第389回 株式会社は自己株式を取得できるか

 日本の会社法第156条によると、株式会社が株主との合意により、自己株式を有償で取得する場合、あらかじめ、株主総会の特別決議により行うことができますが、台湾法上、株式会社が自己株式を取得することは容易ではなく、台湾の会社法(以下同)第167条第1項により原則として禁止されています。台湾法上、株式会社が自己株式を取得する例外について下記の通り説明します。

全ての株式会社に適用できる例外について

1.種類株を回収する場合(第158条)
2.従業員へ譲渡する場合(第167条の1)

 ただし、発行済株式総数の5%を超えず、かつ総金額が留保利益に計上済資本準備金を加算した金額を超えない範囲で自己株式を取得することができますが、取得後3年以内に従業員に譲渡しなければならず、期限経過後も譲渡しない場合には、未発行株式と見なされます。

3.株主が重大決議に反対した場合(第186条)

 株主が株主総会において重大決議を行う前に書面により会社に当該行為に反対する意思を通知し、かつ株主総会において反対した場合、そのときの公正な価額により、その保有する株式を買い取るよう会社に請求することができます。

4.会社が分割されまたは他社と合併する場合(第317条)

 株主は株主総会前にまたは株主総会において、書面により分割または合併の議案に対して異議を申し立てまたは口頭により異議を申し立て、それが記録された場合、議決権を放棄して、その保有する株式をそのときの公正な価額で買い受けるよう会社に請求することができます。

5.株主が清算を行いまたは破産の宣告を受けた場合(第167条第1項但書)

 市価でその株式を回収し、その株主が清算または破産宣告前に会社に対して未弁済の債務の弁済に充当することができます。

6.株主が自ら株式を放棄した場合

 会社は当該株式を無償で取得することになります。

上場会社のみに適用できる例外について

 上場会社は証券取引法第28条の2に従い、下記事由をもって、発行済株式総数の10%を超えず、かつ留保利益に株式プレミアムおよび計上済資本準備金を加算した金額を超えない範囲で自己株式を取得でき、取得後5年以内(ただし、下記3の事由の場合は6カ月以内に株式消却を行わなければならない)に従業員に譲渡しなければならず、期限経過後も譲渡しない場合には、未発行株式と見なされます。

1.従業員に株式を譲渡する場合
2.新株予約権付社債、新株予約権付優先株、転換社債、転換優先株または新株予約権証券の発行に協力するために、持分転換に用いる場合
3.会社の信用および株主の権益を保護するために必要であり買い戻した上、株式消却を行う場合

 日台間において、文化や法律制度は差異が比較的に小さいとは言えますが、上記のように会社法上の相違点は意外と多いのです。そのため、台湾での会社の経営については、必ず現地の法律専門家に相談した上で行うことをお勧めします。


 *本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。