第354回 受領遅滞を理由とする損害賠償請求

 売買において、売り主が約定どおりに売買目的物を買い主に提供したにもかかわらず、買い主が自己都合によりこれを受領しないことがあります。

 このような場合、民法第240条により、売り主は買い主に対して、売買目的物の提供や保管のために発生した費用を請求することができますが、契約解除や損害賠償請求まで認められるかについては、法文上明確ではありません。

 この点について日本法では判例上、受領遅滞を理由とする契約解除および損害賠償請求は原則として認められておりません。台湾では、買い主が売買目的物の引き渡しを受ける義務を負う(民法第367条)ことを理由に、買い主による受領遅滞が「給付遅滞」でもあると判断し、売り主の契約解除権を認めた判例があります(最高法院64年度台上字第2367号)。

 しかし、2020年7月30日に出された最高法院の判決(109年度台上字第1660号。以下、「本件事例」といいます。)では、買い主は、「給付遅滞」の賠償責任を負わないと判断されました。本件事例の概要は次のとおりです。

受領権の不行使

 X(売り主)は、政府機関であるY(買い主)との間で軍需品(以下、「本件目的物」といいます。)の購買契約(以下、「本件契約」といいます。)を締結しました。

 Xが本件契約に従い、本件目的物を納品しようとしたところ、Yの検収をクリアできず争議となりました。その後、XY間で、第三者であるZに本件目的物の外観検査を委託するという内容の調停が成立し、本件目的物がZによる外観検査に合格しました。

 なお、本件契約では、Yが性能検査を実施する旨が規定されていましたが、検査の期限は特に規定されていませんでした。Xは、Zによる外観検査後にYが性能検査を実施しないので、その履行を催告しました。しかし、Yがなお性能検査を実施しないので、Xは本件契約の解除を主張し、予期できた利益の損害を賠償するようYに請求しました。

 これについて裁判所は、「債権者(買い主)の受領遅滞は権利の不行使に過ぎず、債務者(売り主)が民法第240条の規定に基づき請求するか、または当事者間で別途特別な約定がある場合を除き、債権者(買い主)は給付遅滞の賠償責任を負わない」と判断しました。

 本件事例を参考にすると、売買契約の内容によっては、受領遅滞を理由とする損害賠償請求が認められない可能性があると考えられます。

 そのため、売買契約の売り主になる場合、契約書において、買い主側の検収期限を明記し、買い主が受領を遅滞した場合の売り主の契約解除権や損害賠償請求権(違約金)を定めておくことをお勧めいたします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。