知っておこうフィリピン法

第70回 DNAは確たる証拠

皆さん、こんにちは。Poblacionです。今回はフィリピンでのDNA鑑定についてお話しましょう。
2016年フィリピン大統領選のときのことです。最有力候補であった上院議員の大統領選立候補資格について、法律に基づく異議申立がなされました。フィリピン憲法に基づき、大統領は、生まれながらにしてフィリピン国籍を有する者(すなわち、両親のいずれかがフィリピン人)でなければなりません。しかし、その上院議員は「捨て子」だったのです。両親が誰だかわかりませんし、国籍もわかりません。乳児の時に親に捨てられ、地元の教会に置き去りにされていたのです。実の両親を見つけるための努力も尽くされましたが、見つかりませんでした。最終的に彼女は、有名なフィリピン人タレント夫婦の養女となり、その夫婦の子供として育てられました。
自分に降りかかってきた法律に基づく争いに終止符を打たせようと、その上院議員は、DNA鑑定を受けました。自分のDNAが生物学上の親戚と思われる人物と適合することを確認し、フィリピン人の血筋を証明しようとしたのです。しかし、1回目の鑑定では適合しませんでした。2回目の鑑定でも、結果は変わらなかったようです。
法的手続においてDNA鑑定が行われたのは、これが初めてではありません。近年では、フィリピンの裁判所が父子鑑定事件を解決したり、刑事事件の真犯人を特定したりする手段として、DNAを証拠として採用するケースが増えています。このようにDNAが証拠として採用されることが増えたため、最高裁判所は、2007年、「DNA証拠に関する規則」を発行しました。これには、DNA鑑定結果を裁判事件の有効な証拠として認容する際に適用される規則が定められています。

DNA鑑定の実施
裁判所命令がある場合:
事件が既に裁判所に係属している場合、裁判所命令を取得した上でDNA鑑定に頼ることができます。DNA鑑定の申請は、事件の全当事者に通知されます。その後、審理が実施され、裁判所は以下の点について検討します。

・生体試料が存在するか

・生体試料が、(a) 以前DNA鑑定の対象になっていないか、あるいは (b) 以前DNA鑑定の対象となったが、その結果の確認を必要とする正当な理由があるか

・DNA鑑定が科学的に有効な技術を用いるものであるか

・DNA鑑定が事件に関連する新たな情報を提供すると思われるか

・DNA鑑定の正確性又は完全性に影響を及ぼし得るその他要素

 

DNA鑑定命令を発行するか否かは、裁判所の裁量です。申請人が命令の発行を確保するには、テストを実施する正当な理由と必要性を立証しなければなりません。たとえば、父子鑑定事件において、子供が親子関係を証明する十分な証拠(出生証明書、写真、似ている外見等)を既に提出しており、DNAの鑑定結果が補強となるに過ぎない場合、裁判所がDNA鑑定を許可しないこともあります。
また、裁判所がDNA鑑定の申請を認めた場合でも、必ずしもDNAの鑑定結果が審理のための証拠として自動的に認容されるわけではありません。証拠として認容され、審理における検討材料にされるためには、DNAの鑑定結果及び鑑定方法の信頼性に関する裁判所の評価がさらに必要になります(これについては、以下、でお話します)。

裁判所命令がない場合:
誰もが、裁判所の命令がなくても、裁判所に事件を提起する前に自発的にDNA鑑定を受けたり、DNA鑑定を受けるよう他人に要求したりすることができます。
また、ある犯罪について終局判決により既に有罪となっている者は、以下すべての条件を満たしている場合、裁判所の命令がなくてもDNA鑑定を受けることができます。

(a) 生体試料が存在している
(b) 当該試料が事件に関連している
(c) 鑑定によって無罪判決又は判決の変更がもたらされると思われる場合

DNA鑑定結果
DNA鑑定結果が証拠として認容されるか否かの評価にあたり、裁判所は以下の事項を検討します。

・一連の管理状況、すなわち、試料の収集方法、取扱方法及び汚染の可能性

・DNA鑑定方法、すなわち、試料分析の際の手順や当該手順が科学的に有効な基準に従うものであるか等

・DNA鑑定所の認定及び関連分野の経験、並びに鑑定を実施した分析者の適格性

・鑑定結果の信頼性

 

父子鑑定事件において、DNA鑑定結果によって、ある人物がある子供の親である可能性が排除された場合、このことは、父親ではないことの確証となります(すなわち、その証拠について争うことはできません)。一方、ある人物がある子供の親である可能性は99.9%以上であるというDNA鑑定結果は、父親であることについて、争い得る推定とみなされます(すなわち、相手方は、父親であることについて争う証拠をまだ提出することができます)。最後に、父親である可能性は99.9%未満というDNA鑑定結果は、単なる補強証拠とみなされます(すなわち、父親であると証明するには他の証拠の提出が必要です)。

秘密保持
DNAプロファイルとDNA鑑定から得られる結果は、極秘情報とみなされます。したがって、DNA鑑定に関する情報は、裁判所が特定した人物にのみ明かすことができます。適切な裁判所命令を受けずにDNA情報の開示、使用又は公表をした場合、間接的侮辱罪に問われ、裁判所から罰金を科される可能性があります。

DNA鑑定研究所
マニラ首都圏には、いくつかのDNA鑑定研究所が存在します。フィリピンでよく利用されるDNA鑑定センターの1つがNatural Sciences Research Instituteです。これは、フィリピン最高峰の国立大学であるフィリピン大学が運営している研究所です。

St. Luke’s Medical Center、Makati Medical Center、Infinitech Centerなどの民間の病院やクリニックも、DNA鑑定サービスを提供しています。

科学の進歩により、DNA鑑定によって得られる情報はより精度の高いものとなってきています。もしかすると、数年後には、DNA鑑定がより頻繁に証拠として採用されるようになるかもしれませんね。

 

2016/10/06

*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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