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第87回

中国の倒産法(1)

黒田法律事務所

萱野純子、藤田大樹

 中国においては、改革開放以来、市場経済国に不可欠な各種法令の整備が徐々に進められてきたが、会社の破産、再建といった倒産関連法規の整備は未だ不十分な状態であった。しかし、健全な市場経済化を推し進めるためには、財務状態の悪化した企業を市場から撤退させる必要があり、また、中国政府が主導する国有企業改革をスムーズに行うためにも、統一された現代的な倒産関連法規の整備が急がれていた。そのような状況の中、最近、ようやく新しい倒産法規である「中華人民共和国企業破産法」(以下「新破産法」という)が公布・施行されたため、今後は、企業の破産、再建それらに伴うM&A等の増大が予想されている。外国企業としても、自社の中国現地法人だけではなく、その取引先等に破産、再建等の事態が発生する可能性も増大したことから、新破産法の内容についても事前に検討しておくことが望ましい。そこで、本稿から数回にわたり新破産法について採り上げることにしたい。

新破産法の概略

Q1 中国において新破産法が施行されたと聞きましたが、同法は外商投資企業に対しても適用されるのでしょうか。また、同法ではどのような内容が規定されているのでしょうか。その概略について教えてください。

A1 新破産法は外商投資企業に対しても適用されます。また、新破産法は、会社の破産手続に関して、管財人の規定を新たに設ける等詳細な規定を置いている他、会社の再建型倒産手続に関しても、「更生」及び「和議」の制度を置き、その手続について詳細に規定しています。

(1)新破産法制定の経緯

 中国における倒産関連法規としては、1988年11月から施行されている「中華人民共和国企業破産法(試行)」(以下「旧破産法」という)がその主なものであった。

 しかし、旧破産法は、全人民所有の国有企業にのみ適用されるものであり(旧破産法第2条)、その内容も行政部門の介入を前提としているなど、市場経済に適した倒産法規とは言えなかった。

 一方で、外商投資企業を含む全人民所有制企業以外の企業法人の破産については、最高人民法院が公布した「『中華人民共和国企業破産法(試行)』の徹底的執行に関する若干問題の意見」等により、「中華人民共和国民事訴訟法」(以下「民事訴訟法」という)第19章「企業法人の破産債務弁済手続」(同法第199条乃至第206条)を適用して処理するものとされてきた。

 また、内容が不明確、不十分な旧破産法や民事訴訟法の破産手続の規定を補充するために、最高人民法院から「企業破産案件の審理に関する若干問題の規定」(2002年7月30日公布)等の関連規定も公布されていた。

 以上のように、中国における倒産関連法規は、統一性を欠き、また、内容も市場経済に適したものとは言えず、且つ曖昧・不明確な部分が多く、その結果、改革開放以来増加した民営企業及び外商投資企業等の市場からの撤退または再建、さらには中国政府が主導する国有企業改革等はスムーズに行われず、新しい倒産関連法規の制定が待たれていた。

 新しい倒産関連法規の制定作業は、1994年から既に進められていたが、実際に新破産法が公布されたのは、それから12年もの歳月を経た2006年8月27日であり、2007年6月1日からようやく施行されることになった。なお、このような長期にわたる制定作業の結果、旧破産法は「試行」のまま18年も施行されるという不自然な状態となっていた。

(2)新破産法のポイント及び概略

 新破産法の大きなポイントの一つとしては、これまで旧破産法が全人民所有の国有企業にのみ適用されていたのに対して、新破産法は外商投資企業を含む全ての企業法人に適用されることになった点が挙げられる(新破産法第1条及び第135条)。これにより、これまで統一的でなかった、企業法人の倒産処理が統一的に行われることが期待されている。

 新破産法は、全12章136条から成り、(ⅰ)企業の破産手続の規範化、(ⅱ)債権債務の公平な整理、(ⅲ)債権者及び債務者の合法的権益の保護及び(ⅳ)社会主義市場経済の秩序維持を目的に制定されており(新破産法第1条)、社会主義の計画的な商品経済の発展や、全人民所有制企業の自主的な経営の促進等を目的にしていた旧破産法(旧破産法第1条)とはその趣を大きく異にしている。

新破産法は、破産手続に関して、「申立及び受理」(第2章)、「管財人」(第3章)、「債務者の財産」(第4章)、「破産費用及び共益債務」(第5章)、「債権の届出」(第6章)、「債権者集会」(第7章)及び「破産清算」(第10章)等の項目を規定し、また、会社の再建型倒産手続についても、各1章を設け、「更生」(第8章)及び「和議」の制度について詳細な規定を置いている。

これらの内、「管財人」については、新破産法において初めて採用された制度である。旧破産法では当該企業の上級主管部門、政府の財政部門等の関係部門及び専門家の中から指名された委員により構成された清算委員会により、得てして債務者財産の管理等が行政部門の主導で行われていたが(旧破産法第24条)、新破産法では、清算委員会、弁護士事務所、会計士事務所、破産清算事務所等の社会仲介機構等が担当する管財人により行われることになった(新破産法第24条)。

また、再建型倒産手続については、旧破産法では「和議及び整理」(旧破産法第4章)という制度について、わずか6条(旧破産法第17条乃至第22条)の規定が置かれていただけであったのに対して、新破産法では、「更生」及び「和議」とそれぞれ独立した章とした上で、全37条(新破産法第70条乃至第106条)にわたる詳細な規定を置いていることが注目される。 

新破産法における破産手続の流れ

Q2 新破産法における破産手続は、基本的にどのような流れで行われるのでしょうか。

A2 新破産法における破産手続は、債務者または債権者による破産申立により始まります。人民法院は、当該申立を受理すると同時に管財人を指定します。当該申立受理の裁定については、申立人に送達されるとともに、債権者に通知され且つ公告されます。その後、債権者の債権届出期間の満了を待って、第1回債権者集会を開催し、人民法院の破産宣告を経て、破産財産を債権者に配当することになります。配当の完了後、管財人は人民法院に破産手続終結の裁定を請求し、人民法院が破産手続終結の裁定及び公告を行うことにより破産手続が終了するというのが基本的な流れです。

(1)破産申立

 破産手続は、原則として、債務者または債権者が、人民法院に対して破産清算を申し立てることにより開始する(新破産法第7条。以下、法令名は省略し条文番号のみを表示する)。

 申立人は、人民法院に、破産申立書及び関連証拠を提出しなければならず、債務者が申し立てる場合は、更に、財産状況説明、債権・債務台帳、財務会計報告並びに従業員の再配置案、賃金の支払状況及び社会保険費用の納付状況を提出しなければならない(第8条)。

(2)破産申立の受理・不受理裁定

人民法院は破産申立を受領した日より15日以内(15日間の延長可能)に受理の是非を裁定しなければならない(第10条第2項及び第3項)。

 債権者による破産申立の場合、人民法院は申立を受領した日より5日以内に債務者に通知しなければならず、債務者は、申立に異議がある場合、当該通知を受領した日より7日以内に人民法院に異議を申し立てることができる(第10条第1項)。

(3)管財人の指定

 人民法院が破産申立を受理すると裁定した場合、同時に管財人を指定しなければならない(第13条)。

 管財人は、債務者の財産状況を調査し、財産状況報告を作成し、債務者の財産を管理及び処分する等の職責をもち(第25条)、また、速やかに破産財産(破産宣告後における債務者財産)の換価案を作成の上、債権者集会に提出し、債権者集会が採択した(または人民法院が裁定した)換価案に従い、適時に破産財産を換価・売却しなければならない(第111条)。

また、管財人は、速やかに破産財産の配当案を作成の上、債権者集会に提出し、債権者集会において採択された配当案を、人民法院に提出して認可の裁定を申請するものとされている(第115条)。

(4)申立人への送達

 人民法院は、破産申立を受理する旨の裁定をした場合、当該裁定の日より5日以内に申立人に送達しなければならない(第11条第1項)。債権者による破産申立の場合、債務者は、当該送達の日より15日以内に、財産状況説明、債権・債務台帳、財務会計報告並びに賃金の支払状況及び社会保険費用の納付状況を人民法院に提出しなければならない(第11条第2項)。

人民法院が、破産申立を受理しないと裁定した場合、当該裁定の日より5日以内に申立人に送達し、且つ理由を説明しなければならない(第12条第1項)。申立人は、裁定に不服がある場合、当該送達の日より10日以内に、一級上の人民法院に上訴を提起することができる(第12条第1項)。

(5)債権者への通知・公告

 人民法院は、破産申立受理の裁定日より25日以内に、「債権届出の期間、場所及び注意事項」、「債務者の債務者または財産保有者に対する管財人への債務の弁済または財産の交付の要求」及び「第1回債権者集会開催の期日及び場所」等を記載した通知及び公告を、既知の債権者に通知し、且つ公告しなければならない(第14条)

(6)債権届出

 人民法院は、破産申立を受理した後、破産申立受理の公告を行った日から30日以上3ヶ月以内の期間内で、債権者の債権届出の期間を確定しなければならない(第45条)。

 管財人は債権届出資料を受領した後、登録簿を作成し、届出がなされた債権に対して審査を行い、且つ債権表を作成しなければならない(第57条第1項)。

 当該債権表は、第1回債権者集会に提出して審査を受けなければならず、債務者及び債権者が、記載された債権に異議がない場合、人民法院が確認の裁定を行い、異議がある場合は、破産申立を受理した人民法院に訴訟を提起することができる(第58条)。

(7)債権者集会の開催

 債権届出期間満了の日より15日以内に、人民法院が第1回債権者集会を招集・開催する(第62条第1項)。

 その後の債権者集会は、人民法院が必要と認めるとき、または管財人、債権者委員会、債権総額の4分の1以上を占める債権者が債権者集会の議長に提案したときに開催される(第62条第2項)。

(8)破産宣告

 人民法院は、債務者に破産原因(第2条第1項)があり、その破産を決定する場合、債務者の破産を宣告した上、当該裁定を行った日より、5日以内に債務者及び管財人に送達し、10日以内に既知の債権者に通知し、且つ公告しなければならない(第107条第1項)。

 一方で、債務者が期限の到来した債務を全て弁済した場合等一定の事由がある場合、人民法院は、破産宣告を行わず、破産手続の終結を裁定し、且つ公告しなければならない(第108条)。

(9)債権者への配当

 破産宣告後、管財人は、債権者集会で採択された換価案に従い換価された破産財産を、法定の弁済順位(第113条)及び債権者集会で採択され、且つ人民法院の認可を受けた配当案に従い、債権者に配当することになる(第116条第1項)。

(10)破産手続の終結

 管財人は、最後の配当を完了した後、速やかに人民法院に破産手続終結の裁定を請求しなければならない(第120条第2項)。

 人民法院は、上記の請求を受領した日より15日以内に、破産手続終結の是非を裁定しなければならず、終結を裁定した場合は、公告しなければならない(第120条第3項)。

 管財人は、破産手続終結の日より10日以内に、人民法院の破産手続終結の裁定を持参し、破産者の原登記機関において抹消登記手続を行わなければならない(第121条)。

※ 破産手続のフローチャート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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