東京弁護士コラム

第4回 売買基本契約における特許保証条項及び免責補償条項に関する裁判例の考察
~知高判平27.12.24(判タ1425号146頁)~

 

売買基本契約などにおいて、特許保証条項や免責補償条項を定めることは、多く行われている。本件では、売買基本契約における特許保証条項等の義務違反が争点の1つとなった。本稿では、この点に絞って考察していく。

第1.事案の概要

判決によると、被控訴人(一審原告)及び控訴人(一審被告)間で締結された物品の売買に関する基本契約(本件基本契約)において、以下の特許保証条項等が規定されていた。なお、被控訴人が売主であり、控訴人が買主である。

18条1項:「被控訴人は、控訴人に納入する物品並びにその製造方法及び使用方法が、第三者の工業所有権、著作権、その他の権利(総称して「知的財産権」という。)を侵害しないことを保証する。」
18条2項:「被控訴人は、物品に関して知的財産権侵害を理由として第三者との間で紛争が生じた場合、自己の費用と責任においてこれを解決し、または控訴人に協力し、控訴人に一切迷惑をかけないものとする。万一控訴人に損害が生じた場合、被控訴人はその損害を賠償する。」

ところが、被控訴人が控訴人に納入したADSLモデム用チップセット及びDSLAM用チップセット(本件チップセット)について、第三者である特許権者から、いわゆる侵害警告(ライセンスの申し出)がなされ、結果として、控訴人が当該特許権者に対して、ライセンス料(2億円)を支払った。そこで、控訴人が、被控訴人に対し、「①被控訴人の納入した本件チップセット及びその使用方法等が本件各特許権を侵害するものであり、かつ、②被控訴人が特許権者との間の本件各特許権に関する紛争(本件紛争)を解決することができなかったため、控訴人は、特許権者らに対してライセンス料として2億円の支払を余儀なくされ、同額の損害を被った。」として、本件基本契約18条1項及び2項違反による損害賠償債権を主張した(事案の詳細は、後掲の判決本文をご参照頂きたい)。

第2.裁判所の判断

1.本件基本契約18条1項違反の成否
「控訴人は、原審において、裁判所の釈明に対し、本件チップセットが本件各特許発明の技術的範囲に属することにつき、本件チップセット自体を解析した上での立証を行うつもりがない旨述べたのみならず、当審においても、本件チップセットの具体的構成について…具体的な技術上の裏付けを伴った主張立証を行おうとしない。」
「本件チップセットないし本件製品が、原判決別紙本件製品等構成目録記載の構成を有することも、ひいては、本件各特許発明に係る原判決別紙構成要件目録記載の各構成要件を充足することも、いずれも認めることはできない」
「本件チップセットが本件各特許権を侵害するものであると認めることはできない。したがって、控訴人による本件基本契約18条1項違反の主張は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。」

2.本件基本契約18条2項違反の成否
(1) 本件基本契約18条2項に基づく義務
「本件基本契約には、他に知的財産権侵害を理由とする第三者との間の紛争に対する解決手段・解決方法等についての具体的な定めがないことからすれば、同条2項は、同条1項により、被控訴人は、控訴人に対し、その納品した物品に関しては第三者の知的財産権を侵害しないことを保証することを前提としつつ、第三者が有する知的財産権の侵害が問題となった場合の、被控訴人がとるべき包括的な義務を規定したものと解するのが相当である。」
「同項の文言のみから、直ちに被控訴人の負うべき具体的な義務が発生するものと認めることはできず、上記のとおり、同項は、被控訴人がとるべき包括的な義務を定めたものであって、被控訴人が負う具体的な義務の内容は、当該第三者による侵害の主張の態様やその内容、控訴人との協議等の具体的事情により定まるものと解するのが相当である。」

(2) 本件基本契約18条2項に基づく被控訴人の具体的義務について
「控訴人はWi-LAN社(注:特許権者)から、本件各特許権のライセンスの申出を受けていたこと…、控訴人は、被控訴人に対し協力を依頼した当初から、本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否かについての回答を求めていたこと…、被控訴人、控訴人及びイカノス社(注:本件チップセットの供給元)の間において、ライセンス料、その算定根拠等の検討が必要であることが確認され、イカノス社において、必要な情報を提示する旨を回答していたこと…に鑑みれば、被控訴人は、本件基本契約18条2項に基づく具体的な義務として、①控訴人においてWi-LAN社との間でライセンス契約を締結することが必要か否かを判断するため、本件各特許の技術分析を行い、本件各特許の有効性、本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否か等についての見解を、裏付けとなる資料と共に提示し、また、②控訴人においてWi-LAN社とライセンス契約を締結する場合に備えて、合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を収集、提供しなければならない義務を負っていたものと認めるのが相当である。」

(3) 被控訴人の義務違反について
ア 技術分析の結果を提供すべき義務について
「イカノス社において報告された技術分析の結果は十分なものであるとはいえず、その他、本件証拠上、被控訴人又はイカノス社が、本件各特許の有効性や本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否か等についての見解を、裏付けとなる資料と共に提示したものと認めることはできないから、被控訴人はこれを提供する義務を怠ったものというべきである。」

イ ライセンス料の算定に関する情報を提供すべき義務について
「被控訴人又はイカノス社から、控訴人に対し、ライセンス料の算定に関する情報が提供されたと認めることはできない。」
「被控訴人は、控訴人においてWi-LAN社とライセンス契約を締結する場合に備えて、合理的なライセンス料を算定するための資料を提供すべき義務を怠ったものといえる。」

第3.考察

1.本件基本契約18条1項(特許保証条項)違反について
本条項はいわゆる特許保証条項であり、特許保証条項は取引基本契約書や売買契約書などで頻出の条項である。そして、売主が買主に納品した目的物が、第三者の特許権を侵害したと場合には、買主は、売主に対して、特許保証条項違反により損害賠償請求をなしうる。
ここでポイントとなるのが、本件でも顕在化したが、買主が特許保証条項違反を主張する場合、訴訟法上は、特許保証違反があることを買主が主張立証しなければならないということである。つまり、買主が、「目的物が第三者の特許権を侵害している」(=特許保証違反)ということを主張立証しなければならないのである。この立証は、特許権者でもメーカでもなく、当該技術については知識がない可能性の高い買主にとっては、困難を極めることが予想される。
現に、本件においても、買主である控訴人は、本件チップセットの具体的構成について、具体的な技術上の裏付けを伴った主張立証を行わなかったために、本件チップセットが本件各特許権を侵害するものであると認めることはできないと判断されてしまっている。
このように考えると、買主にとっては、特許保証条項が規定されていれば安心とはいえないことは明らかであって、特許保証条項を具体的に機能させるための規定が必要となってくるといえよう。

2.本件基本契約18条2項違反について
本条項はいわゆる免責補償条項であり、やはり免責補償条項も取引基本契約書等において頻出の条項である。本条項のような、「協力する」及び「迷惑をかけない」という規定は、国内契約で多く見られ、国際契約においては、一方(売主)が全てdefenseしてindemnifyするというのが通常である。「協力する」などという規定になっている場合には、具体的な義務を一義的に導き得ないという解釈もやむを得ないであろう。具体的な義務を求めたいのであれば、その点を契約書に明記しておく必要があるといえる。特に、本判決のように、契約締結後の事情により義務内容を決するような方法では、契約締結時におけるリスクマネージメントの観点からは妥当とはいえない。
免責補償条項については、一方(売主)に全面的にdefenseの義務を負わせることが、買主の立場からすれば明解な手法であり、少なくとも、具体的な義務を列記しておく必要があるといえよう。

(参考)
知高判平27.12.24(最高裁判所ホームページ)

 

以上

2017/05/29

*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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執筆者

パートナー弁護士 吉村 誠