第374回 外資の台湾支社と責任者の法律関係
日本企業の従業員が日本本社から台湾へ出向した場合、台湾支社の責任者に就任することが多い。このような従業員は日本において、日本本社との間に雇用契約を締結している場合が多いが、台湾において、台湾の労働基準法(労基法)上の権利を主張することは可能か。下記の裁判例をもって説明する。
最高法院2019年度台上字第2087号決定の事件は、香港企業の台湾支社の責任者(原告)が当該外資企業の台湾支店(被告)を訴えた事件である。請求の趣旨は、原告と被告間における雇用契約関係の存在の確認、復職の請求および賃金給付である。ただし、裁判所は最終的に双方間にあるのは委任関係であるとし、原告の請求を棄却した。その理由は以下の通りである。
1.原告は、対内的に一切の事務を管理し、対外的に被告を代表する権限を有し、授権事項について独立した裁量および意思決定の権限を有し、台湾エリアの最上級主管であることから、原告が労務に服する方法について、自由な裁量の余地がなかったわけではなく、明らかに、単純な労務の提供にすぎなかったわけではなかったことが見て分かる。
2.原告は、従業員に対して管理、査定の権限を有していたほか、従業員を募集し、かつ従業員につき事情を斟酌(しんしゃく)した上で昇進させ、研修、指導を実施するなどの権限も有する。
3.原告は、自身は、台湾エリアの人事の請求について、直属の北アジアエリアの主管の同意を得なければならず、独立した決定権限を有さず、また被告の査定を受けなければならなかったと主張した。しかし、現代の企業では会社の管理について、レベルごとに責任を負うことを求めており、一人のみが絶対的な権限を有し、指揮および監督を全く受けないということはない。これは企業のエリア・レベルごとの管理の通常の経営モデルであり、民法における委任関係の性質を参照すると、受任者にも委任者の指示に従って事務を処理しおよび受任した事務を報告する義務があることが明らかである。
4.年収が高い。
以上をまとめると、台湾支社の責任者が上記の1~4の委任契約に該当する特徴を有する場合、台湾の裁判所において、台湾の労基法上の権利を主張することは容易ではないと考えられる。もっとも、いったい雇用または委任のいずれの関係に該当するかについては、個別の案件に応じて判断しなければならず、疑問がある場合は、現地の法律の専門家に相談することをお勧めする。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。