中国ビジネス・ローの最新実務Q&A
第121回
日本企業の中国における事業再編(1)
‐現地法人の独資化‐

黒田法律事務所
萱野純子、竹田昌史

 

 多くの日本企業がすでに中国への投資、進出を果たしている昨今、各企業は、数年前の世界的不況を経て、重複する業務を整理、統合する新たな段階に入ってきている。そのため、今回から中国における日本企業の事業再編というテーマを取り上げ、第一回は持分譲渡を通じた現地法人の独資化について説明する。

中国民間企業からの持分譲受

 

Q1 日本企業甲社は、数年前に中国民間企業乙社との合弁で外商投資企業A社を設立しました。しかし、A社の経営方針を巡り乙社と意見が異なることも多くスムーズにA社の意思決定ができないため、甲社は乙社から持分を譲り受けてA社を独資企業に転換することを考えています。A社を独資化するメリットはあるのでしょうか。またどのように持分を譲り受ければよいのでしょうか。

A1 A社を独資化するメリットはあります。また合弁企業の出資者持分の譲渡については各法律規定があり、同規定に従って進めることになります。

  1. 現地法人の独資化のメリット、デメリット

 日本企業が中国に進出して設立する外商投資企業には、中外合作経営企業(いわゆる合作企業)、中外合弁経営企業(いわゆる合弁企業)及び外資企業(いわゆる独資企業)の三種類があるが、このうち、代表的な企業形態は合弁企業と独資企業である。

  1. 合弁企業のメリット、デメリット

合弁企業のメリットは、日本企業が中国側パートナーと共に合弁事業を行う場合、中国側パートナーを活用できるところにある。例えば、中国で自社製品を販売しようとする場合、合弁企業であれば、中国側パートナーの協力が得られるため、その中国国内における販売ルートを活用することも可能である。また、中国の法令により外国企業単独による投資が制限されている特殊な分野においては、中国側パートナーと組むことによりビジネスをすることが可能となる。
これに対して、合弁企業のデメリットは、ビジネスの方針等を巡って中国側パートナーと意見が分かれ対立しやすいという点にある。また、中国側パートナーが、本来工場等の建設が許されていない土地使用権を現物出資した結果、工場建設直前にそれが発覚してプロジェクトがストップするといったトラブルもある。更には、日本側パートナーから合弁企業に対して技術提供、技術援助したところ、秘密保持契約等を締結しているにもかかわらず、その技術、ノウハウ等が中国側パートナーを通じて第三者に流出することもある。

  1. 独資企業のメリット、デメリット

独資企業のメリットは、出資者である日本企業がビジネスプランを含む全ての事項を自らの判断で決定でき、迅速に意思決定できる点にある。また、中国側パートナーによる現物出資のリスク及びノウハウや技術情報が漏洩するといったリスクを考える必要もない。
これに対して、独資企業の場合、中国側パートナーがいないために、例えば、中国の行政機関との折衝を自社で行なわなければならず、また製品の販売ルートも自ら開拓しなければならないといったデメリットがある。更に近時頻発する中国人従業員との労働問題についても、中国側パートナーがいない以上、自ら対処しなければならない。

  1. 最近の傾向

 このように、合弁企業と独資企業では、それぞれ一長一短があるが、当初合弁企業を設立したものの、中国側パートナーと対立することが多く結局合弁関係を解消したというケースが増えている。また、中国ビジネスに関する経験を蓄積している企業も増えており、あえて中国企業と合弁事業をしなければならないというケースも次第に減ってきている。そのため、最近の一般的な傾向としては、最初から独資企業を設立するケースや合弁企業を独資企業化するケースが増えている。本件でも、中国側パートナーとの意見が対立していることから、独資企業への転換は一定のメリットがあるといえる。

  1. 持分譲受の基本的な手続
  2. 外商投資産業指導目録の確認

 中国側パートナーから持分を譲り受ける場合、従来合弁企業が行なってきた業務を引き続き独資企業が行うことが可能か、外商投資産業指導目録上で確認しなければならない。
すなわち、中国では、国内産業保護の観点から「外商投資産業指導目録」が定められており、中国に進出する全ての外国企業は、当該目録に従って企業の設立、運営を行なわなければならない。例えば、自動車完成車の製造については、外資比率が50%を超えてはならないという制限が付されており、また土地の大規模開発については、中国企業との合弁または合作に限定されている。
従って、中国側パートナーから全ての持分を譲り受けて独資企業に転換する場合、その業務内容が外商投資産業指導目録に照らして独資企業に許されている産業分野か否かを確認しなければならない。

  1. 譲受手続

本件のような合弁企業の出資者間における持分譲渡については、主に「外商投資企業投資者の持分変更についての若干規定」(以下、「持分変更規定」という)及び「中外合弁経営企業法」(以下、「合弁法」という)及び「中外合弁経営企業法実施条例」(以下、「合弁法実施条例」という)に従って、以下のようなプロセスを経ることになる。

  1. 出資者間の優先買取権

 合弁企業の場合、各出資者がその持分の全部または一部を第三者に譲渡するにあたり、他の合弁出資者の同意を得なければならない。その際、他の合弁出資者は、その持分を譲り受けようとする第三者に優先して持分を買い取ることができる(合弁法実施条例第20条)。しかし、本件の場合、出資者が2社であり、当該2社間の持分譲渡であるため、他の合弁出資者の合意や優先買取権は問題にならない。

  1. 持分譲渡契約書の締結、新定款の制定

 他の出資者から優先買取権の主張があるか否かを問わず、持分の譲受人が確定すると、当事者間で譲渡契約書を作成し、持分譲渡の審査許可申請時に同契約書を提出する必要がある(持分変更規定第9条第6号)。持分譲渡契約書には、少なくとも以下の内容を規定しておかなければならない(持分変更規定第10条)。
(ⅰ)譲渡者と譲受者の名称、住所、法定代表者名、職務及び国籍
(ⅱ)持分譲渡の割合及びその価格
(ⅲ)持分譲渡の引継ぎ期間及びその方式
(ⅳ)譲受者が、企業の契約、定款に基づき有する権利及び義務
(ⅴ)違約責任
(ⅵ)準拠法及び紛争解決方法
(ⅶ)持分譲渡契約の発効及び終了
(ⅷ)持分譲渡契約の締結日時、場所

 また、当事者間では持分譲渡契約の締結にあわせて、従来の合弁契約や定款を修正しておく必要がある(なお、持分譲渡を通じて合弁企業から独資企業に転換した結果単独出資となる場合には、合弁契約書は不要であるが、新しい定款を制定することになる。)。そして、その持分譲渡契約書や新しい定款等は、外商投資企業の批准証書の変更が許可された日から発効し、その日を基準として、新しい定款規定等に基づく権利を有し、義務を負うことになる(持分変更規定第20条)。

  1. 合弁企業の董事会決議

 合弁企業における出資者の持分譲渡にあたっては定款の内容を修正する必要があり、特に持分譲渡を通じて合弁企業から独資企業に転換する場合には企業形態そのものが変更する。そのため、持分譲渡の際には、予め合弁企業の董事会決議を経る必要があり、審査許可申請時にはその決議文書を提出しなければならない(持分変更規定第9条第4号)。
なお、定款の変更は董事会の全員一致決議事項とされている(合弁法実施条例第33条第1項第1号)。

  1. 申請、登記

 持分譲渡契約書や新しい定款その他申請に必要な書類を準備した後、その持分譲渡に伴う出資者の変更や企業形態の変更につき審査機関による審査許可を取得し、登記機関による変更登記を行うことになる。
まず、審査許可については、当該企業の設立を許可した審査機関に申請し、その審査許可を受けなければならない。中外合弁、合作企業の中国側パートナーの持分変更により独資企業へ転換し、かつ独資企業の設立が制限されている業種である場合には、商務部の許可を経なければならない(持分変更規定第7条第1項)。
また、登記機関についても、企業設立時に登記した登記機関で登記変更手続を行わなければならず、上記商務部の許可を経る必要がある場合には、国家工商行政管理総局または同局が委託する原登記機関で登記変更手続を行わなければならない。

 

中国国有企業からの持分譲受け

Q2 日本企業X社は、中国国有企業Y社との間で合弁企業B社を設立しました。当初、政府機関等との折衝などをY社に頼んでいましたが、最近ではそれほどY社の人脈等を活用する必要がなくなったため、X社はY社から全ての持分を買い取ることを考えています。Y社が国有企業であるということで、Y社からの持分譲受に際して、何か注意する点はあるのでしょうか。

A2 Y社のB社に対する持分は国有資産に該当するため、国有資産譲渡に関する手続を経る必要があります。

    1. 国有資産の譲受
  1. 国有企業の持分と国有資産

 中国では、国の財産権が第三者に譲渡される場合、国有資産の不当な流出を防ぐために法律上の定めに従った譲渡手続を経なければならない。この場合の国有資産とは、国の企業に対する様々な形式の投資により形成された権益、国有及び国有持分支配企業の各種投資により形成された権益等を指し(企業国有財産権譲渡管理暫定規則(以下、「国有資産譲渡規則」という)第2条第3項)、国有企業が所有する持分も当該国有資産に含まれると考えられている。そのため、国有企業との合弁事業において、日本企業が中国側パートナーの持分を譲り受ける場合、国有資産の譲渡という問題が生じる。
本件の場合も、Y社が国有企業でありB社に対する持分は国有資産に該当することから、Y社がX社に対しB社の持分を譲渡するにあたっては国有資産譲渡の手続規定に従うことになる。

  1. 国有資産の資産評価

 通常、民間企業間における持分譲渡の価格については、両当事者が協議を通じて決定することができる。これに対して、国有資産の譲渡の場合、譲渡価格の適正を確保するため、譲渡人である国有企業は、法律で定められた資格を有する資産評価機構に資産評価を委託しなければならず、当該機構により提出される評価報告の内容は、国有資産の譲渡価格を確定するための参考の根拠とされる(国有資産譲渡規則第13条第1項)。
しかし、資産評価機構による評価報告は単なる参考資料に留まらず、またその評価金額は事実上当該国有資産の譲渡価格とされることも多い。すなわち、国有資産譲渡の過程において、具体的な譲渡価格が評価報告の内容の90%を下回る場合には、一時的に取引を中止しなければならず、関連する国有資産譲渡審査許可部門の同意を得なければ、取引を再開することができない(同規則同条第2項)。従って、資産評価機構による評価報告は、国有資産の譲渡価格決定の最も重要な判断基準となる。

  1. 財産権取引機構を通じた譲渡手続

 国有資産については、原則として、公開募集手続の下での競売または入札による譲渡が行なわれ、例外的に、公開募集の結果、譲受人が1人しかいない場合または関連規定に従い国有資産監督管理機構の許可を得た場合に協議による譲渡を採用することが認められている(国有資産譲渡規則第14条第1項、第18条第1項)。実務上は、一般に公開募集手続の下で譲渡手続が進められる。
ア) 譲渡公告
まず譲渡人は、財産権取引機構に国有資産の譲渡公告を委託し、省級以上で公開発行する経済関連または金融関連の新聞及び財産権取引機構のホームページに国有資産譲渡に関する情報を掲載し、20業務日の間、譲受人を募集しなければならない(同規則第14条第1項)。
イ)競売、入札による譲受人の決定
公開募集の結果、譲受を希望する者が複数応募した場合、譲渡人は財産権取引機構と協議の上、競売または入札の方式により財産権取引を実施する。そして、競売または入札の結果、譲受人が確定した後、両者の間で国有資産に関する譲渡契約を締結する(同規則第17条、第19条)。
ウ)支払
国有資産については、その譲渡対価の支払方法についても法律上明確に規定されている。すなわち、譲渡代金は、原則として一括払いとされ、金額が大きく、一括払いが難しい場合には、分割払いが認められている(同規則第20条第2項)。分割払いの場合、1回目の支払金額は総額の30%を下回ってはならず、かつ契約発効日から5業務日以内に支払わなければならない。また、残金については、支払期限は1年を超えてはならず、かつ一定の担保を提供しなければならない(同項)。

  1. 許可申請

 国有資産たる持分を譲り受けた場合、出資者及び定款の変更等が生じるため、譲受人は、外商投資企業の設立に関する審査許可機関である商務部門の審査許可を得た上で、工商部門で登記変更手続をしなければならない。そして、国有資産たる持分の譲渡の場合、登記変更手続にあたっては、通常の持分譲渡に伴う提出資料以外に、財産権取引機構が発行する財産権取引証書を提出しなければならない(持分譲渡規則第24条)。この財産権取引証書は、譲渡人、譲受人の名称、譲渡目的物の価格、財産権取引機構による審査の結果等を記載した文書であり、持分譲渡契約に基づき譲渡代金等が支払われた後、3業務日以内に発行される。

 

 


連載記事「中国ビジネス・ローの最新実務Q&A」 (2000年1月-2011年8月掲載)のバックナンバーです。
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