知っておこうフィリピン法

第63回 赤ん坊の取り合い

皆さん、こんにちは。Poblacionです。聖書の逸話の中で私が気に入っているものの1つが、ソロモンという名前の偉大な王様のお話です。ある日、同じ家の中でそれぞれ赤ん坊を出産したばかりの母親2人がソロモン王のところへやってきて、2人の間の争いごとを解決してほしいと頼みました。2人の赤ん坊のうちの片方が亡くなり、2人の母親は、生きている方の赤ん坊の本当の母親がどちらかを争っていたのでした。賢いソロモン王は、1つのテストを考え出しました。ソロモン王は、2人の母親の間で半分ずつ分けられるよう、剣で赤ん坊を2つに切り裂くことを命じました。1人目の母親は、ソロモン王の解決策に同意しました。一方、2人目の母親は、赤ん坊を殺さないで1人目の母親に渡してほしいとソロモン王に頼みました。これを聞いたソロモン王は、2人目の母親に赤ん坊を渡すことを宣言しました。自分の子供を心から愛している母親こそが、その子供の命を救うためであれば、子供を手放す辛さにも耐えるであろうということでした。

幸いなことに、今私達が暮らしている社会では、文明が進み、剣を使わなくても子供の監護の事案に関する判断を下すことができます。たとえば、フィリピンでは、父親と母親のどちらが2人の間の子供の監護権を得るべきかについて定める規則が確立されています。

父親と母親が結婚して一緒に暮らしていれば、当然、2人の子供の監護権を共有することになるでしょう。一方、父親と母親が離別した場合、監護権が大きな問題になります。両親が離別した場合の監護権は、子供の年齢によるところが大きいです。子供が7歳未満の場合、別段のやむを得ない理由がない限り、監護権は母親のものとなります。この規則は、乳幼児の保護者には母親が最適であるという前提に基づくものです。小さい子供には、母親しか与えることのできない愛情にあふれた世話が必要であり、父親には同じことを期待できません。

当然ながら法律では、「やむを得ない理由」がある場合には母親が監護権を奪われることもあると規定されています。これには、母親の行為の影響で子供の幸せが損なわれたという証拠が必要です。こうしたやむを得ない理由について例を挙げると、育児放棄、遺棄、アルコール依存症、薬物依存症、児童虐待、心身喪失などがあります。しかし、実際には父親が7歳未満の子供の監護権を得るには、かなり高いハードルを越えることになります。例えば、あるフィリピン家族法の専門家の意見によれば、たとえ母親が売春婦であったり、不貞行為を働いたりしても、監護権は母親に与えられます。ある事件で裁判所は、母親が同性愛者であるとしても、その母親から監護権を奪うべきやむを得ない理由にはならない、と判断しました。

一方、子供が7歳以上の場合、両親のどちらに監護権を与えるかについては、裁判所が決定します。裁判所は、子供にとって最大の利益は何かを検討し、以下の要素を考慮します。

(a) 両親の間における合意
(b) 他方の親と子供との間に愛情ある開かれた関係を築くことについてのそれぞれの親の希望及び可能性
(c) 子供の健康、安全及び幸福
(d) 親による虐待の過去
(e) 両親とのかかわりの性質及び頻度
(f) アルコール又は薬物の常習性
(g) 不貞行為
(h) 物理面、感情面、精神面、心理面及び教育面における最適な環境
(i) 子供の希望。

片方の親が子供の監護権を得られなかったとしても、永遠に自分の子供に会えなくなるわけではありません。監護権を得られなかった親には、通常、面会権が家庭裁判所から与えられます。その場合、面会の日時、長さ、面会時に守るべき条件(子供を家から連れ出してはいけない、常にシッターを子供に付き添わせなければならない、など)について合意するよう、裁判所から両者に求められます。

なお、非嫡出子、すなわち、婚姻していない両親の間に生まれた子供の場合には、異なる規則が適用されます。フィリピン法上、非嫡出子に対する親権及び監護権は、母親にのみ与えられます。生物学上の父親が子供を認知しているか否かにかかわらず、この規則が適用されます。当然ながら、母親が子供の面倒を見ることに不適任な場合は、監護権を失います。しかし、そのような場合でも、非嫡出子に対する監護権は、代理で親権を行使する人、例えば、母方の祖父母、一番上の兄/姉、又は子供の実際の保護者に与えられます。

裁判所が生物学上の父親に面会権や一時的監護権を認めた例は殆どありませんが、生物学上の父親が自分の非嫡出子に対する全面的監護権を得るためには、子供に対する親権の付与を求める申立を裁判所に提出する必要があります。生物学上の父親が自分の非嫡出子の地位を嫡出子の地位にあげるために、その子供を養子として正式に迎えることを考えることもできます。

結局のところ、監護権を巡る問題における最善の解決策とは、子供にとって最大の利益となるような取決めに両親が友好的に合意することです。監護権とは、非常に個人的で繊細な問題であり、監護権の争いが長引いて激化した場合には、間違いなく、子供に悪影響が及ぶでしょう。こうした問題は、できる限り調和的かつ外交的に解決すべきであり、裁判所の介入はあまり(ソロモン王が提案した解決策は決して!)行われない方がよいでしょう。

2016/08/18

*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

お問い合わせ