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第108回
中国の労働契約法(1)

黒田法律事務所
萱野純子、金鮮花

 会社を運営していく上で、人事管理は重要であり、中でも、労働契約は非常に重要なポイントとなる。この点は、中国に進出した現地企業にとっても同様である。そこで、労働契約関係を規制する「中華人民共和国労働契約法」(以下、「労働契約法」という)につき、労働契約の締結、履行及び終了の各段階における要点を検討することにしたい。
第1回目となる今回は、労働契約の締結段階のうち、書面による労働契約の締結及び無固定期間労働契約の問題について触れることにする。

 

書面による労働契約の締結について

Q1 A社は、2009年4月1日に従業員Xを雇用し、その後の2009年4月10日に、従業員Xに対して労働契約書への署名を書面で求めましたが、従業員Xは正当な理由もないまま署名を拒否しました。しかし、当時、A社は人手不足だったため、そのまま従業員Xを雇用し続けました。その後、2010年1月4日、A社が再度従業員Xに署名を求めたところ、従業員Xは引き続き署名を拒否しました。このような場合、A社は従業員Xとの労働関係を終了することができるでしょうか。

A1 A社は、従業員Xに対し書面による通知を行うことにより、従業員Xとの労働関係を終了することができます。但し、A社は従業員Xに対して、労働契約法に従い経済補償金を支払わなければなりません。

 労働契約法第10条第1項によれば、労働関係を確立する場合、書面により労働契約を締結しなければなりません。
これまで、使用者と労働者間で書面による労働契約を締結しないケースが多く、労務紛争が生じると、労働契約の内容が不明であるため、十分な紛争解決がなされないことが多々ありました。そこで、労働契約法では、労働関係を確立するにあたって、労働契約の内容を明確にするため、書面による労働契約の締結を要求し、さらにいずれの当事者がこれを拒否する場合には、その期間に応じて、具体的な規定を設けています。

(1)使用者による労働契約書の締結拒否
使用者が雇用開始日から1ヶ月を経過した後も、労働者と書面による労働契約を締結していない場合、まだ1年に満たない間であれば、使用者は、労働契約法第82条及び「中華人民共和国労働契約法実施条例」(以下、「実施条例」という)第6条第1項に従い、労働者に対し毎月2倍の給与を支払わなければならず、かつ労働者と書面による労働契約を補充締結しなければなりません。なお、使用者が労働者と書面による労働契約を締結していない場合でも、雇用開始日から1ヶ月の期間内については、労働契約法及び実施条例ともに何らの規定もありません。従って、このような場合、書面による労働契約を締結していないことを理由に、使用者に対してペナルティ等が課せられることはありません。
また、使用者が雇用開始日から満1年において労働者と書面による労働契約を締結していない場合、使用者は、労働契約法第82条及び実施条例第7条に従い、雇用の日から満1ヶ月の翌日より満1年の前日まで、労働者に毎月2倍の賃金を支払わなければならず、かつ雇用の日から満1年の当日において既に労働者と無固定期間労働契約を締結しているものとみなし、直ちに労働者と書面による労働契約を締結しなければなりません。

(2)労働者による労働契約書の締結拒否
労働契約法第10条第2項によれば、既に労働関係を確立したが、これと同時に書面による労働契約を締結していない場合、雇用開始日から1ヶ月以内に書面の労働契約を締結しなければなりません。
雇用開始日から1ヶ月以内の間に、使用者から書面による通知を受けた後も、労働者が使用者と書面の労働契約を締結しない場合、使用者は、実施条例第5条に従い、労働者に対して、書面により通知の上、労働関係を終了することができます。この場合、労働者に対し経済補償金を支払う必要はありませんが、法律に基づき実際の労働時間の労働報酬を支払わなければなりません。
また、雇用開始日から1ヶ月を経過した後も、労働者が使用者と書面による労働契約を締結しない場合、まだ1年に満たない間であれば、使用者は、実施条例第6条第1項に従い、労働者に対して、書面にて労働関係を終了する旨の通知をしなければならず、かつ労働契約法第47条の規定に照らして経済補償金を支払わなければなりません。

 本件の場合、A社は、2009年4月1日に従業員Xを雇用していますが、その後、2009年4月10日及び2010年1月4日の2度にわたり、従業員Xに対し労働契約への署名を要求しているにも関わらず、従業員Xはこれを拒否しています。よって、A社は、実施条例第6条第1項に従い、従業員Xに対して、書面にて労働関係を終了することができますが、法定の経済補償金を支払わなければなりません。

 無固定期間労働契約について

 

Q2 A社は2006年2月に従業員Xとの間で2年間の労働契約を締結し、2008年2月には2年間の契約を更新しました。また、同時に従業員Xの紹介で従業員Yを雇用し、1年間の労働契約を締結しました。その後、2009年2月、A社は従業員Yとの間で1年間の契約を更新しました。A社は、2010年2月、従業員X及びYとの労働契約期間が満了した際に、従業員X及びYと無固定期間労働契約を締結しなければならないでしょうか。

A2 A社は、従業員Xとの労働契約期間が満了した際、従業員Xと無固定期間労働契約を締結する義務はないと考えます。しかし、A社は、従業員Yとの労働契約期間が満了した際には、従業員Yと無固定期間労働契約を締結しなければならない可能性があると考えます。

(1)労働契約の種類
一般に、労働契約は、固定期間労働契約、無固定期間労働契約及び一定の任務の完成を期間とする労働契約の三種類に分けられます(労働契約法第12条)。
上記の各種労働契約のうち、特に使用者が注意しなければならないのが無固定期間労働契約です。

(2)無固定期間労働契約の締結が必要な場合
無固定期間労働契約とは、使用者と労働者が確定的な労働契約終了日を約定しない労働契約をいいます。
労働契約法第14条によれば、無固定期間労働契約は、使用者と労働者が無固定期間労働契約の締結に合意した場合のほかに、次の各号に掲げるいずれかの状況に該当し、かつ労働者が労働契約の更新、締結を申し出た場合またはこれに同意した場合、無固定期間労働契約を締結しなければなりません(但し、労働者が固定期間労働契約の締結を申し出た場合を除く)。

①労働者が当該使用者の下で、勤続満10年以上である場合
②使用者が初めて労働契約制度を実施する場合または国有企業を再編して労働契約を新たに締結する場合に、労働者が当該使用者の下で勤続満10年以上であり、かつ法定の定年退職年齢まで10年未満である場合
③連続して固定期間労働契約を2度締結し、かつ労働者が本法第39条及び第40条第1号、第2号に定める事由に該当せずに労働契約を更新する場合
なお、使用者が雇用日より1年を経過しても労働者と書面による労働契約を締結していない場合には、労働契約法第14条及び実施条例第7条の規定により、使用者と労働者はすでに無固定期間労働契約を締結したものとみなされます。

(3)固定期間労働契約の連続締結回数の計算方法と労働契約法施行日の関係
労働契約法第97条第1項によれば、労働契約法第14条第2項第3号に定める固定期間労働契約の連続締結回数は、労働契約法の施行後に固定期間労働契約を更新するときより起算します。
労働契約法は2008年1月1日より施行されました。そのため、2008年1月1日より前に締結、更新された固定期間労働契約は、労働契約法第14条第2項第3号に定める固定期間労働契約の連続締結回数には含まれません。
本件の従業員Xの場合、第1回目の労働契約締結は2006年2月であり、労働契約法の施行前ですので、固定期間労働契約の連続締結回数には算入されません。従って、従業員Xの固定期間労働契約の連続締結回数は、2008年2月の1回となり、労働契約法第14条に定める上記③の要件を満たしていませんので、従業員Xが無固定期間労働契約の締結を要求してもA社はこれを拒絶することができます。
一方、本件の従業員Yの場合、A社と従業員Yとの間の第1回目の労働契約は、労働契約法施行後の2008年2月に締結され、2009年2月に更新されています。従って、従業員Yの固定期間労働契約の連続締結回数は、2回となり、労働契約法第14条に定める上記③の要件を満たすことになります。

(4)使用者による労働契約更新拒否の可否
固定期間労働契約は、その期間の満了により終了します。そのため、労働者が労働契約法第14条に定める要件の全てを満たすとしても、労働契約法第14条第2項第3号にいう「固定期間労働契約の連続締結回数」が2回である従業員との契約期間が満了した際に、使用者は当該従業員との労働契約の更新を拒否できるのではないか、とも考えられます。この点について、使用者に拒否権があるという見解と、使用者には拒否権がないという見解に分かれていますが、そのポイントは、労働契約法第14条第2項第3号に定められた「労働契約を更新する場合」をどのように解釈するかにあります。
すなわち、使用者に拒否権があるという主張の根拠は、労働契約法第14条第2項第3号が、第1号及び第2号と異なり、あえて「労働契約を更新する場合」という文言を規定している以上、同文言には「労働者と使用者が合意して契約を更新する場合」という特別な意味がある、という点にあります。当該主張に基づくと、労働者と使用者は、2回目の固定期間労働契約の期間が満了した際、3回目の労働契約の締結に合意し、労働者が無固定期間労働契約の締結を要求した場合に初めて使用者は無固定期間労働契約を締結することになります。
一方、使用者に拒否権がないという主張の根拠は、労働契約法第14条第2項第3号は、労働契約の短期化の問題を解決するために設けられた条項である以上、同号に規定されている「労働契約を更新する場合」という文言には実質的な意味はない、という点にあります。当該主張に基づくと、2回目の固定期間労働契約の期間が満了した時点で、労働者が無固定期間労働契約の締結を要求すれば使用者はこれに応じて、無固定期間労働契約を締結しなければならないことになります。
この問題については、一部地方において高級裁判所の解釈が出されているものの全国的に適用される法的解釈はまだ公布されておらず、各地の政府労働部門の見解も分かれているため、現時点では明確な結論がありません。その結果、労働者が無固定期間労働契約の締結を要求する限り、使用者は労働契約を更新しないことを理由としてこれを拒絶できず、労働者の要求に従って、無固定期間労働契約を締結しなければならない可能性があります。

 よって、本件の場合も、A社は、従業員Yとの2回目の労働契約期間が満了した際、従業員Yから無固定期間労働契約の締結要求があれば、それに応じて、無固定期間労働契約を締結しなければならない可能性があります。

 

 

 


連載記事「中国ビジネス・ローの最新実務Q&A」 (2000年1月-2011年8月掲載)のバックナンバーです。
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