第343回 会社のファイルの不当な削除

 今年6月末、台北地方検察署は、鄭という男性が会社のパソコンのファイルを削除した行為に対し、「電子計算機使用妨害罪」の公訴を提起しました。

 本件の概要は次の通りです。

 鄭という男性は、以前、某有名製薬業者A社の董事長アシスタントを務めていましたが、2017年の某日にA社に対して離職の意思をメールで伝えた後、鄭が会社に出勤しませんでした。

 A社が鄭の座席の公用PCを精査したところ、鄭が当該PC内のA社の議事録、プレゼンテーションファイルなどのファイルを既に全部削除していることが分かりました。

 ITエンジニアでさえ復元不可能であったことから、A社は台北地方検察署に対して刑事告訴状を提出しました。

 検察官は調査の結果、鄭の行為は刑法第359条の電子計算機使用妨害罪(他者のPCまたはその関連設備の電磁的記録について理由なく取得、削除または変更をすることにより、公衆または他者に損害をもたらした場合、5年以下の有期懲役、拘留に処す。または60万台湾元=約220万円以下の罰金を科す。もしくは併科する)を構成していると判断し、今年6月30日、鄭に対する公訴を提起しました。

企業の事前対策

 従業員が不愉快なことがあって会社を離職する場合に、会社のPCのファイルを悪意をもって削除するという事案は、実務において珍しくないため、次の対策を講じておくことをお勧めします。

  1. 会社のPCのファイルは、定期的にバックアップをとること。
  2. 会社のPCに、使用プロセスを記録できるソフトウエアを適切にインストールすること。このようにすることで、たとえ会社のファイルが不当に削除されたとしても、行為者が誰なのかを突き止めることができます。
  3. 内部での教育訓練などの方法により、「会社のファイルを不当に削除した場合の法的責任」などについて従業員に伝えておくこと。また、従業員に不法行為があった場合には、その法的責任を追及すべき。

 弊職は、日本企業のために、社内教育訓練の実施や、雇用主を代理しての従業員の不正行為に係る法的責任の追及を日常的に行っています。何か関連する問題がございましたら、弊所までいつでもご連絡ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。