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第67回

中国のアンチダンピング制度(1)

 

 

黒田法律事務所

萱野純子、藤田大樹

 

 中国では、1997年に初めてアンチダンピング調査が開始されて以降、主に化学製品等の素材製品を中心にこれまで40件以上にわたりアンチダンピング調査が行われてきた。特に、2001年12月に中国がWTOに加盟してからは、関連法規の整備とともに、30件以上の調査が立件されている。そして、昨今の中国では、あらゆる分野にわたり国内産業が力をつけてきており、これら国内産業を保護するために、今後は素材製品にとどまらず、様々な分野の製品についてアンチダンピング調査がなされることが予想される。そこで、中国のアンチダンピング制度に関して検討していくことにしたい。

 

中国におけるアンチダンピングの意義

 

Q1:中国におけるアンチダンピング制度は、その概念上諸外国と大きな違いがあるでしょうか。その概略を教えてください。

 

A1:中国のアンチダンピング調査に関する主な法令である「アンチダンピング条例」及び「アンチダンピング産業損害調査規定」等の関連法令は、WTOのアンチダンピングに関する協定等を参考にして規定されているため、中国のアンチダンピング制度自体が諸外国と大きく異なるといったことはありません。この点、中国のアンチダンピング制度においては、輸入製品がダンピング方式により中国の市場に導入され、かつそれによって中国国内ですでに確立された産業に実質的損害をもたらす場合等には、商務部がアンチダンピング調査を行い、アンチダンピング措置を講じるものとされています。

   なお、アンチダンピングの調査・決定は商務部が行うものとされていますが、ダンピングマージンの計算に関する部分の調査・決定は、商務部輸出入公平貿易局が行い、損害部分の調査・決定は、商務部産業損害調査局が行っています。

 

 中国におけるアンチダンピング調査に関する基本的な法令としては、「アンチダンピング条例」(2002年1月1日施行、2004年3月31日改正、同年6月1日改正法施行。以下「AD条例」という)及び「アンチダンピング産業損害調査規定」(2003年11月17日施行。以下「損害規定」という)が挙げられるが、これらの関連法令は、WTOのアンチダンピングルールである「1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定」を参考に規定されているため、中国においてもWTOのルールに従ったアンチダンピング調査制度が法令上は整備されているということができる。

 そして、AD条例第2条は、「輸入製品がダンピング方式により中華人民共和国の市場に導入され、かつそれによって中国国内ですでに確立された産業に実質的損害をもたらし、もしくは実質的な損害のおそれを生じさせ、又は国内産業の確立を実質的に阻害する場合、本条例の規定に従って調査を行い、アンチダンピング措置を講じる。」と規定している。従って、①通常の商取引において、輸入製品がその正常価額を下回る輸出価額で中華人民共和国に導入されており(ダンピングの存在。AD条例第3条第1項参照)、②そのダンピングによって(因果関係)③中国の国内産業に実質的な損害等を与えたと認定された場合(損害の発生)、最終決定で認定したダンピング幅(ダンピングマージン)を超えない範囲で、原則として5年間ダンピング防止税が課税されることになる(AD条例第37条、第42条、第48条)。

 ただ、制度の運用面においては、調査官ごと、または案件ごとに一貫性のない異なった取り扱いがなされることもあるため注意を要するが、その点については、今後の説明の中でも適宜触れることにする。

 なお、上記の3要件のうち、調査の中心となるのは①ダンピングの存在③損害の発生の2要件であり、従来は前者の調査・決定を対外貿易経済合作部(MOFTEC)が行い、後者の調査・決定を国家経済貿易委員会(SETC)が行ってきたが、現在は国務院の組織改革により、両者とも商務部にまとめられ(AD条例第3条第2項)、前者を輸出入公平貿易局が、後者を産業損害調査局が、その調査・決定につき担当している。

 

中国のアンチダンピング調査の流れ

 

Q2:日本企業A社は、最近、A社が製造して中国に輸出しているX製品について、中国商務部がアンチダンピング調査を開始するとの噂を聞きつけました。中国におけるアンチダンピング調査がどのように開始され、どのように終了するのか、その手続上の流れについて教えてください。

 

A2:中国におけるアンチダンピング調査が開始される場合、通常、国内産業企業が商務部に対してアンチダンピング調査を申請することが前提となります。そして、それを受けた商務部は、審査のうえ立件調査を行うかどうかを決定しますが、立件調査を行うとの決定をした場合には立件公告を行い、正式にアンチダンピング調査が開始されることになります。

   立件公告がなされ、アンチダンピング調査が開始された場合、応訴しようとする利害関係者は、一定の期間内に商務部に対して応訴登記をしなければなりません。そして、この応訴登記が完了すると、商務部から応訴企業に対して質問状が送付され、応訴企業は、原則として質問状発送日より37日以内に質問状に対する回答書を作成し、商務部に提出しなければなりません。さらに、補充質問状が発せられることもありますが、その場合には補充質問状に対する回答書も作成し提出しなければなりません。これら応訴企業が提出した回答書の検討が終わると、商務部が仮決定の公告を行います。その後、現地調査の実施、場合によっては公聴会の開催等の継続調査がなされ、最終決定の公告を行います。

 

 中国におけるアンチダンピング調査は、通常、①調査申請、②立件公告、③応訴登記、④質問状等の送付、⑤回答書の作成・提出、⑥仮決定、⑦継続調査(現地調査・公聴会)、⑧最終決定といった順序で行われていく。

 なお、アンチダンピング調査は、立件調査決定が公告された日から12ヶ月以内に終了しなければならないが、特殊な状況においては、6ヶ月を超えない限度で延長することができ(AD条例第26条)、これまで多くの案件で期間延長が認められてきた。

 

(1)国内産業企業による調査申請

 

 中国のアンチダンピング調査においては、商務部が職権により立件調査を決定することも規定上は可能であるが(AD条例第18条)、これまでそのようなケースはなく、商務部の調査開始の決定に先立ち、国内産業又は国内産業を代表する自然人、法人及び関連組織(以下「申請人」という)により、商務部に対してアンチダンピング調査の書面による申請が提出されたうえで(AD条例第13条)、立件調査へと至っている。

 

(2)商務部による立件公告

 

 商務部は、申請人が提出した申請書及び関連証拠を受領してから60日以内に審査を行い、立件調査を行うか又は行わないかについて決定しなければならない(AD条例第16条)。もっとも、申請書等の受領日は商務部が決定するため、実際の期間は60日よりも長くなっているのが現状である。

 また、国内産業企業による申請の提出があると、業界内でも当該アンチダンピング調査に関して噂が流れたりもするが、その真偽が正式に判明するのは、商務部が立件公告の前(通常、約1週間前)に、関連輸出国への政府(通常は在北京大使館)に対して通知を行うことによってである(AD条例第16条第2項)。

 そして、商務部は、立件調査を決定した場合、当該決定について公告し、利害関係者に通知すると同時に、申請人が提出した申請書を被調査製品輸出国の政府に提出しなければならない(AD条例第19条第2項)。

 

(3)被調査企業による応訴登記

 

 ダンピングマージン部分の質問状調査に関して規定したアンチダンピング質問状調査暫定施行規則(以下「質問状規則」という)第6条によれば、「被調査対象国の生産者等はアンチダンピング立件の日から20日以内に、立件公告の要求に従い、対外貿易経済合作部(現・商務部)に対し応訴を申し込まなければならない」旨規定され、産業損害論部分の調査に関して規定した損害規定第19条によれば、「利害関係者は、アンチダンピング調査立件公告の日から20日以内に、商務部に対し応訴申請を提出して応訴登記をしなければならない」旨規定されている。 

 これらの規定を受けて、最近の立件公告書では、当該公告を公布した日より20日以内に、利害関係者は、ダンピングマージンの調査については輸出入公平貿易局に対し、産業損害調査については産業損害調査局に対し応訴登記することができ、期限内に応訴登記をしなかった場合、商務部はその提出する関連資料の受領を拒絶し、かつ把握している現有資料に基づき裁定することができる旨記載されている。

 

(4)商務部による質問状等の送付

 

 応訴登記が完了すると商務部が質問状を送付することになる。ダンピングの調査質問状は、応訴登記締切の日から10業務日以内に応訴企業に対し発送しなければならず(質問状規則第8条)、産業損害調査の質問状も、特に法規定があるわけではないが、応訴登記締切の日から10業務日以内に送付されている。

 

(5)応訴企業による回答書の作成・提出

 

 ダンピングマージン部分の調査質問状は、質問状発送の日から37日以内に輸出入公平貿易局に送付しなければならないが(質問状規則第17条)、提出期限7日前までに延長申請を行うことにより、原則として14日を超えない限度で延長が認められる(質問状規則第18条)。実務上、このような延長申請が認められることが多いが、商務部は延長申請を認めなければならない義務はないため、延長が認められるか否かは必ずしも定かではない上、認められたとしても延長日数は個別の案件によって異なるのが実情である

 一方、産業損害論部分の調査質問状は、質問状所定の方式及び期間に従い回答書を返送しなければならないが(損害規定第26条)、一般に産業損害論部分の調査質問状においては、ダンピングマージン部分の調査質問状の提出期限と同程度の期限が定められるのが通常である。また、産業損害論部分の調査質問状についても、提出期限7日前までに延長申請を提出すれば延長できると規定されており(損害規定第26条)、実務上の取扱もダンピングマージンの調査質問状の場合とほぼ同様である。

 もっとも、産業損害調査にあっては、質問状の提出よりもその後に続く国ごとの応訴業界全体による無損害抗弁意見書の作成・提出(損害規定第29条参照)の方が重要となる場合が多い。当該意見書については提出時期の定めはないものの、調査機関が検討に要する時間等を考慮しつつ仮決定の数ヶ月前には提出するのが通常である。また、この無損害抗弁意見書提出後に公聴会を開催する場合もある(損害規定第30条参照)。

 なお、提出した回答書に疑問点・不明点等がある場合、調査機関から追加して補充調査質問状が発せられることもあるが、その場合には補充調査質問状に対する回答書も作成しなければならない。補充調査質問状の発行時期・回数等には特に制限はなく、数回にわたり質問状が発せられる場合もある。

 

(6)商務部による仮決定公告

 

 商務部は、回答書等の検討終了後、当該調査結果に基づき、ダンピング、損害及び両者間の因果関係が成立するかにつき仮決定を行い、かつ公告することになる(AD条例第24条)。

 そして、仮決定において、ダンピングが成立し、かつそれにより国内産業に損害をもたらしたと認定された場合、暫定的アンチダンピング税の徴収などの暫定的措置が採られるのが通常である(AD条例第28条参照)。

 なお、仮決定書には、通常、「利害関係者は、当該公告公布の日から20日以内に、商務部に対し書面による評論を提出し、かつ関連証拠を添付することができ、商務部は法に従いこれを考慮する」と規定されており、各応訴企業その他の利害関係者は、仮決定に対して反論書を提出することにより、ダンピングマージンの計算方法や損害の認定方法に対して問題点を指摘し反論することが可能である。

 

(7)商務部による継続調査 (現地調査・公聴会)

 

 商務部が行う調査方法としては、質問状の方式による他、公聴会、現地調査といった方式も認められている(AD条例第20条)。これらの実施時期については特に法令上定めがないが、ダンピングマージン又は国内産業の損害等についての応訴企業側の主張及び提出資料の真実性、正確性及び完全性を裏付けることを主目的として行われるものであるため、質問状及び補充質問状に対する回答により一応の主張及び証拠資料の提出を終えた仮決定前後に行われるのが通常である。

 なお、現地調査については、仮決定前後に、商務部から現地調査の受け入れに同意するか否かを確認するための通知書が各応訴企業に送付され、当該応訴企業が受け入れに同意すれば現地調査が行われることになる。

 

(8)商務部による最終決定公告

 

 商務部は、仮決定後、現地調査等により、ダンピング、ダンピングマージン、損害及び損害の程度について調査を続行し、かつ調査結果に基づいて最終決定をし、公告しなければならない(AD条例第25条第1項)。

 最終決定により、アンチダンピング措置の内容が確定し、最終決定公告書に規定された日からアンチダンピング税が賦課されることになる。


~中国におけるアンチダンピング調査のフローチャート~

 

 

 

 


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