日台の法律比較についてのコラム

 

第3回 台湾におけるパテントリンケージの導入の検討

台湾の現行の規範によれば、医薬品について市場販売許可を申請する場合、行政院衛生福利部の食品薬物管理署(以下「TFDA」という)の審査に合格するだけでよく、審査の基準は主に医薬品の安全性、治療効果及び品質についてである。当該医薬品の特許権侵害の有無については、TFDAの審査範囲に該当しないため、当事者が一般的な法律手続に基づき裁判所に特許権侵害訴訟を提訴することができる。

しかしながら、国際的な貿易圧力(特にアメリカとの貿易交渉)により、台湾の立法院は「パテントリンケージ」導入の審査を進めている。パテントリンケージとは、ジェネリック医薬品メーカーが製造、販売許可証の申請を行った後、当該ジェネリック医薬品メーカーが前記の申請事実を関連する特許の特許権者(一般的に新薬メーカー)に通知しなければならない制度を指す。現在、台湾のパテントリンケージ草案においては、当該特許権者が当該通知を受領した後、権利侵害の恐れがあると判断して訴訟を提起した場合、当該特許紛争の解決を待つため、TFDAは当該一般名の医薬品の製造、販売許可証の発給審査を15ヶ月間一時停止しなければならない。

上記のメカニズムは主にアメリカの国会で1984 年に制定された薬価競争及び特許権回復法(Drug Price Competition and Patent Term Restoration Act of 1984;Hatch-Waxman Act)を起源とするものであり、新薬会社に有利な制度となるように、アメリカはその貿易力を利用して、アメリカとFTAを締結している国に対してパテントリンケージを導入するよう要求しており、台湾は将来的にパテントリンケージの導入が予定されている国の一つである。

日本はパテントリンケージを導入していない。日本にはパテントリンケージのような、新薬とジェネリック医薬品の間の紛争を事前解決するための制度がないが、主管機関である厚生労働省は医薬品の製造及び販売許可の審査の際、特許権を明らかに侵害する医薬品に対して許可を発給しないようにしている。「侵害特許権を明らかに侵害する医薬品」の判断基準は、平成21年6月5日付け医政経発第0605001号「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」に記載されている「医療用後発医薬品の承認審査にあたって、先発医薬品の有効成分に特許が存在する場合、その有効成分の製造そのものができない場合は、後発品医薬品は承認されない」というものである。

また、「有効成分」以外の特許抵触については、平成21年1月15日付け医政経発第0115001号「後発医薬品の薬価基準への収載等について」により、薬価収載段階における「事前調整」をもって対応している。事前調整の目的は、承認審査手続き完了後、ジェネリック医薬品の薬価収載に当たり、特許に関する懸念がある品目については、事前に当事者間(新薬メーカー・ジェネリック医薬品メーカー)で調整を行い、安定供給が可能と思われる品目についてのみを収載する手続きをとるように求めていることにある。

もっとも、トランプ大統領の就任後、アメリカがTPP離脱を宣言したことから、台湾のパテントリンケージの審査はしばらく中断している(もともと台湾のパテントリンケージの導入は、TPPの二回目の交渉に参加するためであった)。ところが思いがけないことに2017年10月上旬、中国が突然、「医薬品特許のリンゲージ制度の構築を検討する」と宣言したため、台湾よりも中国で先にパテントリンケージが実現する可能性が高くなっている。

台湾と日本は医薬品の市場販売審査にあたり、特許権利侵害の審査方法が異なり、特に台湾でパテントリンケージが導入された後は、全体的な制度の枠組みはアメリカのパテントリンケージ制度寄りのものとなるだろうが、台湾の製薬産業は主にジェネリック医薬品メーカーから構成されているため、ジェネリック医薬品メーカーに有利な方向性となるよう調整されることが予想される。中国の市場も同じような特色を持つため、日本の製薬関連会社が中国又は台湾の市場に進出する際は、これらの法修正の動向に特に注意していただきたい。

 

2017/11/13

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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執筆者紹介

台湾弁護士 鄭 惟駿

国立陽明大学生命科学学部在学中、基律科技智財有限公司でのアルバイトをきっかけに、大学卒業後も同社で特許技術者として台湾における特許出願(主にバイオ分野)に関する業務に従事。2011年から政府機関の中華民国行政院原子力委員会原子力研究所に勤務。同所の主力製品である放射性医薬品、バイオ燃料等の研究開発に付随する知的財産の権利化・ライセンス業務に携わる。2012年に台湾の弁護士資格を取得後、フォルモサンブラザーズ法律事務所に入所し、研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わった。2015年4月、公益財団法人日本台湾交流協会の奨学金試験に合格し来日、国立一橋大学国際企業戦略研究科に学ぶ。2017年3月同大学研究科を修了、同年4月に弁護士法人黒田法律事務所に入所。