日台の法律比較についてのコラム

 

第5回 台湾では、法人が取締役になることができる

台湾の会社の有価証券報告書を読むと、取締役及び監査役の欄に「法人取締役」と「法人監査役」と記載されているケースがあるかもしれないが、日本では見ることがないものである。日本では法人の取締役や監査役は認められていないが、これは台湾独自の制度なのだろうか?

「法人が取締役になることができる」という制度は、日本には存在しないが、他の国には存在する。
ご存知の通り、日本では会社法第331条1項1号により「法人は取締役になることができない」旨の規定が明文化されている。「法人は取締役になることができない」についても、ドイツ、アメリカ(デラウェア州の場合)も同様である。日本において、法人の取締役を否定すべき理由としては、取締役が株主総会の信頼によって選任されているところ、実際に取締役の職務を執行する自然人が法人の意思によって変更されてしまう可能性があることなどが挙げられている。
しかし、台湾のみではなく、フランス、イギリス等において、法人は取締役になることも可能である。その理由は再投資の活性化である。台湾の場合、会社法(以下同じ)第27条に下記の通り明文化されている。
「(第1項)行政機関又は法人が株主である場合、取締役又は監査役に選任されることができる。但し、自然人を指定して代わりに職務を行使させなければならない。
(第2項)行政機関又は法人が株主である場合、その代表者が取締役又は監査役に選任されることもできる。代表者が複数いる場合、それぞれ選任されることができる。
但し、取締役及び監査役について同時に選任され又は担当してはならない。
(第3項)第1項及び第2項の代表者は、その職務関係に基づきいつでも派遣人員を更迭して従来の任期を補足させることができる。
(第4項)第1項、第2項の代表権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」
上記規定により、法人は台湾で取締役だけではなく、監査役になることも可能である。

台湾における法人取締役又は法人監査役の性質ついて
また、台湾行政院経済部の解釈によると、法人取締役又は法人監査役の性質は以下の通りである。
1. その代表者は株主でなくでも就任することができる(経済部(以下同じ)1967年9月8日商23486号解釈)。
2. 株主総会で選挙手続を行わなくても、いつでもその代表者を更迭することができ、且つ当該法人の意思表示が会社に到達した時からその効力を生じる(1993年3月12日商205706号解釈)。
3. 法人株主は「法人取締役(又は法人監査役)」と「法人代表取締役(又は法人代表監査役)」を二者択一で行使しなければならない(1998年9月29日商字第87223431号書簡)。
4. 法人取締役は代表取締役としても当選することができる。代表取締役であってもいつでも更迭することができるが、更迭後、代表取締役選挙を改めて行わなければならない2005年5月5日商字第09402311260号書簡、同月20日商字第09402061340号書簡)。

また、台湾には「法人取締役(又は法人監査役)」という制度があるのみならず、当該制度は通常の「法人取締役(又は法人監査役)」(第27条1項)、及び恐らく台湾独自のものである「法人代表取締役(又は法人代表監査役)」(第27条2項)の二種類に分けられる。
「法人取締役(又は法人監査役)」と「法人代表取締役(又は法人代表監査役)」の相違点は下記の通りである。
1. 法人株主は「法人取締役(又は法人監査役)」とする場合、一議席しか取得できないが、「法人代表取締役(又は法人監査役)」とする場合、複数議席の取得が可能である。
2. 「法人代表取締役(又は法人代表監査役)」とする場合、その代表者は当該法人株主との間、及び当該会社との間で、両方契約関係が存在する。一方、「法人取締役(又は法人監査役)」とする場合、その代表者は法人株主との間でのみ契約関係が存在する。

上記の「法人取締役(又は法人監査役)」、「法人代表取締役(又は法人代表監査役)」は日本企業からすると理解し難い制度のように見えるであろう。実際にも、台湾には一連の問題が生じており、例えば、経営者が法人名義で取締役又は監査役を務め、実際は背後に隠れて会社を操り、取締役又は監査役が負うべき責任を回避しているといった問題がある。また、「法人取締役(又は法人監査役)」、「法人代表取締役(又は法人監査役)」は株主総会で選挙手続を経ずにいつでも更迭することができるため、専門的な能力を持つ自然人代表者が取締役又は監査役を務めても、意思決定の際に往々にして本領を発揮するすべがなく、職務の執行が法人株主の意思に合致しないことにより更迭させられることを常に心配しなければならず、このため、会社は専門的な統治を受けられず、法人株主の利益に基づき意思決定されることになる。これらの欠点があることからも、会社が専門的な統治を受けられるようにするため、学会では法律改正について長年議論されているが、影響が大きいため、今なおスムーズな改正が実現していない。

前記の通り、「法人取締役(又は法人監査役)」と「法人代表取締役(又は法人代表監査役)」は名義的に会社の取締役(又は法人監査役)であるが、実際にはその法人にコントロールされ、いつでも更迭させられる可能性があるので、その法人の利益のために行動しなければならない。
従って、会社とその法人との間に利益相反の取引、決定事項が生じた場合には、当該「法人取締役(又は法人監査役)」と「法人代表取締役(又は法人代表監査役)」の行動に留意しなければならない。

2018/01/30

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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執筆者紹介

台湾弁護士 鄭 惟駿

国立陽明大学生命科学学部在学中、基律科技智財有限公司でのアルバイトをきっかけに、大学卒業後も同社で特許技術者として台湾における特許出願(主にバイオ分野)に関する業務に従事。2011年から政府機関の中華民国行政院原子力委員会原子力研究所に勤務。同所の主力製品である放射性医薬品、バイオ燃料等の研究開発に付随する知的財産の権利化・ライセンス業務に携わる。2012年に台湾の弁護士資格を取得後、フォルモサンブラザーズ法律事務所に入所し、研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わった。2015年4月、公益財団法人日本台湾交流協会の奨学金試験に合格し来日、国立一橋大学国際企業戦略研究科に学ぶ。2017年3月同大学研究科を修了、同年4月に弁護士法人黒田法律事務所に入所。