台湾法上の刑事捜査

 最近台湾で、「警察が被疑者の身体検査を行った結果、薬物を発見して逮捕したところ、当該被疑者が裁判所に異議を申し立てて成功し、それに伴い釈放された」という特殊なケースが発生しました。

本件の概要は次のとおりです。

 警察は今年(2021)11月6日の早朝4時40分頃、台北市信義区で飲酒検問を行っていた時に、車両1台を停止させ、後部座席の男性の身体検査を行った結果、当該乗客が折り畳みナイフとケタミンという薬物を60グラム所持しているのを発見しました。そこで警察は「この男性は薬物所持罪の現行犯である」との理由でこの男性を逮捕し、警察局に連行して取調べを行いました。この男性は逮捕された後もかなり冷静であり、即刻、「裁判所により本件の捜査手続の適法性を確認すべきである」と主張しました。

 台北地方裁判所での受理後、裁判官は直ちに警察が捜査時に撮影した映像を検証し、「本件の捜査手続は違法である」との判定を下し、この男性を釈放しました。主な理由は、「警察職権行使法第7条第1項第4号の規定によれば、警察の検問時において、自殺、自傷又は他人の生命若しくは身体を傷つけるに足りる物品を所持していると認めるに足りる明らかな事実がある場合、警察はその身体および所持品を検査することができるが、本件では、警察はこの男性の身体に触れた(検査した)後にポケットの中に刃物のような物があることに気付き、それからそのポケットに手を入れて折り畳みナイフおよび薬物を押収したのであり、不審物に気付いてから身体検査を行ったのではないため、警察の法執行の手続が上記の規定に適合しないことは明白である」というものです。また、裁判官は、本件の折り畳みナイフおよび薬物はすべて警察が違法捜査の手段で入手したものであるため、この男性を逮捕できないだけでなく、当該折り畳みナイフおよび薬物も犯罪を認定する証拠とすることはできないとの考えを示しました。

 台湾の警察が本件のような方法で被疑者の身体から刃物、薬物を入手するのは実務上よくあることですが、本件の男性のように果敢に裁判所に即刻異議を申し立てるケースは少ないです。よって、一般市民は、自身が違法捜査、不当逮捕をされたと思った場合、直ちに裁判所に異議を申し立てるか、又は刑事事件に強い経験豊富な弁護士に相談することを検討すべきと考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修