東京弁護士コラム

第6回 真正品の改変について

正規に購入した真正品(特許製品、著作物を含む。)に改変・改造・加工・部材交換等(以下「改変等」という。)を加えて転売・譲渡等する行為が、当該真正品に含まれる知的財産権の侵害となることがある。これに関し、特許法、商標法、及び著作権法に絞って、以下概略を述べる。

1. 特許法

特許法の条文上、無権利者が無許諾で業として特許製品を譲渡することは特許権侵害となることとなっている(特許法68条、2条3項1号・3号)。これによると、特許製品の転々譲渡の都度、特許権者の許諾が必要となるが、これでは商品流通が阻害されること甚だしい。
そこで、裁判実務上、転々譲渡に対する権利行使の否定を帰結するための工夫がなされている。
すなわち、特許権者又はその許諾を得た者が譲渡した特許製品については特許権が用い尽くされたと考えて当該譲渡後の権利行使を否定するとの考え方が採用されている(消尽論)。また、並行輸入品に関しては、消尽論は不採用であるが、日本特許に基づく権利行使は原則として否定される、と解されている(但し、特許権者が特許製品の譲渡の際に譲受人との間で販売先ないし使用地域から日本を除外する旨合意し、これが特許製品に明確に表示した場合は除く。)。
しかし、改変等がなされた場合、その内容・程度によっては、実質的に再生産と異ならないなど特許権者の権利行使を許容すべきこともあり、その場合、特許製品との同一性を欠くとの理由づけがなされるのが通例である。ただ、同一性を欠くか否かにつき画一的な基準は存在しない。

これに関し、最高裁判決は、特許製品の属性(製品の機能、構造及び材質、用途、耐用期間、使用態様)、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様(加工等がされた際の当該特許製品の状態、加工の内容及び程度、交換された部材の耐用期間、当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値)のほか、取引の実情等を総合考慮すべき旨説示している(最高裁平成19年11月8日第1小法廷判決参照)。

2. 商標法

商標法の条文上、無権利者が無許諾で指定商品に登録商標が付されたものを譲渡することは商標権侵害となることとなっている(商標法25条、2条3項2号)。これによると、真正品の転々譲渡の都度、商標権者の許諾が必要となるが、これでは商品流通が阻害されること甚だしい。

のみならず、単なる真正品の転売は、商標法の目的に照らして侵害とすべき実質的理由がない。
すなわち、商標法は、商品に付された商標により、需要者・取引者がその出所(具体的には、製造者、販売者、加工者又は輸入者等)を認識することが可能となり、認識された出所に応じて商品の品質に関する一定の期待をもつことが可能となる、という商標の機能維持を目的としており、出所誤認により上記機能が害される可能性がない場合についてまで侵害とすべき理由はない。
真正品の転売は、通常まさにそのような場合に当たるから、実質的違法性を欠き非侵害とされる。また、並行輸入品に関しては、商標が権利者により適法に付されたことのほか、外国の商標権者と国内の商標権者とが同一人又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得る関係にあり(出所の同一性)、国内の商標権者が並行輸入品の品質管理を行い得る立場にあること(保証される品質の実質的無差別)を条件に、実質的違法性を欠くとして非侵害とされる。

しかし、改変等がなされた場合、その内容・程度によっては、商標機能阻害を認めて商標権者の権利行使を許容すべきことがある。その場合、真正品との同一性を欠くとの理由づけがなされることもある。商標機能阻害の有無につき画一的な基準は存在しない。
これに関し、過去の裁判例によれば、改変等による機能・デザイン・形態・用途等を含む品質への影響の内容・大小が考慮要素とされているようである。また、商品の開封・再包装、詰め替え、小分けについては、商標機能阻害が肯定されるケースが多い傾向がある。
なお、改変等を加えたうえで、改変等がなされた旨や改変等を行った業者名を商品に表示すれば、商標機能阻害及び侵害の回避が可能のようにも考えられるが、裁判実務上、出所の誤認可能性の限りなく完全な排除が求められるので、それだけで非侵害の判断に至ることはかなり稀である。

3. 著作権法

著作権法上、映画著作物(劇場用映画に限らず、ビデオソフトやゲームソフトも含まれる)に係る複製物の譲渡については頒布権、それ以外の著作物に係る原作品・複製物の譲渡については譲渡権侵害となり得るが、譲渡権についてのみ消尽を認める旨明文で規定(著作権法26条の2の1項、2項)されている。

しかし、裁判実務上、著作物又はその複製物を譲渡する場合原則として消尽が認められると考えられており、ゲームソフトやビデオソフトの譲渡についても、複製物を公衆に譲渡する権利は、適法な譲渡により消尽すると解されている。
著作物(以下「原著作物」という。)に関して改変等がなされた場合、消尽を否定して譲渡権・頒布権侵害を肯定するまでもなく、翻案権侵害・同一性保持権侵害となし得ることが多いと思われる。
すなわち、改変等のあとも原著作物の表現上の本質的特徴が直接感得することができ、原著作物との同一性が維持されているのであれば、翻案権侵害に当たる。
また、著作物又はその題号につき、著作者の意に反する変更、切除その他の改変がなされた場合には、同一性保持権侵害に当たり得る(ゲームソフトの同一性保持権侵害に関し、最高裁平成13年2月13日第3小法廷判決参照)。

なお、現代社会では、特にプログラム著作物に関し、改変等がなされやすい状況が生じているといえそうだが、プログラム著作物は、小説・音楽・絵画等に比して創作的表現の余地が限定されており、著作権による保護範囲は厳格に解される傾向にある。また、プログラム著作物を利用可能とし、又はより効果的に利用するための改変(リプレース、バージョンアップなど)には同一性保持権は及ばない(同法20条2項3号)。ただ、映像を生じるプログラムの改変行為は、当該映像に係る著作物の翻案権侵害や同一性保持権侵害の問題を生じることに注意を要する。
また、同一性保持権は、条文上、私的領域での行為も侵害とされている(同法50条)。家庭内における使用目的での改変行為も、理論上は侵害となりうる。

2017/08/07

*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

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執筆者

弁護士  池上 慶