(月刊 国際法務戦略 2000年12月号掲載)

中国ビジネス・ローの最新実務Q & A

第11回

スムーズな撤退方法とそれを可能にする中国進出の仕方(その1)

黒田法律事務所    黒田 健二

黒須 克佳

Kenji Kuroda, Katsuyoshi Kurosu/Kuroda Law Offices

1978年の中国進出による改革開放、外資導入政策の実施に伴い、日本をはじめとする外国の企業は、沿岸都市を中心に相次いで生産工場を設立し、特に1993年以降、円高の影響を受け、中国への進出を加速させた。その後、中国政府の外資導入政策は当初の目標を達成し、1996年3月以降に設立した合弁会社に対する設備輸入関税減免など一部の優遇措置が撤廃され、「外商投資産業指導目録」の交付により、中国政府は、一部の産業において外商投資企業の設立を制限しはじめた。一方、さまざまな原因により合弁会社設立当初予定していた製品の日本への逆輸入の目標を達成することができず、また中国沿岸都市の賃金アップなどによる製品コストの不採算、中方パートナーとの紛争、従業員との労使紛争などにより、一部の日本企業は、中国からの撤退を余儀なくされた。

ところで、合弁会社を清算する場合は、中外合弁企業法実施条例(以下、「合弁法実施条例」という)、外商投資企業清算規則(以下「清算規則」という)、一部地方の外商投資企業清算条例などの法律、法規及び合弁契約、定款の清算に関する条項に従わなければならない。これらの条項によって、合弁会社を解散、清算するに当たってのさまざまな制限が課されている。

このような状況の中で、いかにスムーズに中国から撤退するのか、撤退にあたってどのような問題点があるのか、さらにはスムーズな撤退を可能とする合弁契約の書き方について、今回、次回及び次々回にわたって取り上げることとする。

一  董事会の出席董事の全員一致による採択(普通清算)

Q1       日本企業A社は、中国企業B社と化繊品の生産を主な経営範囲とする合弁会社C社を7年前に設立しましたが、生産コストの上昇、100%中国資本の競合他社の台頭などにより、合弁会社C社の業績はここ数年不振であり、今後も明るい見通しは立ちません。そこで、日本企業A社は、合弁会社C社を解散させ、清算する方針ですが、中国企業B社は、これに反対の意向のようです。このような状況において、日本企業A社は、董事会の決議によって合弁会社C社を解散、清算させることはできるのでしょうか。なお、日本企業A社と中国企業B社との出資比率は4対1であり、日本企業A社が4名の董事を派遣しているのに対し、中国企業B社は1名の董事を派遣しています。

A1         合弁会社の解散、清算(普通清算)に関しては、合弁法実施条例第36条が、外商投資企業の解散、清算について必ず董事会の出席董事の全員一致による採択を経なければならない旨を明らかに規定しています(合作企業についても同様。中外合作企業法実施細則第29条)。したがって、中国企業B社は、合弁会社C社の解散、清算について反対の意向である以上、自ら派遣している董事に決議に反対させるので、日本企業A社は、このままでは合弁会社C社を解散、清算させることはできません。

合弁当事者の「事業感・市場感」の違い、中国政府各関係者の「面子」を含む政治的な配慮から、外商投資企業の清算解散決議について董事会の出席董事の全員一致による採択は難しい。

この点については、ある会社の清算事例では、中方パートナーの清算拒否の意向により清算手続が円滑に行えず、清算会社の投資価値が減少したばかりか、一部の債権者に対する債務の弁済もできない状態に陥ってしまった。

これと対照的に、日本企業が仲裁により合弁会社の解散を申し立て、後にその申立てが認められた事例もある。つまり、董事会において出席董事の全員一致による合意ができない場合であっても、合弁会社の解散を求めることは可能であって、仲裁によって合弁会社の解散に関する外国側の主張が認められた先例もある。

しかし、仮に外国側出資者が清算を選んだとしても、合弁会社の清算を中方パートナー及び関係機関に納得させる際に、大きな困難に直面し、外国側出資者は清算手続の開始に対する関係機関からの強い抵抗を受け、特に関係審査許可期間は、清算以外の他の方法で合弁事業の危機を解決するよう、外国側出資者に対する説得を試みるなど、外国側出資者による合弁会社の清算は容易に認められないのが実情のようである。

二  持分売却などによる撤退

Q2       日本企業A社は、合弁会社C社を解散させ、清算するとの方針を決めましたが、中方パートナーである中国企業B社や審査許可機関は清算解散を阻止することが予想されます。このような場合、日本企業A社としては、合弁会社C社から清算解散以外の方法によって、スムーズに撤退するにはどのような方法があるのでしょうか。なお、合弁会社C社は、業績不振とはいえ、債務超過の状態ではなく、相当程度の資産を有しています。

A2         このような場合には、日本企業A社は合弁会社C社に対する持分を中国企業B社や第三者に売却して撤退する方法によっても、合弁会社C社からの撤退は可能です。また、中国企業B社の合弁会社C社に対する持分をすべて買い取り、合弁会社C社を独資企業とし、その後、当該独資企業を解散させ、あるいは資本金を減少させ、あるいは独資企業の出資額を一括して第三者に売却するという方法もあります。さらに、減資による撤退の方法もあります。

1.持分売却による撤退

合弁会社に対する持分売却による撤退の場合、以下のような手続が必要である。

(1)清算手続を行うことなく、「外商投資企業における投資者の株主権変更の若干規定」(対外貿易経済合作部・国家工商行政管理局の(1997)外経貿法発第267号による公布、同日より施行。以下「若干規定」という)第3条に基づき、原審査許可機関に対し許可申請をしなければならず、許可を得たうえ、原登記機関に対し変更登記手続を行わなければならない。

また、同第9条の規定によれば、合弁パートナー同士の契約によって持分を譲渡する場合、または他の投資者の同意を得て第三者に持分を譲渡する場合、以下の書類の提出が必要である。

①投資者株主権変更申請書

②企業の原契約、定款及びその変更契約

③企業の批准証書及び営業許可証の写し

④企業董事会の投資者株主権変更に関する決議書

⑤企業投資者株主権変更後の董事会構成員名簿

⑥譲渡人が譲受人と締結し、かつその他の投資者による署名、あるいはその他の書面方式による認可を得た株主権譲渡契約

⑦審査許可機関が提出を要求したその他の書類

(2)外国側出資者は、「外商投資企業の合併、分割、株主権の再編成、資産の譲渡等再編成業務にかかわる所得税の処理に関する暫定規定」(1997年4月28日国家税務総局による公布、1997年度より施行。以下「税務処理暫定規定」という)第三部分の「株主権再編成の税務処理」の(一)「株主権譲渡収益の処理」に基づき、税務処理を行わなければならない。

なお、若干規定第5条は、「外国側出資者が、そのすべての株主権を中方パートナーに譲渡するほか、企業投資者株主権の変更によって、外国側出資者の出資比率を企業の登録資本の25%より低下させてはならない」と規定しているため、外国側出資者は、合弁会社としての地位を維持するためには、合弁会社に対する持分の一部を中方パートナーまたはその他の中国企業に譲渡する場合は、譲渡後の外国側出資者の持分は、合弁会社における登録資本の25%を下回ることができない。

持分の売却による撤退の方法によれば、中方パートナーの面子を害することなく、また政治的な問題を回避しやすいため、董事会における出席董事の全員一致による決議や審査許可機関による許可を取得しやすく、かつ外国側出資者は、投資回収の目的を達することができる。

また、外国側出資者は、たとえばバージニア諸島などの第三国でペーパーカンパニーを作り、外国側出資者が合弁会社に対する出資額をそのペーパーカンパニーに譲渡し、このペーパーカンパニーが表に立って、撤退について中方パートナーと交渉し、万一、中方から何らかの責任を追及されたとき、そのすべてをペーパーカンパニーに負わせるという方法もある。

2.持分購入後の解散、減資、持分一括売却による撤退

中方パートナーの合弁会社に対する持分をすべて買い取り、合弁会社を独資企業とし、その後、当該独資企業を解散させ、または独資企業の資本金を減少させ、あるいは独資企業の出資額を一括して第三者に売却することによっても撤退は可能である。しかし、合弁会社が「外商投資産業指導目録」で外国投資者の独資を禁ずる産業に属する場合は、この方法によることはできない。

3.減資による撤退

中外合弁企業法(以下、「合弁法」という)第22条の規定によれば、「合弁企業は合弁期間中にその登録資本を減少してはならない」となっているが、合弁法の公布、施行後、各地方でニセ合弁の乱立が目立つようになり、国家工商行政管理局と対外貿易経済合作部は、共同で(1994)工商企第305号文書の「外商投資企業に対する審査許可及び登記管理のより一層の強化の関連問題についての通知」を公布した。その第11条は「外商投資企業は、経営期間中、正当な理由があって、企業の正常な経営に影響を与えず、かつ、債権者の利益を侵害しない前提下において、原審査許可機関に対し、生産規模を縮小し、投資総額及び登録資本を調整する申請を提出することができ、原審査許可機関による許可を経た上、原登記機関が照合して許可した後、変更登記を行い、かつ、国家工商行政管理局に届け出るものとする」と規定していることから、合弁会社が設立された後の生産規模の縮小や投資額の減少は可能となった。

このように外国投資者は、減資手続を行うことによっても、合弁会社から一部撤退することができる。

三  従業員の一斉解雇と合弁会社の休眠化

Q3       日本企業A社は、合弁会社C社が長期にわたって業績不振であり、これ以上経営を継続することが困難な状況になったことから、合弁会社C社を解散、清算させる方針となりましたが、中方パートナーである中国企業B社は、これに反対しており、交渉を重ねたものの折り合いがつきそうにありません。そこで、日本企業A社は、合弁会社C社の資産がこれ以上流出するのを防ぐため、現在在籍している従業員約70名を一斉解雇しようと考えています。中国企業B社は、これに反対してくることが予想されますが、従業員の一斉解雇は、董事会の多数決で決定することができると考えています。このような理解で間違いありませんか。

また従業員を一斉解雇した場合、合弁会社C社の操業は事実上不可能となりますが、このような場合、合弁会社C社は、法的にはどのようになるのでしょうか。

なお、日本企業A社と中国企業B社との出資比率は、7対3であり、日本企業A社が3名の董事を派遣しているのに対し、中国法人B社は2名の董事を派遣しています。

A3         合弁法及び合弁法実施条例においては、従業員の一斉解雇は董事会の全会一致の決議事項とはなっていません。したがって、定款に従って決議の要件が決まることになります。合弁会社C社の定款においても、従業員の一斉解雇が董事会の全会一致の決議事項となっていなければ、ご指摘の通り、董事会の多数決で処理できると考えます。もっとも、従業員を一斉解雇するには、従業員との関係で、一定の制限があります。

従業員の一斉解雇により、操業は事実上不可能となりますので、合弁会社C社は、事実上休眠状態となります。休眠状態が6カ月以上続くと営業許可証が取り消される可能性がありますが、当該期間の経過によっても直ちに営業許可証が取り消されるわけではないというのが実情のようです。

1.経営に重大な困難な問題が生じた場合の従業員の一斉解雇

合弁法及び合弁法実施条例においては、従業員の一斉解雇は董事会の全会一致の決議事項とはされていない。したがって定款に従って、決議の要件が決まることになるが、通常定款においても、従業員の一斉解雇は董事会の全会一致の決議事項とはなっていない。そのため、従業員の一斉解雇については、清算解散とは異なり、董事会の多数決で議決することができる。もっとも、従業員を一斉解雇するには、従業員との関係で、一定の制限があるので、以下説明する。

まず、中華人民共和国労働法(以下「労働法」という)第27条第1項は、「雇用者は、破産に瀕して法定整理を行う期間にあり、または生産経営状況に重大な困難が生じて確実に人員の削減を必要とする場合、30日前までに労働組合又は従業員全員に対して状況を説明し、労働組合または従業員の意見を聴取しなければならず、労働行政部門に対して報告した後に人員の削減を行うことができる」と規定している。したがって、合弁会社は、「破産に瀕して法定整理を行う期間に」、ある場合や「生産経営状況に重大な困難が生じて確実に人員の削減を必要とする場合」には、人員を削減することができる。もっとも、1994年12月3日中国労働部により公布されて1995年1月1日より施行された「労働契約の違反及び解除に係わる経済的な補償規則」の関係規定によると、合弁会社は、退職させる従業員に対し、合弁会社における当該従業員の勤続年数に応じて、満1年ごとに1か月分の賃金に相当する経済補償金を支給しなければならない。

他方、労働法第23条は、「労働契約の期間満了又は当事者が約定した労働契約終了の条件が生じたときには、労働契約は、直ちに終了する」と規定している。したがって、期間満了などの場合は、経済補償金を支給することなく、当該従業員を雇い止めにすることができる。

したがって、いずれにしても経営を継続することが困難な状況であれば、従業員を一斉解雇(期間満了の場合は、正確には雇い止め)することは、理論的には可能である。

もっとも実務上、労使紛争の発生を未然に防止するために、以下のいくつかの点を注意したうえ、従業員を退職させる作業を適切に行うことが必要である。

①中方パートナー、現地の労働行政主管部門、合弁会社の全従業員あるいは労働組合代表に対し、前もって事情をよく説明してその理解を得ること

②合弁会社の清算解散について許可申請するとともに、従業員を退職させるための具体案を作成して、労働行政主管部門に許可申請して許可を得ること

③従業員の未払賃金、保険料及び中途解雇する場合は経済補償金を支払うこと

④一部の従業員を手配して、合弁会社の財産の保管や清算事務に協力させること

2.操業停止による休眠化

上述したとおり、外国側投資者が合弁会社の解散清算の意向を有していたとしても、中方パートナーとの間で合意できないか、または合意したとしても、原審査許可期間に対して申請した解散の許可がなかなか下りないという困難な場面に直面することが多く、このような場合には、中国の関連法律、法規及び合弁契約の関連規定に従って合弁会社の労働組合・従業員及び現地の労働行政管理当局に対して事情を説明して了承を得たうえ、全部または一部の従業員の解雇や一時帰休等の人員削減措置、あるいは休業措置をとることができる。全部または大部分の従業員についてこのような措置を取れば、合弁会社は、操業を停止せざるをえなくなり、このような状況となれば、合弁会社は事実上休眠状態になる。

休眠状態が6カ月以上続くと、会社登記管理条例第62条の規定により、合弁会社の営業許可証は工商行政管理局により取り消される可能性がある。もっとも、合弁事業の経緯や背景から考えると、現地の工商行政管理局が政府関係者の面子を立てるためにこれを無視するか、あるいは政府関係者が工商行政管理局に圧力をかけて営業許可証の取消を阻止するという可能性も否定できない。

中方パートナーや現地の政府関係者が合弁会社の解散を極力阻止し、中方パートナーが依然として合弁会社を存続させようとすれば、中方パートナー・政府関係者が確実に有効な措置を取らない限り、合弁会社が操業停止後も各種費用が引き続き発生し、時間の経過によって、最終的には債務超過となり、破産状態となる。

破産手続については、次回に譲ることにする。


連載記事「中国ビジネス・ローの最新実務Q&A」 (2000年1月-2011年8月掲載)のバックナンバーです。
本記事の内容は執筆当時のデータに基づいております。
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