第362回 不動産賃貸借契約の公証
一般的に、賃貸借契約の公証は以下の目的のために行われます。
1.賃料、違約金を支払わない、または賃貸借期間が満了しても明け渡しをしない賃借人について、賃貸人は訴訟手続きを飛ばして、公正証書をもって裁判所に直ちに強制執行を申し立てることができる
2.賃貸借期間が満了したが、賃貸人が契約通りに保証金を返還しない場合、賃借人は訴訟手続きを飛ばして、公正証書をもって裁判所に直ちに強制執行を申し立てることができる
このため、賃貸借契約の公証を行うことには、「直ちに強制執行に服する旨を約定しておくことができ、将来、紛争が発生したときに、訴訟手続きを経ずに、裁判所に直ちに強制執行を申し立てることができる」というメリットがあります。
その法的根拠は公証法第13条第1項であり、内容は以下の通りです。
「当事者が次の各号の法律行為に関して公証人に作成を請求した公正証書に、直ちに強制執行に服する旨が明記されている場合、当該証書に基づいて執行することができる。
一、金銭またはその他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とするとき
二、特定の動産の給付を目的とするとき
三、建築物またはその他の工作物を賃借または借用する場合において、期間を定めており、期間満了時に返還しなければならないとき
四、土地を賃借または借用する場合において、耕作または建築に供することが目的ではない旨を約定しており、期間満了時に土地を返還しなければならないとき」
耕作・建築目的は対象外
しかし、借地に建物を建てることに関する契約または借地で農作物を栽培することに関する契約である場合、一般的な建物賃貸借契約と同様に、公証法第13条第1項の規定に従って公正証書を強制執行の名目とすることは可能ではあるものの、同項第4号の内容が「土地を賃借または借用する場合において、耕作または建築に供することが目的ではない旨を約定しており、期間満了時に土地を返還しなければならないとき」であるため、耕作または建築に供することが目的である賃貸借契約の公証を行う場合、直ちに強制執行に服する旨を約定することはできません。
賃借人が契約に違反した場合には、やはり別途訴訟を提起して土地の返還を請求する必要があり、公正証書を執行の名目として直ちに強制執行を申し立てることはできないと解されます。
従って、台湾では土地の賃貸人であろうと、賃借人であろうと、上記の規定に注意しなければならず、たとえ契約当事者双方が直ちに強制執行に服する旨を約定し、かつその旨が公正証書に明記されているとしても、上記の公証法第13条第1項第4号の規定に適合していなければ、その公正証書は執行の名目として成立することができません。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。