東京弁護士コラム

第5回 「パテントトロールも今やテキサスで薄氷を踏む思い」

1990年代は、米国で「ドラッグとの戦い」に激しさが増した時代でした。連邦裁判所はいずれも、ドラッグ関連事件の処理に追われていました。刑事事件が優先されていたため、特許訴訟のような民事事件は、なかなか裁判官に扱ってもらえませんでした。そこで、特許訴訟を抱える企業は、刑事事件の訴追件数が比較的少ない場所を見つける必要がありました。こうして、テキサス州のマーシャル市という静かな市が選ばれたのです。

話は1957年まで遡りますが、あるウェストバージニア州企業が、ニューヨーク州の裁判所で訴訟を提起されました。そのFourco Glass Co. 対 Transmirra Products Corp事件は、最高裁判所まで持ち込まれ、同裁判所は、企業の設立場所、営業許可を受けている場所、又は事業を行っている場所の裁判管轄区のいずれにおいても、当該企業を訴えられること、並びに、「かかる裁判管轄区は、裁判地という点において、当該企業の居所とみなされる」と判示しました。合衆国法律集第28編第1400条(b) で使用されている「resides(居住する)」という用語の解釈については、企業被告の設立地である州のみを意味する、と同裁判所は判示しました。

一気に30年後の話になりますが、1988年、連邦議会は第1391条(c) を改正し、企業の「residence(居所)」に関する定義を、「設立場所、又は営業許可を受けている場所、又は事業を行っている場所」から「訴訟の開始時に当該企業が人的管轄権に服する裁判管轄区」に変更しました。1990年、連邦巡回区控訴裁判所は、VE Holding事件において、連邦議会による1988年の新たな定義は、特許訴訟の裁判地に関する法、第1400条(b)にも適用されると判示しました。その結果、企業は、当該企業が人的管轄権に服するいずれの州にも「reside(居住する)」こととなり得ます。これは、複数の州になる可能性もあります。このような判断は基本的に、Fourco事件と矛盾するものでした。実際のところ、これにより、企業は、侵害品が販売されているいずれの場所でも提訴される可能性があるということになり、特許権者には多くの場合、米国内のいずれの場所でも訴訟が提起できるという選択肢が与えられました。

テキサス州裁判所東部地区に位置するマーシャル市の小さな町は、「アメリカの特許訴訟中心地」と称されてきました。2015年には、米国特許訴訟全体の44%近くがテキサス州東部地区で提起され、マーシャル市にある裁判所は、ロサンジェルス、シカゴ、サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストン及びデラウェアの連邦地方裁判所を合わせたよりも多くの件数の特許訴訟を扱っていました。侵害訴訟を提起する特許権者は、迅速な審理と原告に有利な評決という評判があることから、テキサス州東部地区を好んできたとも言えるでしょう。これには、被告らにリスク回避を促し、当該地区では比較的高い金額で和解する可能性が高くなる、という独自の効果もあります。
テキサス州東部地区における数十件の特許訴訟から自己を防御する必要のあったSamsungは、マーシャル市の住民により温かく受け入れてもらうための取組みとも思われることをしました。たとえば、Samsungが出資した野外の広いアイススケートリンクは、マーシャル市の歴史的建造物である裁判所の建物と通りを挟んだ向かい側にあります。

2017年5月22日、数十年来の中で最も注目された知財訴訟、TC Heartland LLC 対 Kraft Foods Group Brands LLC.事件において、最高裁判所は、1957年のFourco事件判決を基本的に再確認し、内国企業の居所をその設立地である州に限定することにより、特許権者がフォーラムショッピング(法廷地漁り)をできないようにしました。TC Heartland事件判決に基づき、米国企業被告に対する特許訴訟は、現在、(1)当該企業の居所である地区(設立地である州のみを意味すると定義された)、又は(2)当該企業被告が侵害行為を犯し、かつ、正式に確立した営業所を構える場所、においてのみ提起することができます。
TC Heartland事件判決は、米国企業にとっては、比較的明確な結果を示すものですが、これが外国企業に及ぼす影響は不明確です。最高裁判所の判決は、米国企業の裁判地に限定されており、ある箇所では、当該判決の外国企業に対する含意の検討が明示的になされなかったことを説明する脚注が付されていました。よって、外国企業は内国企業と異なり、従来通り、人的管轄権を有するいずれの州においても特許訴訟を提起される可能性があります。Samsungのアイススケートリンクもおそらく、すぐには無用とはならないでしょう。

 

以上

2017/06/23

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執筆者

米国弁護士 Dana Evan Marcos