本法人に適当な人材がいないなどの特別な場合を除いては、日本法人が推薦権を取得する必要性は董事長に比べてさらに大きい。


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