知っておこうフィリピン法

第57回 2つの「KOLIN」事件

皆さん、こんにちは。Poblacionです。

私は子供の頃からテレビを見るのが大好きです。小学生のとき、自分の部屋にテレビがほしい、と両親におねだりをしたことがあります。すると数日後、父が中古品のKOLIN製テレビを買ってきてくれました。そのテレビは、今の基準から言うと小さくて奥行きがあって重さもかなりありましたが、それでも私は大喜びしました!私は、毎晩遅くまでテレビを見て、お気に入りの番組を楽しみました(もちろん母からは、「勉強しなさい」、「もっと早く寝なさい」と叱られていました)。こうして、私はすっかりテレビっ子になってしまったのです。時が経ち、最新で機能の優れた人気ブランドのテレビを両親に買ってもらいましたが、今でも私にとって初めてのテレビであるKOLIN製テレビが私のお気に入りであることは変わりません。

最近、「KOLIN」商標が関係した、興味深い最高裁判所の判例を目にしました。判決が下されたのは昨年のことです。裁判所の基本的な判断事項とは、電気製品を製造する台湾企業であるTaiwan Kolin Corporation, Ltd.(「TKC」)と、電子機器を製造するフィリピン企業であるKolin Eletronics Co., Inc.(「KEC」)のどちらが、「KOLIN」という商標を使用する適切な権利を有するか、ということでした。これに対して最高裁判所は驚きの判決を下しました。

事件の発端は1996年に遡ります。TKCが、国際分類第9類、第11類及び第21類の各種電気製品を指定商品として、商標「KOLIN」を出願しました(国際分類とは、標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関するニース協定に基づく分類です)。TKCの標章「KOLIN」の態様は、以下のとおりです。

http://www.wipo.int/branddb/ph/jsp/data.jsp?KEY=PHTM.42002011002&TYPE=JPG&qi=1-I4ebvdC1fp2sApvQSDxeFXa5x9gYUf3unwiYPeQ7D5E=

 

 

知的財産庁(IPO)から、商標出願に関し1つの商品区分を選択するよう命令されたにもかかわらず、TKCがその命令に従わなかったため、出願の放棄が宣告されました。その数年後、TKCが第9類の商品、具体的には、テレビセット、カセットレコーダー、ビデオCDアンプ等を指定して「KOLIN」商標を登録するという選択をしたため、出願が「復活」しました(指定商品は後日、「テレビ及びDVDプレイヤー」に減縮されました)。

KECは、この出願の復活に異議を申し立て、出願の時期を逸していると主張しました。より重要なこととしてKECは、自社が同じ第9類の商品、具体的には、自動電圧調整器、コンバーター、充電器、ステレオブースター等を指定して、「KOLIN」商標を登録済みであることを申し述べました。これにより、第9類の商品に「KOLIN」を使用する適切な権利を有するのはKECである、と主張されました。KECの「KOLIN」商標の態様は以下のとおりです。
http://www.wipo.int/branddb/ph/jsp/data.jsp?KEY=PHTM.41993087497&TYPE=JPG&qi=1-I4ebvdC1fp2sApvQSDxeFXa5x9gYUf3unwiYPeQ7D5E=
KECに有利な決定を下したIPO法務局からTKCに有利な決定を下したIPO長官、そこからKECに有利な決定を下した控訴裁判所へ、と二転三転する決定を経た後、最終的に最高裁判所は、電子機器を指定したKECによるほぼ同一の商標「KOLIN」の先登録があるにもかかわらず、TKCもテレビやDVDプレイヤーを指定して「KOLIN」商標を登録することができる、という判断を下しました。

なぜ、このような判決が最高裁判所から下されたのでしょうか?

裁判所がまず明確にしたのは、商標権者が登録商標に対して有する権利は、登録証に記載された商品及びサービスとこれに関連する商標及びサービスに限られる、ということでした。すなわち、KECによる「KOLIN」商標の先登録によって、TKCによる「KOLIN」商標の登録が妨げられるか否かは、これら2つの「KOLIN」商標が使用される商品が、互いに関連性を有するか否かによって決まる、ということでした。

商品に関連性があるか否かの判断においては、ニース協定に基づく国際分類にのみ依拠するべきではなく、様々な要素を考慮すべきである、として、以下のものを最高裁判所は示しました。

(a)製品を扱う業界
(b)製品の品質、数量、大きさ及び包装
(c)製品コスト
(d)基本的特徴
(e)製品の用途
(f)製品の一般的購入時の状況
(g)流通経路又は製品のマーケティング及び販売方法

上記に関して裁判所は、TKCの製品とKECの製品には、以下の理由により関連性がない、と判断しました。

・TKCの商品は家庭用電気製品に分類されるのに対し、KECの商品は電源及びオーディオ装置周辺機器である

・TKCのテレビセットとDVDプレイヤーは、KECの電源及びオーディオ装置周辺機器とは別の異なる機能及び目的を果たすものである

・TKCの製品は認定販売業者に対して卸売販売されるのに対し、KECの製品は電気店や金物店で販売されている

・TKCの製品とKECの製品はいずれも国際分類の第9類に含まれているが、そのサブクラスは異なり、TKCの製品が「視聴覚装置」のサブクラスに分類されるのに対し、KECの製品は「電気の分配及び使用を制御する装置」というサブクラスに分類される

最高裁判所は、TKCの「KOLIN」商標登録を許可するさらなる理由として、TKCとKECそれぞれの商標及び製品が互いに購買者に混同を生じる可能性は低いとし、以下のような見解を述べました。

 第一に、2つの標章には違いがある。すなわち、KECの標章は斜体の黒字であるのに対し、KECの標章は赤色を背景とした白字である。さらに重要なこととして、TKCとKECが販売する製品は、ケチャップや醤油や石鹸のような安価な日用品ではなく比較的高額なものであり、一般的な購買者であれば通常、電子製品購入の際には慎重に識別するものである。よって、TKCとKECの製品を取扱うにあたり混同や欺瞞が生じる可能性は低い。

最高裁判所による上記判決には、多くの商標実務者から批判が寄せられています。この判決により、登録商標を複製して補完的商品(たとえば、コンピュータと携帯電話)に使用しても、侵害にあたることを心配する必要がなくなった、と指摘されています。他にも、最高裁判所がうやむやにしてしまった問題点が多くあります。2つの商標が明らかに類似すること(声を大にして言うと、2つの商標はほぼ同一です)や、消費者がKECの電子製品をTKCの製品であると推測したり、TKCの機器をKEC製であると推測したりする可能性が高いこと、等です。結局のところ、この判決は、TKCとKEC両方の「KOLIN」商標、製品及び事業がフィリピン市場で共存できるようにするための公平な妥協案であると考えられています。

 

2016/07/07

*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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