第45回 剰余利益の配当

Q日本企業X社は、中国において、中国企業Y社と合弁会社Z社(有限責任会社)を設立しました。

持分割合はX社が30%、Y社が70%です。X社としては、Z社は利益が多く出ているため剰余利益の配当を希望しているのですが、Y社が配当案の株主会の決議に同意してくれません。しかし、Y社はZ社のほとんどの役員を選任しており、その役員たちは明らかに高すぎる役員報酬をもらっています。それにもかかわらず、X社が配当を受けられないことは不公平だと考えています。なんとかしてX社はZ社に対し剰余利益の配当を請求できませんでしょうか?

AX社がZ社に対して剰余利益の配当を請求するためには、原則、株主会の決議が必要になります。しかし、Z社が剰余利益の配当をしないにもかかわらず、Y社が選任した役員が明らかに高すぎる役員報酬を受け取っている場合には、「法律規定に違反して株主の権利を濫用したために会社が利益を配当せず、その他の株主に損失をもたらした場合」に当たるとして、剰余利益の配当を請求できる場合があります。

解説

1 総論
 剰余利益の配当を受ける権利(以下、「剰余利益配当権」という)は、株主が出資比率(又は株式比率)に応じて、又は定款、合弁契約に規定した分配の割合に応じて会社の剰余利益の分配を受ける権利です。会社に対して出資する主要な目的は収益を得ることにあるため、剰余利益配当権は株主にとって核心たる重要な権利になります。

 そこで今回は、剰余利益の配当方法や、多数株主により剰余利益配当権を侵害された少数株主の保護の方法について説明していきます。

2 剰余利益の配当方法
(1)総論
 株主が会社に対して、剰余利益の配当を請求するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

①配当可能な剰余利益があること
②剰余利益の配当案が董事会で作成され、株主会(又は株主総会)で決議されたこと

(2)配当可能な剰余利益
ア 総論
 会社に当年の利益が出ていても必ずしも株主に配当できるわけではありません。会社の資本を維持するため、中国会社法では、配当することができる剰余利益の内容が定められており、これが無い場合には株主に配当をすることができません(中国会社法[3]第166条第4項)。

 配当可能な剰余利益は、当年の税引き後の利益から、欠損を補填し、法定準備金任意準備金を積み立てた後の残額です。

もし、欠損の補填及び法定準備金の積み立てに違反した決議により配当した場合は、株主はこれにより配当された利益を会社に返還しなければなりません(同条第5項)。

イ 準備金の積み立て
 会社は、当年の税引き後の利益を分配するときは、その利益の10%を会社の法定準備金として積み立てる必要があります。しかし、会社の法定準備金の累計額が会社の登録資本金の50%以上である場合は新たに積み立てる必要はありません(同条第1項)。

 また、会社は法定準備金を積み立てた後、株主会(又は株主総会)の決議を経て、税引き後の利益からさらに任意準備金を積み立てることができます(同条第3項)。

ウ 欠損の補填
 また、会社の法定準備金が過去の年度の会社の欠損を補填するのに不足する場合、前項の規定により法定準備金を積み立てる前に、当年の利益をもって欠損を補填しなければなりません(同条第2項)。

(3)分配方法
 有限責任会社の場合、出資者は実際に払い込んだ出資比率により配当を受ける権利を有します。但し、全出資者が出資比率によって配当を受けとらないことを定款や合弁契約等により約定している場合はこの限りではありません(中国会社法第166条第4項、第34条)。

 株式会社の場合、株主は保有する株式比率により配当を受ける権利を有します。但し、定款に保有比率によらないと定めている場合はこの限りではありません(中国会社法第166条第4項)。

(4)決定機関
 上記の配当可能な剰余利益がある場合であっても、配当の決定は法定手続に従って行う必要があります。剰余利益の配当案は董事会により作成(中国会社法第46条第5号、第108条第4項)されますが、株主会(又は株主総会)はその作成された剰余利益の配当案を審議して承認する権限を有します(中国会社法第37条第1項第6号、第99条)。

 この決議によって、剰余利益の配当請求権は抽象的な期待権から具体的な請求権になります。

従来は、中外合弁企業において、利益の配当は董事会により決定が行われていました(中外合弁企業法第6条第2項)。現在ではこの規定は失効していますが、外商投資法が施行されてから5年間はこの決定方法を維持することができます(外商投資法第42条第1項、第2項)。

3 少数株主の保護
(1)総論
 剰余利益について、配当するか、またどのように配当するかは株主会(又は株主総会)の決議によって会社内部で自主的に決めるのが原則です。

 しかし、近年、会社の多数株主が株主権を濫用し、少数株主の利益を侵害して剰余利益の配当をさせない状況が発生しており、例外的に人民法院の介入によってこれを強制する必要性が議論されていました。

 剰余利益の配当がない場合、少数株主を保護する方法として、会社に利益があり、かつ剰余利益の配当条件を満たしているにもかかわらず、連続して5年間、会社が剰余利益の配当をしない場合には株主は会社に対して持分の買取りを請求することができる方法があります(中国会社法第74条第1項第1号)。

 この方法があることや会社自治を理由に、人民法院の介入に慎重な立場の裁判例が大多数でしたが、会社法適用の若干問題に関する規定(四)において、剰余利益の配当を受けられない少数株主を保護するため司法救済の方法が規定されました。その方法は大きく分けて、株主会(又は株主総会)の決議がある場合とない場合に分けることができます。

(2)株主会(又は株主総会)の決議が成立している場合
ア 原則
 株主会(又は株主総会)の決議が成立済みの場合、株主は具体的な配当案を記載した当該株主会(又は株主総会)の有効な決議書を提出して、会社に剰余利益の配当を請求することができます。株主がこれを提出した場合、会社は、決議書に記載されている具体的な配当案に従って株主に剰余利益の配当をしなければなりません(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第14条)。

イ 例外
 上記の例外として、会社が提出する決議を執行できないことに関する抗弁が成立する場合には、会社は剰余利益の配当を拒絶することができます(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第14条)。

 しかし、この「決議を執行できないことに関する抗弁」にどのような事由が含まれるかについては明確ではありません。回収見込みだった債権を回収できない場合やキャッシュフローが不足してしまった場合等が考えられますが、このような事由が含まれるかどうかは、今後の解釈判断を待つ必要があります。

(3)株主会(又は株主総会)の決議が成立していない場合
ア 原則
 上記の通り、株主が剰余利益の配当を求める場合、具体的な配当案が記載された株主会(又は株主総会)の決議書を提出する必要があります。もしこれらの決議書が提供されない場合、剰余利益の配当請求は棄却されることになります。

イ 例外
 上記の例外として、「法律規定に違反して、株主の権利を濫用したために会社が利益を配当せず、その他の株主に損失をもたらした場合」は、人民法院は会社自治に介入して株主会(又は株主総会)を開催して剰余利益の配当を決議するように判決することができます(会社法適用の若干問題に関する規定(四)第15条)。

 しかし、この方法は不公平を是正するための例外的な介入であることから慎重に判断されるものと考えられます。

 「株主の権利の濫用」の具体的な内容について、「会社法適用の若干問題に関する規定(四)」においては規定されていませんが、最高人民法院の記者会見においては、例として、以下の3つが挙げられています。

①会社が剰余利益を配当しないにもかかわらず、役員を務める株主や株主により派遣された役員の報酬が、規模や業績が近い同じ業界の会社の報酬水準と比べて明らかに高すぎる場合

②支配株主が、自身のために、会社と関係のない財物やサービスを購入して、形を変えて株主に剰余利益を配当している場合

③剰余利益を配当しないために、会社の利益を隠ぺい、移転している場合

(4)その他の手法
 剰余利益の配当については、会社法上の規制であることはもちろん、当事者間の合弁契約でも定められています。そして、もし多数株主である中国企業が正当な理由なく合弁会社による利益配当を行わない場合、少数株主である日本企業は、合弁契約違反を主張しながら速やかな利益配当を求めることも考えられます。また、弊所の経験上、合弁契約の締結段階で、仮に正当な理由なく合弁会社による利益配当がされないときには合弁契約を解除できる仕組みを、あらかじめ合弁契約に盛り込むことができれば、日本企業が少数株主の立場であったとしても、多数株主である中国企業に対して合弁契約の解除という武器を交渉手段にしながら利益の適切な配当を要求する余地が考えられます。

4 本件の検討 
 X社がZ社に対して剰余利益の配当を求めるためには、株主会の決議が必要になるのが原則です。
本件では配当案について株主会の決議がなされておらず、X社はこの決議を提出することができません。
 しかし、Z社が剰余利益の配当をしないにもかかわらず、株主であるY社が選任した役員の報酬が、規模や業績が近い同じ業界の会社の報酬水準と比べて明らかに高すぎる場合には、「法律規定に違反して株主の権利を濫用したために会社が利益を配当せず、その他の株主に損失をもたらした場合」に当たるとして、剰余利益の配当を請求できる場合があります。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第867号)に寄稿した記事です。