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第82回

中国の不正競争防止法(1)

黒田法律事務所

萱野純子、藤田大樹

 中国でのビジネスが拡大するにつれ、ライバル会社等から不正な手段を用いて会社の権益を侵害されることも増えている。そこで、今回は、そのような不正な手段を用いた侵害行為を規制する「中華人民共和国反不正当競争法」(以下「反不正当競争法」という)につき検討することにしたい。

 第1回目となる今回は、反不正当競争法が規定する不正競争行為の種類及び侵害行為に対する法的責任追求手段について触れることにし、次回からは、今年2007年に入って最高人民法院が公布した「不正競争民事事件の審理に関する若干の法律適用問題に関する解釈」の紹介を通じて、不正競争行為の内、商標・商号の不正使用等による取引行為、虚偽宣伝行為及び営業秘密の侵害行為の各不正競争行為について特に詳細に検討することにする。

反不正当競争法が規定する不正競争行為の種類

Q1 中国では、他の事業者の権益等を侵害する不正競争行為については反不正当競争法で規制されているとのことですが、同法は、具体的にどのような行為を不正競争行為として規制していますか。

A1 反不正当競争法は、①商標・商号の不正使用等による取引、②虚偽宣伝、③営業秘密の侵害、④信用誹謗のように、日本の不正競争防止法上の不正競争行為に相当する行為を、不正競争行為として規制しています。また、①不当廉売、②抱き合わせ販売、③不当な景品付販売、④入札妨害といった、日本の独占禁止法上の「不公正な取引方法」等に相当する行為についても不正競争行為として規制しています。さらに、その他特殊な競争制限行為についても不正競争行為として規制しています。

 反不正当競争法にいう不正競争行為とは、商品販売または営利サービスに従事する法人、その他の経済組織及び個人(以下「事業者」という)が、反不正当競争法に違反し、他の事業者の合法的な権益に損害を与え、社会の経済秩序を乱す行為をいう(反不正当競争法第2条)。

 反不正当競争法は、1993年9月2日に公布され、同年12月1日に施行されたが、同法は、①日本の不正競争防止法上の不正競争行為に相当する行為だけではなく、②日本の独占禁止法上の「不公正な取引方法」等に相当する行為及び③その他の特殊な競争制限行為を不正競争行為として規制している。

(1)日本の不正競争防止法上の不正競争行為に相当する行為

① 商標・商号の不正使用等による取引行為(反不正当競争法第5条)

 本条は、事業者が他人の登録商標の盗用や他人の企業名称等の無断使用等の手段を用いて市場取引に従事し、競争相手に損害を与えることを禁止している。具体的内容については、次回以降に詳述する。

② 虚偽宣伝行為(反不正当競争法第9条)

 本条は、事業者が広告またはその他の手段を用いて、商品の品質等について人を誤認させる虚偽の宣伝行為を行うこと、広告事業者が虚偽の広告の代理等を行うことを禁止している。具体的内容については、次回以降に詳述する。

③ 営業秘密の侵害行為(反不正当競争法第10条)

 本条は、窃盗、利益誘導、脅迫等の不正な手段により権利者の営業秘密を取得する等の営業秘密の侵害行為を禁止している。具体的内容については、次回以降に詳述する。

④ 信用誹謗行為(反不正当競争法第14条)

 本条は、「事業者は虚偽の事実を捏造し、流布することにより、競争相手の商業上の信用、商品の名声に損害を与えてはならない」として信用誹謗行為を禁止している。

 同条で禁止される信用誹謗行為としては、例えば以下のような行為が挙げられる。

(i) 公開書簡の配布、記者会見の開催、比較広告の掲載等を利用して、競争相手の商業上の信用、商品の評判に損害を与える虚偽の事実をでっち上げ、流布する行為

(ii) 対外的な経営活動において、業務上の顧客及び消費者に対して、競争相手が販売している商品の品質に問題があると宣伝、流布し、当該商品に対する公衆の信頼を失わせ、当該商品を自己の同種の商品に代替させる行為

(iii) 商品の説明書中において、競争相手の同種の商品を非難する行為

(iv) 消費者の名義で関連の経済監督管理部門に対して、競争相手の製品の品質やサービスの質が低く、消費者の権益を侵害している等の虚偽の申立を行い、競争相手に対する社会からのクレームを増加させ、その商業上の信用を毀損する行為

(2)日本の独占禁止法上の「不公正な取引方法」等に相当する行為

① 不当廉売行為(反不正当競争法第11条)

 本条は、「事業者は競争相手を排除する目的で、原価より低い価格で商品を販売してはならない」として不当廉売行為を禁止している。

 もっとも、以下の場合は、不正競争行為に該当しないとされている。

(i) 生きている商品を販売する場合

(ii) 有効期限が間もなく切れる商品またはその他在庫商品を処分する場合

(iii) 季節的要因により価格引下げを行う場合

(iv) 債務の完済、転業、休業のために価格を引下げ、商品を販売する場合

② 抱合せ販売行為等(反不正当競争法第12条)

 本条は、「事業者が商品を販売するときに、購入者の意思に反して商品を抱合せ販売し、またはその他の不合理な条件を付してはならない」として抱合せ販売行為またはその他不合理な条件を付した取引を禁止している。

 不合理な条件付取引としては、例えば以下のような行為が挙げられる。

(i) メーカーが取次販売店に対し、自らが設定した商品価格に従って販売することを要求する行為

(ii) メーカーが取次販売店に対し、商品販売の地理的範囲を限定する行為

(iii) メーカーが取次販売店に対し、ある特定の顧客にだけ商品を販売するよう要求する行為

③ 不当な景品付き販売行為(反不正当競争法第13条)

 本条は、以下の景品付販売行為を禁止している。

(i) 景品付きと偽りまたは故意に内定者が当選するように仕組んだ詐欺的な方法での景品付販売行為

(ii) 景品付販売行為の方法を利用して低品質高価格の商品を売り捌く行為

(iii) 景品の最高額が5000元を超える抽選式景品付販売行為

④ 談合行為等入札妨害行為(反不正当競争法第15条)

 本条は、入札者間において入札事項に関し談合し、価格を引き上げまたは価格を引き下げる行為、及び入札募集者と入札者が結託して、競争相手の公正な競争を排除する行為を禁止している。

 また、当該行為の結果行われた入札は無効とされている(反不正当競争法第27条)。

 なお、2007年8月30日、全国人民代表大会常務委員会において、「独占禁止法案」が採択されたため(施行は2008年8月1日の予定)、今後は、同法と上記の不正競争行為との関係にも注意しておく必要がある。

(3)その他の特殊な競争制限行為

① 公共企業の競争制限行為(反不正当競争法第6条)

 本条は、「公共企業または法により独占的な地位を占めているその他の事業者は、他人にその指定する事業者の商品を購入するよう限定することにより、他の事業者の公平な競争を排除してはならない。」と規定している。

 本条にいう「公共企業」としては、例えば、水道、電気、ガス等を供給する業種が挙げられる。

 本条にいう「法により独占的な地位を占めているその他の事業者」とは、公共企業以外で法律法規、規則またはその他の合法的な規範性のある通達等により、特定の商品或いはサービスを独占して経営する資格を有する事業者をいい、例えば、たばこを専売する企業等が挙げられる。

② 政府が行政権力を濫用し、競争を制限する行為(反不正当競争法第7条)

 本条は、政府及びその所属部門が、行政権力を濫用し、以下の行為を行うことを禁止している。

(i) 他人にその指定する事業者の商品を購入するよう限定することにより、他の事業者の正当な経営活動を制限する行為

(ii) 他地域の商品が当該地域の市場に入ってくることまたは当該地域の商品を他地域の市場に入れることを制限する行為

③ 商業上の贈賄行為(反不正当競争法第8条)

 本条第1項は、「事業者は、財産またはその他の手段で贈賄行為を行うことにより商品を販売または購入してはならない。帳簿に記帳せずに非公然に相手側または個人にリベートを贈ることは、贈賄行為として処分する。相手側または個人から、帳簿に記帳することなく非公然にリベートを受け取ることは収賄行為として処分する。」として商業上の贈賄行為を禁止している。

 本条にいう「リベート」とは、事業者が商品を販売する場合に帳簿に記帳せず、非公然に授受する現金、実物、またはその他の方法で相手側の組織または個人に一定の比率で商品の代金を払い戻すことをいう。

 一方で、本条第2項は、「事業者は商品を販売または購入する場合には、明示的方法で相手側に対して値引きすることができ、仲介人に手数料を支払うことができる。事業者が相手側に値引きをし、仲介人に手数料を支払うときは、必ず事実どおりに記帳しなければならない。値引き、手数料の支払いを受けた事業者は、必ず事実どおりに記帳しなければならない。」として、公然と行う値引きまたは手数料支払いについては認めている。

不正競争行為による侵害に対する法的救済手段

Q2 外商投資企業A社は、調査の結果、中国企業B社が、A社の従業員に報酬を渡して、A社の営業秘密を盗ませるといった不正な手段により、A社の営業秘密を入手し利用していることを知りました。A社は、反不正当競争法上、当該B社の営業秘密侵害行為に対して、どのような法的手段により責任を追及していくことができるでしょうか。

A2 A社は、B社の営業秘密侵害行為により損害を受けた場合は、B社に対して当該損害の賠償及び当該侵害行為に要した適正な調査費用の支払いを求め人民法院に訴訟を提起することができます。また、A社は、監督検査部門に対し、B社の営業秘密侵害行為に対して停止を命じるよう要求し、また、行政処分として、1万元以上20万元以下の過料を科すよう要求することができます。

 反不正当競争法上、不正競争行為に対して責任を追及するための法的手段としては、①民事的責任の追及、②行政的責任の追及及び③刑事的責任の追及が考えられる。

(1)民事的責任の追及

 反不正当競争法第20条第1項は、「事業者が、本法の定めに違反し、侵害を受けた事業者に損害をもたらした場合は、損害賠償の責任を負わなければならない」と規定し、権利侵害者の民事上の損害賠償責任を明確にしている。そして、その追及のために、権利侵害を受けた事業者は、これら損害の賠償及び調査費用の支払いを求めて人民法院に訴訟を提起することができる旨、明確にしている(同条第2項)。

 なお、当該損害額の計算が困難な場合の賠償額について、「権利侵害者が権利侵害期間に権利侵害によって得た利益とする」として、損害額の立証を緩和しているほか、「侵害を受けた事業者がその合法的な権利を侵害した不正競争行為を調査するために支払った適正な費用」は権利侵害者が負担しなければならない(反不正当競争法第20条第1項)。

(2)行政的責任の追及

 県級以上の監督検査部門は、不正競争行為に対して、監督検査を行うことができ(反不正当競争法第16条)、必要に応じて行政罰を科すことができる(反不正当競争法第21条ないし第28条、第30条及び第31条)。

 従って、不正競争行為による被害者は、監督検査部門に通報し、不正競争行為に対する行政罰を要求することにより権利侵害者の責任を追及することができる。

 なお、監督検査部門は、原則として、工商行政管理部門であるが、例えば食品衛生、物価等を管理監督する行政部門等、業種性・専門性のあるその他の行政機関が担当する場合もある(反不正当競争法第3条第2項)。

 中国の反不正当競争法が規定する行政罰の方法には主に以下の方法がある。

① 違法行為の停止命令及び侵害行為の影響除去の命令

 不正競争行為が行われている場合、監督検査部門は、当該違法行為の停止を命じなければならない(反不正当競争法第21条第2項、第22条、第23条、第24条第1項、第25条及び第26条)。また、虚偽宣伝行為に対しては、違法行為の停止だけでなく、その影響の除去も命じなければならない(反不正当競争法第24条第1項)。

② 違法所得の没収

 不正競争行為により違法所得が生じた場合、監督検査部門は、当該違法所得を没収しなければならない。具体的には、違法所得の没収は、著名商品の名称等の無断使用行為(反不正当競争法第21条第2項)、商業上の贈賄行為(同法第22条)、公共企業の競争制限行為(同法第23条)、広告事業者による虚偽の広告代理行為(同法第24条第2項)及び政府が行政権力を濫用し、競争を制限する行為(同法第30条)等に関連して発生した違法所得に対して行われる。

③ 過料

 不正競争行為が行われた場合、監督検査部門は、不正競争行為の種類に応じて以下の金額の範囲で、情状に基づき過料による行政罰を科することができる。

(i) 著名商品の名称等の無断使用行為(反不正当競争法第21条第2項):違法所得と同額以上3倍以下

(ii) 商業上の贈賄行為(同法第22条)、虚偽宣伝行為(同法第24条第1項)、営業秘密の侵害行為(同法第25条)及び談合行為等入札妨害行為(同法第27条):1万元以上20万元以下

(iii) 公共企業の競争制限行為(第23条):5万元以上20万元以下

(iv) 不当な景品付き販売行為(第26条):1万元以上10万元以下

④ 営業許可証の取消

 著名商品の名称等の無断使用行為が行われ、情状が重大な場合、監督検査部門は、営業許可証を取り消すことができる(反不正当競争法第21条第2項)。

(3)刑事的責任の追及

 著名商品の名称等の無断使用行為(反不正当競争法第21条第2項)または商業上の贈賄行為(同法第22条)が行われ、当該行為が犯罪を構成する場合は、法に従い刑事責任が追及される。


連載記事「中国ビジネス・ローの最新実務Q&A」 (2000年1月-2011年8月掲載)のバックナンバーです。
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