第49回 会社の監督機関(監事会)

Q:日本企業X社は、中国において、中国企業Y社と合弁会社Z社(有限責任会社)を設立しました。
持分割合はX社が30%、Y社が70%です。
Z社にはX社より送られた監事A・BとZ社の従業員の代表であるCによる監事会が設置されていますが、Z社の董事であり董事長でもあるDは、監事会に対してZ社の経営状況や資料について何ら報告をしてきません。
監事会は、Dに対して、どのような対応をすることができるでしょうか?

A:董事であるDは、監事会に関連状況及び資料を事実に即して提供しなければならず、監事会の権限行使を妨害してはなりませんが、監事会が権限行使に必要な情報、資料を得ることができない場合であっても、中国会社法には、直接的な司法救済の規定がありません。しかし、監事会はDの法令違反を理由としてDの罷免提案や損害賠償請求をする対応が考えられます。

解説

1 総論 
 監事会(日本の監査役会に相当)は会社の監督機関で、会社の組織機構の一つです。監事会は株主の委託を受けて会社の執行機関が法律、会社定款、株主会決議を遵守しているか等を監督する責任を負っており、会社の内部統制上、重要な役割を有します。
そこで今回は、監事会の規定について、日系企業の多くが採用している有限責任会社を例に説明していきます。

2 監事会の構成
(1)監事会の設置
 有限責任会社は、原則として、監事会を設置しなければなりませんが、株主の人数が比較的少なく、又は規模が比較的小さい有限責任会社の場合は、1名又は2名の監事を置き、監事会を設置しないことができます(中国会社法第51条第1項)。

(2)監事
 有限責任会社の監事会は、3名以上の監事により構成されます(中国会社法第51条第1項)が、13名を上限としている董事会(中国会社法第44条第1項)と異なり、監事会の人数には上限が規定されていません。
監事会は、監事全体の過半数により主席を1名選任します(中国会社法第51条第3項)が、その他の監事については選任や解任の明確な規定がなく、会社定款で明確に定めることになります。
 董事の任期は、3年を超えなければ会社定款により自由に定められる(中国会社法第45条第1項)とされていますが、一方、監事の任期は3年(任期満了後は再任可能)に固定されています(中国会社法第52条第1項)。
 なお、董事及び高級管理職は、監事を兼任することができません(中国会社法第51条第4項)。

(3)株主代表、従業員代表
 監事会は、株主代表と適当な比率の従業員代表を含まなければならず、そのうち、従業員代表の比率は3分の1を下回ることができません。監事会の従業員代表は、従業員が従業員代表大会、従業員大会又はその他の形式を通じて選挙によって選出されます(中国会社法第51条第2項)。
なお、このように監事会を設置する場合には従業員代表を含む必要があり、多くの日系企業では日本企業単独又は中国企業と共同で出資されるため、当局からの要求がない限りは、監事会ではなく1名又は2名(日本企業から1名、中国企業から1名)の監事を設けるケースが多くなっています。

3 監事会等の権限
 
監事会又は監事会が設置されていない場合における監事(以下、まとめて「監事会等」といいます)は、次に掲げる権限を行使することができます(中国会社法第53条)。なお、この権限は株式会社の場合も同様です(中国会法第118条第1項)。

①会社の財務の検査
②董事、高級管理職の職務執行に対する監督、法律、行政法規、会社定款、株主会決議に違反する董事、高級管理職に対する罷免の提案
③董事、高級管理職の行為が会社の利益に損害を与える場合に、董事、高級管理職に対する是正の要求
④臨時株主会会議開催の提案、董事会が中国会社法に定める株主会会議の招集及び主宰の職責を履行しない場合の株主会会議の招集及び主宰
➄株主会に対する意見の提出
⑥中国会社法第151条の規定に基づく、董事、高級管理職に対する訴訟の提起
⑦会社定款に定めるその他の権限

上記の他、監事は、董事会会議に列席し、董事会の決議事項について質問又は意見を提出することができます(中国会社法第54条第1項)。
 また、董事、高級管理職は、監事会等に関連状況及び資料を事実に即して提供しなければならず、監事会等の権限行使を妨害することができません(中国会社法第150条第2項)。
 監事会等は、会社の経営状況の異常を発見した場合には調査をすることができます。必要な場合には、会計事務所等を招いて、その業務への協力を要請することができ、その費用は会社が負担します(中国会社法第54条第2項)。
 会社が負担する費用については、これらに限られず、監事会等がその権限を行使するために必要とする費用は、会社が負担します(中国会社法第56条)。

4 監事会の手続
 
有限責任会社の監事会については、株主会のように会議を開催せずに決定できる書面決議の規定(中国会社法第37条第2項)がないため、上記の権限については、監事会の決議の方式で行使する必要があります。

(1)会議の類型
 有限責任会社の監事会は、少なくとも毎年1回は開催しなければならず、監事は臨時監事会会議の開催を提案することもできます(中国会社法第55条第1項)。

(2)招集と主宰
 監事会の主席は、監事会会議を招集し主宰します。監事会の主席が職務を履行できない場合又は職務を履行しない場合は、半数の監事が共同で推薦する1名の監事が監事会会議を招集し主宰します(中国会社法第51条第3項)。

(3)通知
 中国会社法には、監事会会議の通知について明確な規定がありません。このため、会社定款に明確な規定を定めるか、定款の付属文書として監事会の議事規則に定める必要があります。
 参考として、上場会社については、「上場会社定款手引(2014年改訂)」第148条において、監事会会議の通知の内容について、会議の日時、場所、期限、事由及び議題、通知を発した日時を含むと定められています。

(4)議事方式
 会議の議事方式については、中国会社法の定めがある場合を除いて、会社定款により定めることができます(中国会社法第55条第2項)。
そのため、現場会議、電話会議、ビデオ会議のいずれの方法でも行うことが可能です。

(5)議決手続
 会議の議決手続についても、中国会社法の定めがある場合を除いて、会社定款により定めることができます(中国会社法第55条第2項)。そのため、特定の監事に否決権を与える規定をすることも可能です。
 定足数(会議の最低出席人数)については、明確な規定がなく会社定款により定めることが可能ですが、決議については、半数以上の監事により行わなければなりません(中国会社法第55条第3項)。また、監事会の決議事項については、株主会(中国会社法第43条第2項)のように特別決議と普通決議に分かれていません。
 注意が必要なこととして、「以上」というのは、その数を含む(中国民法第1259条)ため、賛成票と反対票が同数の場合は決議が成立することになります。一方、上記のように主席の選任については全監事の過半数の選挙により行いますが、この場合は「過半数」であるため、同数投票の場合は決議が成立しません。

 この「以上」と「過半数」の意味の誤解があると、決議の成否が大きく変わってしまう可能性があるため注意が必要です。

5 監事会への妨害
(1)司法救済
 董事会や株主会において適切な権限行使ができなかった場合であれば、会社決議の無効(中国会社法第22条第1項)、会社決議の取消し(中国会社法第22条第2項)、会社決議の不成立(会社法適用の若干問題に関する規定(四)[4]第5条)の3つの訴えの手段が規定されていますが、監事会等の権限行使が阻まれた場合についてはこのような規定がありません。

(2)罷免の提案
 しかし、監事会等は、「法律、行政法規、会社定款、株主会決議に違反する董事、高級管理職に対する罷免の提案(中国会社法第53条第2号)」の権限を有しているため、更迭権限を有する株主会又は董事会に対して罷免提案の方法をとることができます。

(3)損害賠償請求
 また、董事、監事、高級管理職は、会社の職務を執行する際に、法律、行政法規又は会社定款の定めに違反し、会社に損害を与えた場合には会社に対して損害賠償責任を負わなければなりません(中国会社法第149条)。そのため、監事会等の権限行使への妨害によって会社に損害を与えた場合には、中国会社法第151条の規定に基づいて、監事は会社を代表して、董事、高級管理職に対して損害賠償請求をする余地もあります(中国会社法第53条第6号)。

6 本件の検討
 
董事であるDは、監事会に関連状況及び資料を事実に即して提供しなければならず、監事会の権限行使を妨害してはなりません(中国会社法第150条第2項)が、もし監事会が権限行使に必要な情報、資料を得ることができない場合であっても、この権利が害されたことを理由とする直接的な司法救済の規定がありません。
 しかし、Dの対応は、法律の規定に違反するため、監事会としては、Dに対する罷免を株主会や董事会に提案をする方法が考えられます。
 また、Dが監事の権限行使に必要な情報、資料を提供しなかったことで、会社の監督機能を有効に発揮できずに、会社に損害を与えた場合には、Dに損害賠償請求をする方法も考えられます。


*本記事は、一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

*本記事は、Mizuho China Weekly News(第881号)に寄稿した記事です。