知っておこうフィリピン法

第90回 会社の債務に対する取締役及び役員の個人的責任

皆さん、こんにちは。Poblacionです。有名なスーパーヒーロー映画でも引用されているとおり、「大いなる力には大いなる責任が伴う」ものです。フィリピンでは、会社の取締役及び役員には、会社の経営及び会社の資産運用(さらにその処分)における広範な権限が与えられています。一方、彼らには、適切な会社の事業運営と株主権利の保護を確実にするという責任も負わされています。会社は、その取締役や役員を通じて行為するものであるから、会社に債務不履行があった場合には取締役や役員にも個人的責任を負わせるべきである、と考える人は多いです。実際、フィリピンでは、会社に対する訴訟が提起されると、殆どの場合、取締役や役員という個人も訴訟の被告に含まれます。

もし、あなたがフィリピン企業の取締役又は役員であるならば、原則として会社が負う債務については、取締役や役員に個人的責任を負わせることはできない、と知って安心されることでしょう。これは、会社には、会社の代表者及び代理として行為する者とは別の独立した法人格が与えられているという事実によるものです。例えば、会社の取締役及び役員は一般的に、会社の従業員に対する退職手当や未払給与等の雇用上の給付については、責任を負いません。また、取締役も役員も、会社が契約した借入れその他の金銭的債務については、通常責任を負いません。これらは、会社自体の責任であり、会社の資金が充当されるべきです。

しかしながら、特定の場合に、取締役及び役員が、会社の債務について個人的に責任を負わされる可能性があります。このことについて、最高裁判所は以下のとおりまとめています。

・会社の取締役又は役員が (a) 会社による明白な違法行為に賛成票を投じたか、同意した場合、(b) 会社の業務の指示において不誠実に、あるいは重大な過失をもって行為した場合、又は (c) 利益相反行為をなし、会社、会社の株主及びその他の人に損害を与えた場合

 

例えば、ある事件において、貸付会社の取締役社長が、会社から会社の出資者に返済されなかった負債について、個人的責任を負わされました。審理の過程で裁判所は、その社長が会社の事業活動について何も知らないようであると述べました。社長は、会社の営業開始時期も会社の主要な出資者も知らず、また、会社の財務記録の保管場所も知らず、出資者が請求した通常の会社文書も提出できませんでした。会社が財務危機に直面していることを知りながら、行動を起こすことも、そのような状況を出資者に知らせようともしませんでした。裁判所は、社長が、会社業務の指示にあたり、出資者の窮状を適切に考慮せず、重大な過失を犯したと判断しました。これにより社長は、会社の債務について、連帯してかつ個別に、出資者に対する責任を負うと判断されました。

取締役又は役員が水増し株の発行に同意した場合、あるいは、そのような発行を知りながら会社秘書役に反論書を提出しなかった場合

 

「水増し株」とは、額面価格又は発行価格より低い対価で発行される株式のことです。水増し株の発行は、会社の真の財務状況について債権者及び投資家に誤認を生じさせるおそれがあるため、禁止されています。水増し株の発行に同意した取締役又は役員は、会社法に基づき、会社及びその債権者に対し、その株に対して受領される公正価格と当該株の額面/発行価格との差額分について、関連する株主との連帯責任を負うことになります。

取締役又は役員が、個人的に会社と連帯責任を負うことに契約により同意したか、約束した場合

 

これは通常、取締役又は役員が、個人の権能において会社の契約に連署する場合、又は会社の負債及び債務の保証人として署名する場合のことです。

取締役又は役員が、特定の法規定により、会社の行為について個人的責任を負わされる場合

 

例えば、担保荷物保管証法に基づき、会社が同法の違反を犯した(すなわち、担保荷物保管証の対象である物品からの収益を引渡さない)場合、懲役刑を含む罰則が、当該犯罪の責任を問われる取締役、役員、従業員又はその他役職者に科されることになります。

以上をまとめると、会社の取締役及び役員は、責任のある地位であるため、会社に対して、遵法義務、注意義務及び忠実義務という三重の義務を負っています。これらの義務を忠実に守っている限り、取締役及び役員は、責任又は訴追について心配することなく、自らに与えられた権限を自由に行使することができます。
もし、フィリピンにおいて取締役や役員に就任される際は、上記を頭の片隅に置いておいて下さいね。

2017/03/03

*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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