第369回 性犯罪者への強制治療
2020年12月31日、性犯罪者に対し受刑後に強制治療を受けさせることが憲法に反するかについて、司法院大法官会議(憲法裁判所に相当)が開かれ、性犯罪者に対し受刑後に強制治療を受けさせることは違憲ではないとの見解が示されました。
台湾刑法には、日本刑法にはない性犯罪者への強制治療に関する規定が存在します。台湾刑法第91条の1では、強制性交罪などの性犯罪者について、再犯の危険がある場合には、相当の場所で強制治療を受けるよう命じることができるとされています。そして、その処分の期間は、その再犯の危険が顕著に低下するまでとされており、毎年、治療停止の必要性について鑑定、評価されます。
強制治療期間、上限設けず
当該規定について要件が不明確ではないかとの意見がありましたが、司法院大法官の解釈では、「再犯の危険がある」、「再犯の危険が顕著に低下」という要件は専門家が認定し、かつ司法審査を経るため、明確性の原則に違反しないとの見解が示されました。
また、強制治療は被治療者の人権を過度に制約するため、比例原則に違反しないかとの意見がありましたが、強制治療は社会大衆の人身の安全などを守るためのもので、被治療者に対する人身の自由の制限は最小限度のものであるため、比例原則にも違反しないとされました。
さらに、最長治療期間が設定されていない点についても、個別の案件の差異に対応するためであり、画一的に設定することができないので、一般的な状況の下では、比例原則に違反しないとの見解が示されました。
しかし、相当長期間の強制治療を行ったにもかかわらず、再犯の危険を顕著に低下させるという目標を達成することができない状況の場合、被治療者にとっては終身監禁ともいうべき状態に置かれるため、比例原則に違反し、憲法に抵触する疑いがあるため、関係機関は調整、改善すべきであるとされました。
日本では、刑事施設において、再犯予防を目的に性犯罪者処遇プログラムを実施していますが、刑期を終えた性犯罪者に対して、強制的に治療を受けさせる制度はありません。台湾では、社会大衆の人身の安全などを守るため、日本と比べて、性犯罪者の再犯予防のための法整備が進んでいるといえます。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。