知っておこうフィリピン法

第55回 苦境に陥ったクリス・ブラウン

皆さん、こんにちは。Poblacionです。皆さんはクリス・ブラウンをご存知ですか?ご存知ない方の ために簡単にご説明しますと、彼は国際的に活躍しているR&Bシンガーで、元恋人リアーナとの関係が騒動になり、大きく報じられたことで知られて います。昨夏、彼はフィリピンでコンサートを開きました。コンサートを終えてフィリピンを発つことになっていたのですが、どうしたことでしょう、フィリピ ン入国管理局(BI)の許可が得られるまで出国が認められない、という事態になったのです。

その背景には、このような事情がありました。2015年1月、クリスは、フィリピンの大きな宗教団体から 招待され、大晦日のコンサートでパフォーマンスを行うことになっていました。ところが、直前になってクリスはその団体の招待を断り、コンサートをキャンセ ルしました。パスポートをなくした、というのがその理由でした。これを受けてその宗教団体は、クリスとそのコンサートのプロモーターを詐欺罪で刑事告訴し ました。そして、数ヶ月後に別のコンサートのためにクリスがフィリピンを訪れたときに、その宗教団体は即座に行動をおこし、クリスを要警戒者リストに載せ るよう司法省(DOJ)に要求したのです。

クリスは、マニラに2日間拘留された後、BIの許可を取得することができ、その後、フィリピンからの出国を認められました。その一方で、刑事告訴に関する予備捜査は、本人の不在にかかわらず、現在も続けられています。

もしあなたに対する刑事事件がフィリピンで係属中であるなら、クリスと全く同じような苦境に立たされる可能性があります。渡航の自由を実質的に制限し得る政府の命令には以下の2種類があります。

(1)裁判所が発行する出国禁止命令(HDO)
(2)司法省(DOJ)が発行する要警戒者リスト掲載命令(LBO)

出国禁止命令(HDO

HDOは、その名のとおり、ある人物がフィリピンから出国するのを阻止する効力を有するものです。現時点では、裁判所の みがHDOを発行する権限を与えられています(以前は、DOJの発行した規則によって、HDOを発行する広範な権限がDOJに与えられていましたが、その 規則の実施を制限する暫定的命令が、最高裁判所によって発行されました。なお、最高裁判所は、今日に至るまで、その暫定的制限命令を撤廃していません。)

HDOは、地方裁判所(又は第二審裁判所)が管轄する刑事事件においてのみ、発行されま す。そのような事件の対象になる犯罪とは、6年超の懲役刑が科される犯罪、すなわち、殺人罪や麻薬関連犯罪等です。裁判所は、被疑者に対するHDOの発行 の必要性について判断する一定基準を定めてはいません。HDOの発行は、その裁量権の範囲内であって、被疑者が常に裁判所の管轄内にいることを確保するた めに認められるものだからです。HDOは、発行後、その実施のために外務省、司法省及び入国管理局へと伝達されます。

子供がかかわる事件では、例外的に家庭裁判所がHDOを発行することもできます。HDOが発行されると、 裁判所の許可がない限り、その子供をフィリピンから出国させることはできません。この場合、HDOの目的は、子供の一方の親や保護者が、他方の親や法的保 護者から子供の養育権を奪おうとその子供を海外に渡航させることを阻止することです。

HDOの効力に期限はなく、被疑者の無罪判決や事件の棄却まで存続します。家族法上の事件の場合、裁判所は、子供の利益を最優先に考慮して、職権により、あるいは当事者のいずれかによる申立を受け、HDOを撤回することができます。

要注意人物リスト掲載命令(LBO

LBO自体は、フィリピンからの出国を禁止するものではありません。LBOは、その名のとおり、入国管理 局に対して、「注意」すること、そして、ある人物に対して実際に行なわれた、あるいは報告されている起訴の状況について慎重に検証するように指示するもの に過ぎません。LBOは、DOJに要望書を提出するだけで申請が可能です。HDOと同様にLBOについても、その発行に関して司法省が定めた具体的な理由 や一定基準はありません。

解除措置

自分に対してHDO又はLBOが発行されているかどうかが不確かな場合には、入国管理局の出国許可証明課に行き、自分の名前がリストに掲載されているかどうかを確認することができます。

不幸にもHDO又はLBOが発行されていたからと言って、必ずしも、事件が解決するまで(これには永遠に 時間がかかることもあります)、フィリピン国内に留まることを余儀なくされるわけではありません。刑事事件係属中にフィリピン国外への渡航が必要になった 場合には、HDOを発行した裁判所に、フィリピン出国許可の申請をすることができます。裁判所は、出国許可を与えるべきかを判断する際に、申請者の出国理 由、逃亡のおそれ、及び訴訟手続逃れの可能性について検討します。出国許可が与えられる場合でも、フィリピンへの帰国を確実にするため、一定の条件が裁判 所によって課されるのが通常です。こうした条件には、出国供託金の納入、海外での滞在場所の裁判所に対する開示、代理人の任命、フィリピン帰国時の本人に よる裁判所への出廷が含まれます。

一方、要注意人物リストに名前が掲載されている場合は、入国管理局から出国許可証を取得するだけで出国が可能となります。政府への未払債務がなく、フィリピン国内の滞在が要求される係属中の訴訟もない場合は入国管理局によって許可証が発行されます。

 

2016/06/23

*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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