(月刊 国際法務戦略 連載)

中国ビジネス・ローの最新実務Q A

第16回

対中輸出と中国における販売活動(その1)

黒田法律事務所    黒田 健二

黒須 克佳

Kenji Kuroda, Katsuyoshi Kurosu/Kuroda Law Offices

従来、外国企業による対中投資の大半は労働集約型、つまり中国の低額の労働力によって、低コストで製品を生産し、自国あるいはほかの国に輸出する形態であったが、近年、多くの外国企業の関心は、一大市場としての中国の潜在需要に集まりつつある。しかし、中国国内における販売業は未だに規制されており、中外合弁企業や独資企業等の外商投資企業は自社製品以外の製品を卸売り販売、小売り販売することができない。そのため外国企業が外商投資企業の生産した製品ではなく純粋な自社製品を中国で販売するには、中国国内のディストリビューターまたはライセンシーに販売活動を任せるしかないが、外国企業の希望を満たすような優秀なディストリビューター、ライセンシーを探し出すのは困難である。WTO加盟後は、販売業に対する規制も解禁されることになっているが、加盟後直ちに規制緩和されるとは思えない。そこで今回から、外国企業が現行の規制下で、中国における自社製品の販売活動をどのように合法的にコントロールするかという問題について、取り上げることとする。

  合弁会社による輸入販売

Q1       日本企業A社は、ある中国企業との合弁で合弁会社A´社を設立しました。合弁会社A´社はA社から技術援助、商標許諾を受け製品a´(A商標を使用。A商標の商標権者は日本企業A社)を製造、販売しています。他方日本企業A社は自ら製品a´よりも高度な先進技術を駆使した製品aを製造しており、世界各国で販売しています。中国における市場調査の結果、日本企業A社は製品aについても需要が高いと見込んでおり、製品aの中国における販売展開を検討しています。しかし製品aの製造技術については、合弁会社A´社にライセンスしたくないと考えています。そこで日本企業A社としては、製品aを中国に輸入し合弁会社A´社を販売店としてさらに中国国内の卸売業者、小売業者に販売しようとしています。このようなスキームは実行可能でしょうか。(図1参照)

A1         実行不可能です。一般に中外合弁会社は輸入販売業、卸売業を行うことはできず、自ら生産した製品でなければ中国国内で販売することはできません。合弁会社A´社の経営範囲も製品a´の製造、販売が主な事項となっているはずで、経営範囲を逸脱した業務を行うことはできませんので、結局、合弁会社A´社に製品aを販売させることはできません。また日本企業A社としては、a製品の輸入販売を経営範囲とする別会社を設立することもできません。

(図1)

この問題については、本連載の第7回「合弁契約の実務(その4)合弁会社による輸入販売の可否」ですでに触れたので、詳細については参照されたい。

中国の現行法上、設立が認められる合弁会社は、原則として生産型企業のみである(独資企業についても同様である)ため、外国企業が自社の有する高度な技術を使用した製品(あるいは著名ブランドを使用した商品)を中国で販売しようとする際は、ディストリビューター、ライセンシーを指定して販売展開させるか、または合弁会社あるいは独資企業を設立し、技術、商標をライセンスして当該商品を製造させて販売することとなる。

しかし、冒頭で述べたように、中国において外国企業の希望を満たすようなプロモーションに関するノウハウを有するディストリビューターや、高度な製造技術を有するライセンシーを探し出すことは容易ではない。また、上記のQ&Aのように合弁会社に高度な先進技術をライセンスすることを好まない場合があるし、また独資企業については、取り扱うことができる製品に限界がある。

そのために、外国企業が自社製品の中国における販売をコントロールするには、どのような方法があるかに関心を寄せる企業が多い。

  合弁会社による生産工程の全部委託

Q2       日本企業A社は、経営範囲の問題を回避するため、合弁会社A´社から高い製造技術を有する日系合弁会社B社に製品aの生産を委託して、合弁会社A´社が自社製品としてA商標を使用して販売するというスキームを検討しています。

このスキームは、実行可能でしょうか。あるいはやはりこの場合でも合弁会社A´社の経営範囲を逸脱しますか。なお、生産委託による製品aの販売による売上は、合弁が社A´社の総売上の10%程度とする予定です。(図2参照)

(図2)

A2         確かにこのスキームによる場合は、製品aの実際の生産は日系合弁会社B社が行いますが、形式上は合弁会社A´社が製造者となりますので、経営範囲を逸脱しないようにも思えますし、また製品aの売上は合弁会社A´社の総売上の10%程度となる見込みであれば、全体に占める割合が低いので、脱法行為とならないようにも思えます。しかし、実態としては合弁会社A´社は製品aについては完全に販売会社として機能することになりますので、当局から脱法行為であるとして無効とされ、行政罰を科される恐れがあります。したがって事前に交渉行政管理部門の許可を得るべきであると考えます。

この問題は、Q1の問題と比べ微妙である。実務上、合弁会社も生産工程の一部を外部に委託することは認められている。たとえば、全生産工程のうちほとんどの工程を外部に委託し、あるいは日方合弁当事者がほとんどの生産肯定を終了した中間品を合弁会社に供給して、合弁会社が行うのは全生産工程のうちの一部に過ぎないというケースも実際には多く存在する。

しかし、本件では合弁会社A´社は売上高にして全体の90%については、実質的に自ら生産しているものの、製品aの生産についてはすべて合弁会社B社が行うというケースである。

本件のようなケースでは、合弁会社が行う業務は実質的には販売業務である。そのためこの点を工商行政管理部門の許可を得ずに行い、のちにこれが発覚した場合、経営範囲を逸脱するものとして摘発される恐れがある。したがって、このようなスキームを実行しようとする場合は、事前に工商行政管理部門の許可を取得するべきである。

以前同種の問題について中国の複数の弁護士に意見を求めたことがあるが、筆者らと同種の見解であった。

なお、工商行政管理部門の許可取得の可能性については、当該合弁会社に対する需要の急激な増加により生産能力が不足するなどの場合に、一時的にかつ一定の限度で外部への生産委託が許可される可能性はあるが、一般的、長期的な生産委託の許可を取得するのは困難であるというのが同弁護士らの意見であった。

  私営企業による日本製品の販売統括

Q3       製品aの中国における販売を合弁会社A´社に行わせることもできないので、日本企業A社は次のように日本企業A社の中国人顧問C氏を出資者として販売会社D社を設立し製品aの販売を統括させることを計画しています。すなわち日本企業A社の中国人顧問C氏の名義でD社の設立登記の手続を行い、D社の董事長にはC氏に就任していただき、他方、D社の実質的コントロールは、日本企業A社が直接行うか、または合弁会社A´社を通じて行うこととしたいと考えています。このように中国人個人の名義で中国に販売会社を設立することは可能ですか。

A3         私営企業暫定条例の規定にしたがって、C氏を出資者として同条例に規定された私営企業を設立することが考えられます。

私営企業であれば、他社製品の販売許可取得の可能性があり、かつ一般的には、比較的容易です。ただC氏1人のみがD社に出資するのであれば、D社は独資企業となるので、C氏はD社の債務について無限責任を負わなければなりません。それ故、日本企業A社は事実上、D社の債務について無限責任を負担することになります。私営企業暫定条例上の有限責任会社については、文字通り有限責任ですが、二人以上の出資者が必要となります。

1            「中華人民共和国私営企業暫定条例」(以下、「私営企業暫定条例」という)は、個人が出資者となる私営企業について規定している。私営企業暫定条例第2条は、「この条例において私営企業とは、企業の資産が個人の所有に属し、かつ雇用労働者が8名以上の営利性の経済組織をいう」と定義している。

私営企業暫定条例第6条によると、私営企業には次の3つの形態がある。

①独資企業

②パートナーシップ企業

③有限責任会社

このうち①独資企業とは、文字通り1人が出資して経営する企業をいい、独資企業の出資者は会社の債務について無限責任を負うとされている(私営企業暫定条例第7条)。上記のQ&AのC氏1人のみがD社に出資するのであれば、D社は独資企業となるから、C氏は、D社の債務について無限責任を負わなければならない。

他方、③有限責任会社については、出資者は出資額の限度で、会社の債務について責任を負うものとされている(私営企業暫定条例第9条第1項)が、出資者は2人以上30人以下とされている(同条第2項第3号)。したがって上記Q&Aの場合には、C氏以外にさらに1名出資者を探し出す必要がある。

なお、②パートナーシップ企業は、2人以上が出資し、共同経営する企業で、出資者が会社の債務について無限責任を負うとされている。

2            また、私営企業暫定条例により、私営企業の出資者の資格についても一定の制限が加えられている。

私営企業暫定条例第11条は、「(1)農村の村民;(2)都市部の待業人員;(3)個人工商業経営者;(4)辞職、辞退の者;(5)国の法律、法規及び政策により認められた離職、休養もしくは定年退職の者及びその他の者」と規定している。

したがって、現にほかの企業の顧問や総経理、従業員となっているものは原則として私営企業の出資者となる資格を有さない。(注1)もっとも、現実にはこの出資者の資格要件は厳格には守られていないようである。

3            私営企業暫定条例に基づく独資企業を設立する場合には、以下のようなメリットがある。

①国内販売(卸売り、小売り)を行うための許可が比較的取得しやすい。

②登録資本の最低限度額について制限がない。

③1人で設立することができるため、その人物さえコントロールすることができれば、国内販売事業を完全にコントロールすることができる。

他方、以下のようなデメリットが考えられる。

①企業の資産は出資者個人の所有である(私営企業暫定条例第2条)であるため、出資者が死亡した場合、企業の存続が問題となる。(注2)そのため企業としての信用が得にくい。

②企業の出資者は自然人であり、かつほかの企業の顧問、総経理、従業員等でないことが条件となる。

③出資者は企業の債務に対して無限責任を負う義務がある。

Q4       私営企業D社は、対外貿易権及び国内販売に関する営業許可を取得することは可能ですか。

A4         まず、対外貿易権は、中国では厳しく制限されており、私営企業が取得するのは非常に困難です。

他方、国内販売に関する営業許可については、比較的容易に取得することができます。

中国では、依然として輸出入貿易は厳しく制限、管理されている業務の一つであり、上記のQ&AのD社のような私営企業が対外貿易権を取得することは一般的には難しい。

対外貿易法第9条は、次のように規定している。

貨物の輸出入と技術の輸出入の対外貿易経営を行う場合は、次に掲げる条件を備え、国務院の対外経済貿易主管部門の許可を得なければならない。

(1)自らの名称及び機関があること

(2)対外貿易の明確な経営範囲があること

(3)対外貿易業務の経営に必要な場所と資金及び専門人員を備えていること

(4)他人に委託して行った輸出入業務が規定の実績に達しているか、または必要な輸出入供給源を持っていること

以前に中国の弁護士を通じて上海市の対外経済貿易委員会の担当官に問い合わせたところ、実務では対外貿易権を取得できるのは1つの区、市につき1社から2社程度であるとの回答であった(もちろん地方によって状況は異なると思うが)ので、資格要件の問題だけでなく、数量規制もされていることになる。

対外貿易権を有しない中国の企業が輸入しようとするときは、対外貿易権を有する貿易会社に輸入業務を委託することになる。

Q5       合弁会社A´社は、私営企業D社の出資者となることができますか。もし可能であれば、この場合も国内販売に関する営業許可を取得することは可能ですか。

A5     合弁会社A´社は、私営企業D社の出資者となることができません。私営企業の出資者は、自然人でなければならないものとされています。

上記の私営企業暫定条例第11条の私営企業の出資者の資格要件からも明らかなように、私営企業の出資者は、自然人でなければならないものとされている。外商投資企業も法人であるため、私営企業の出資者となることができない。

しかし会社法上の有限責任会社であれば、外商投資企業は出資者となることが可能である。そこで次回は、外商投資企業が会社法上の有限責任会社の出資者となるための要件や私営企業と比較した場合のメリット、デメリットについて取り上げることとする。

1.停薪留職(給料の支払を停止されながら従来の雇用関係が継続していること)の科学技術者を除く。また他企業の顧問であるものの実際には法律上定められている労働雇用関係がない者は、私営企業の出資者となることができる。

2.出資者が死亡した場合、私営企業の財産は、相続の対象となる(私営企業暫定条例第20条)。


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