第38回(後編) 外商投資法の施行にどのように対応すればいいのか
事例:
(前回と同様)
日本法人A社は中国法人であるB社、C社、D社とともに、中国において中外合弁企業E社を設立し、展開してきました(出資比率はA社が20%、B社が20%、C社が20%、D社が40%)。
しかし、中国で外商投資法が施行され外商投資企業の在り方が大きく変わると聞きました。
外商投資法の施行によって、E社の経営にどのような影響があるのでしょうか?
1 外商投資法、外商投資法実施条例の規定
前回は外商投資法によって、会社の何が変わるかについて解説しましたが、E社は今後どのように対応すればいいのでしょうか。
三資企業法は廃止されることになりましたが、既存の三資企業は「外商投資法の施行後5年は元の企業組織形式等を保留することができる」とされています(外商投資法第42条第1項、第2項)。
この点、2019年12月26日、外商投資法実施条例(以下「実施条例」とする)が公布され、2020年1月1日から施行されています。この実施条例は外商投資法の行政法規で、法律の規定を詳細にしたものです。
今回の実施条例によって、外商投資法の内容がどのように明確にされたのかについてみていきましょう(下記の条文の下線部は執筆者が強調したものです)。
2 変更するべき内容
既存の三資企業はすみやかに定款と合弁契約等を修正し、最高権力機構について株主会の権限と議決手続、董事会の組織と議決方式などの関連条項を整えなければなりません。
しかし、実施条例では、以下の通り、持分又は権益の譲渡方法、収益の分配方法、残余財産の分配方法の3つについて、組織形式、組織機構等を法により整えた後であっても、引き続き契約の約定の通りに処理できることが明確にされています。
既存の外商投資企業の組織形式、組織機構等を法に基づき整えた後、元の合弁、合作の各当事者は、契約で約定した持分又は権益の譲渡方法、収益の分配方法、残余財産の分配方法等については、引き続き約定に従い処理することができる(外商投資法実施条例第46条)。 |
ここで規定されている持分譲渡について、中外合弁企業法では、第三者への譲渡をするのに合弁相手の同意が必要となっていました(合弁企業法実施条例第20条第1項)。一方、会社法(有限会社)では、定款の定めがある場合を除いて、株主以外の者への譲渡はその他の株主の「頭数の過半数」の同意で足りるとされています(会社法第71条第2項)。
これは少数株主にとっては拒否権を行使しにくくなることを意味します。事例の状況で会社法が適用された場合、B社とC社がD社の持分譲渡に同意した場合にはA社はこれを防ぐことができません。しかし、この規定によって、従前の条件によることができることが明らかにされましたので、E社設立の合弁契約において、第三者への持分譲渡に合弁当事者の同意が必要となっている約定がある場合には、A社は元の約定通りに、D社による持分譲渡を拒否することができます。
3 変更登記手続
具体的な変更登記手続については、実施条例で以下のように規定されています。
外商投資法施行前に《中華人民共和国中外合弁企業法》、《中華人民共和国外資独資企業法》、《中華人民共和国中外合作企業法》により設立された外商投資企業(以下「既存外商投資企業」という)は、外商投資法施行後5年以内は、《中華人民共和国会社法》、《中華人民共和国パートナーシップ企業法》等の法律の規定に基づき、その組織形態、組織機構等を整え、かつ、法に基づき変更登記手続をすることも、既存の組織形式、組織機構等を保留し続けることもできる(実施条例第44条第1項)。 |
既存の外商投資企業が組織形式、組織機構等の変更登記手続をするための具体的な事項については、国務院の市場監督管理部門が規定し、公布する。企業の変更登記処理の利便性を提供するため、国務院市場監督管理部門は変更登記業務の指導を強化し、変更登記手続の取り扱いを担当する市場監督管理部門は様々な方式により、業務を改善しなければならない(実施条例第45条)。 |
登記を変更する際は内資企業の分類に従い、有任会社、株式会社、パートナーシップ企業等を登記し、かつ外商投資であることを明示しなければなりません。
4 情報報告制度
(1)外商投資法、実施条例の規定
外商投資法は、「国家は外商投資情報報告制度を構築し、外国投資家又は外商投資企業は企業登記システム及び企業信用公示システムを通じて、商務主管部門に投資情報を申告しなければならない」と規定しています(外商投資法第34条)が、実施条例では以下のように具体化されています。
外商投資家又は外商投資企業は、企業登記システム及び企業信用情報公示システムを通じて、商務主管部門に対し、投資情報を申告しなければならない。国務院の商務主管部門及び市場監督管理部門は、関連する業務システムの接続と業務連携を適切に行い、かつ外国投資家又は外商投資企業による投資情報の提出のために指導を与えなければならない(実施条例第38条)。 |
外商投資情報報告の内容、範囲、頻度、具体的な流れについては、国務院の商務主管部門が、同国務院の市場監督管理部門等の関連部門と共同で、必要性、効率性、利便性の原則に従って定め、公布する。商務主管部門、その他関連部門は情報共有を強化しなければならず、部門の情報共有を通じて十分に獲得できる投資情報は、外国投資家又は外商投資企業に更に申告を要求することができない。外国投資家又は外商投資企業が申告する投資情報は、真実、正確、完全なものでなければならない(実施条例第39条)。 |
(2)外商投資情報報告弁法
これを明確にするため、外商投資情報報告弁法が2020年1月1日から同時に施行されており、従来の外商投資企業の届出制度に代わることになりました(外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法が廃止)。
上記の変更登記手続と外商投資情報報告との関係ですが、外商投資情報報告の提出は、外商投資企業登記取り扱いの必要条件ではなく、登記機関は外商投資情報報告について審査はしないものとされています(「外商投資法」の実施の徹底、外商投資企業登記登録業務の適切な処理に関する通知第3条)。
本法は外国投資家又は外商投資企業は、初期報告、変更報告、抹消報告、年度報告等を提出する方式により投資情報を申告しなければならない(外商投資情報弁法第8条)と定めています。
以下は、それぞれの報告について、条文を基に変更時期、報告内容、報告方法の違いをまとめたものになります。
報告 | 変更時期 | 報告内容 | 報告方法 |
初期報告 | ①外商投資企業の設立登記をするとき(外商投資情報報告弁法第9条第1項)。②国内の企業を買収し、買収された企業の変更手続を行うとき(外商投資情報報告弁法第9条第2項) | 企業の基本情報、投資家及びその実質支配者情報、投資取引情報等の情報(外商投資情報報告弁法第10条) | 企業登記システムで行う。 |
変更報告 | ①変更内容が企業変更登記(届出)に関連する場合には、企業変更登記手続を行うとき(外商投資情報弁法第11条第1項)。 ②企業変更登記(届出)に関連しない場合には、変更事項発生後20営業日以内(外商投資情報弁法第11条第2項)。 ③企業は定款に基づき変更事項について決議した場合には、決議の日をもって変更事項の発生日とし、法令が変更事項の効力発生要件について他の要求をしている場合には、要求を満たした日をもって変更事項の発生日とする(外商投資情報弁法第11条第2項)。 |
企業の基本情報、投資家及びその実質支配者情報、投資取引情報等の情報に関わる変更状況(外商投資情報報告弁法第12条) | |
抹消報告 | ①外商投資企業が抹消された場合 ②内資企業へ転じる場合(外商投資情報報告弁法第13条) |
企業抹消登記又は企業変更登記手続を行うことで、抹消報告の提出とみなされる。関連する情報は市場監督管理部門を通じて商務主管部門へ送られるため、外商投資企業は別途申告する必要はない(外商投資情報報告弁法第13条)。 | |
年度報告 | ①2019年12月31日以前に中国国内で法に基づき設立、登記された外商投資企業は、2020年1月1日から6月30日までの期間(外商投資情報報告弁法第14条第1項)。 ②2020年1月1日より後に設立した外商投資企業は、設立の次の年の1月1日から6月30日までの期間(外商投資情報報告弁法第14条第2項)。 |
①企業の基本情報、投資家及びその実質支配者の情報、企業経営及び資産負債等の情報。 ②ネガティブリストに該当し、参入許可を得る必要がある場合には、関連する業種許可の取得情報も提供する(外商投資情報報告弁法第15条)。 |
国家企業信用情報公示システムで行う。関連するデータ情報は商務、市場管理監督、外国為替部門間で共有される。 |
5 5年経過後の処理
5年間の期限が過ぎても変更登記手続をしなかった場合の処理について、実施条例では以下のように定められました。
2025年1月1日から、法により組織形式、組織機構等を整えず、かつ変更登記手続をしない既存の外商投資企業に対しては、市場監督管理部門はその他の登記事項のその申請を処理せず、かつ、関連状況を公示することができる(外商投資法実施条例第44条第2項)。 |
現時点の規定においては、期限を過ぎても変更登記手続をしない場合に市場監督管理局からの処罰などはありません。変更していない企業は理論上、期限経過後も引き続き営業することが可能ですし、年度申告手続も可能です。しかし、当局へ他の変更登記手続を行うことができなくなるため、企業内部で変更が発効しても、それを対外的に対抗できなくなるリスクがあります。董事の変更、代表者の変更、経営範囲の変更、住所の変更、増資などについても対抗できなくなってしまいます。
上記の通り、既存の中外合弁企業においては定款の修正に董事会会議に出席する董事の全員の一致が必要であり、修正内容について争いが起こると円滑に修正が進まないリスクがあります。そのため、5年の猶予期間に関わらずなるべく早めに検討に着手した方が良いでしょう。
*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
*本記事は、Mizuho China Weekly News(第840号)に寄稿した記事です。