第388回 商業事件審理法の概要
注目を集めている商業事件審理法(以下「本法」といいます)は2021年7月1日から正式に実施され、同日から、新たに成立した「商業裁判所」も正式に運用されています。本法の概要は以下のとおりです。
一、商業事件は商業裁判所による審理に専属(本法第2条、第3条)
「商業事件」は以下の2種類に分けられます。
1.商業訴訟事件
主な適用対象は以下の事件です。
(1)会社責任者が業務執行に起因して会社との間で生じた民事紛争であって、その訴訟物の金額が1億台湾元(約3億9,000万円)以上である場合。
(2)証券取引法、先物取引法、証券投資信託および顧問法等における不法行為に関する民事責任であって、その訴訟物の金額が1億元以上である場合。
(3)株式公開発行会社の株主が株主の身分に基づき株主の権利を行使し、会社、会社責任者に対して民事上の権利義務が生じた紛争事件。
(4)株式公開発行会社の株主総会または取締役会の決議の効力に関する紛争事件。
(5)株式公開発行会社と支配または従属の関係を有し、かつ会社の資本額が5億元以上である株式非公開発行会社の株主総会または取締役会の決議の効力に関する紛争事件。
(6)会社法、証券取引法、先物取引法、銀行法等に起因して生じる民事上の法律関係の紛争であって、その訴訟物の金額または価額が1億元以上である場合において、商業裁判所による管轄について双方当事者が書面により合意した民事事件。
2.商業非訟事件
主に以下の2種類があります。
(1)株式公開発行会社の株式購入価格裁定事件。
(2)株式公開発行会社が会社法の規定に基づき臨時管理人の選任、検査役の選任およびその解任を請求する事件。
二、商業事件における専門家の多用
主に以下のとおりです。
(1)当事者は代理人として弁護士に委任しなければならない(本法第6条、第7条)。
(2)商業調查官の新設(本法第17条)。
(3)商業調停委員の新設(本法第23条)。
(4)商業事件について専門知識を有する専門家証人の導入(本法第47条)。
三、調停前置手続き(本法第20条)
商業事件は、裁判所の審理前に必ず調停を経なければならない。
四、当事者問い合わせ制度の新設(本法第43条から第45条)
当事者は主張または立証の準備のため、裁判所の指定する期間または準備手続きの終了前において、書面に必要事項を列挙して、他方当事者に問い合わせることができ、他方当事者は20日以内に必要な説明を行わなければならず、もし正当な理由なく説明を拒んだ場合、裁判所は、当該事実に関する問い合わせ請求者の主張または問い合わせ請求者が当該証拠に基づき証明すべき事実が真実であると認めることができます。
五、秘密保持命令の新設(本法第55条から第59条)
商業事件の審理過程において当事者の営業秘密を保護するため、秘密保持命令制度が新設されました。当該命令を受けた者は、当該営業秘密を、当該訴訟以外の目的を実施するために使用してはならず、または秘密保持命令を受けていない者に対して開示してはなりません。
商業事件審理法の制定および実施は台湾の司法制度の重要な改革であり、これは、従来の裁判所による商業的性質を有する訴訟の審理における裁判官の専門度、判決の質の悪さの問題を改善することを主な目的としています。台湾の日本企業に商業紛争が発生した場合も本法が適用される可能性がありますので、会社の権利を保障するため、事前に法律の専門家に問い合わせることをお勧めします。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。