第418回 警察による強制的な血液検査行為は違憲
憲法法廷は2022年2月25日に第一号判決を下し、道路交通管理処罰条例(以下「本法」)における警察による強制的な血液検査に関する規定は違憲と認定しました。
酒気帯び運転が判明
本件の概要は次の通りです。
16年1月、花蓮県の林という名の男性が飲酒後にオートバイを運転していた時、電柱に衝突して負傷し、その場に倒れました。間もなく、林氏は救急のため病院に運ばれました。
当時、林氏は意識不明の状態だったため、呼気によるアルコール検査を行うことができず、そこで警察は本法第35条第6項(自動車・オートバイの運転者が事故を起こした後に呼気によるアルコール検査を受けることを拒否し、または当該検査を実施することができない場合、交通業務を行う警察または法令に基づき交通取締りの任務を執行する者が、当該運転者を強制的に移送して受託医療機関または受託検査機関に当該運転者に対する血液またはそのほかの検体の採取および検査測定を実施させる)により、病院に依頼して林氏に対する強制的な採血、血液検査を行いました。林氏の血液中のアルコール濃度が非常に高いことが判明したため、検察官は「酒気帯び運転罪」で林氏を起訴しました。
花蓮地方法院(地方裁判所)の第一審手続きで、裁判官は、警察が検察官または裁判官の許可なく市民に対し強制的な血液検査を行うことを認める本法第35条第6項規定には憲法違反の恐れがあると判断し、裁判を停止して、憲法解釈を申し立てました。
緊急時は採血後に許可申請
憲法法廷は審理後、警察による市民に対する強制的な採血、血液検査の行為は市民の身体権および情報権を侵害しており、事前に検察官または裁判官の許可を得なければならないとの判断を示し、本法第35条第6項は違憲と宣告しました。
また憲法法廷は、「第一号判決が下された後(22年2月25日後)に警察が、市民が自発的にアルコール検査を受けることができない状況に遭遇した場合、検察官の許可を得て初めて強制的な採血、血液検査を行うことができる。ただし、緊急の状況の場合には、警察はまず病院に依頼して強制的な血液検査を実施させた上で、24時間以内に検察官に報告して許可を求めることもできるが、検察官がこれを認めなかったときは、3日以内に当該血液検査に係る処分を取り消さなければならない」と指摘しました。
本件の憲法裁判所の判決は、法律面では特に問題はありませんが、現在の実務において、各地の検察署の検察官は既に「受理した事案が多過ぎるため、事案の処理速度が遅い」、「業務量が多過ぎて、自発的に裁判官に転身するかまたは離職する」といった問題を抱えています。
本判決が下された後、検察官の業務負担が一段と重くなるかもしれません。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。