第28回 生成AIのビジネス利用における著作権問題
生成AIのビジネス利用にあたって考慮すべき法的問題には種々のもの(営業秘密、個人情報、肖像権の毀損又は侵害のリスクなど)が考えられますが、以下では、著作権(著作者人格権及び著作隣接権は含みません。)の問題に絞って概略を説明します。
1. 著作権侵害リスクについて
一般に、無権限で他人の著作物に依拠してその創作的表現と部分的にでも同一又は類似の著作物を再製する行為は、権利制限規定に該当する場合を除き、著作権侵害となるリスクがあります。
生成AIの利用に関しては、主に、①ファインチューニング・追加学習、②プロンプト入力、③AI生成物の利用の各段階で著作権侵害のリスクが問題となります。
① ファインチューニング・追加学習
他人の著作物を学習用データに用いて既存モデルのファインチューニング・追加学習等を行うことが著作権侵害となるか否か問題となりますが、この場合には、通常、非享受利用に関する権利制限規定(著作権法30条の4)に該当し、著作権侵害とはならないと考えられています。
非享受利用というのは、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」のことであり、情報解析の用に供する場合が含まれます。「思想又は感情」は、人の考えや気持ちといった程度の意味であり、表現それ自体とは区別されます。
AIの学習用データとして著作物を記録・提供等する行為は、通常、非享受利用に該当し、著作権侵害は不成立です。
但し、以下のような場合には、上記規定の適用範囲外となり、権利者に無許諾で著作物を利用すると著作権侵害のリスクが生じます。
- 著作権者の利益を不当に害することとなる場合(例えば、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合など)
- 非享受利用のために必要と認められる限度を逸脱する場合
- 非享受利用以外の目的(享受する目的)が併存する場合
② プロンプト入力
他人の著作物をプロンプトとして入力することが著作権侵害となるか否か問題となりますが、この場合の著作権侵害の成否はケースバイケースです。
プロンプトは、生成AIによる処理を目的として入力されるものですので、非享受利用に該当すると判断されて著作権侵害不成立となるケースが考えられる一方で、プロンプト入力の目的と当該入力に対する出力結果であるAI生成物の利用目的とを連続的・一体的に捉えるべきケースもあると考えられ、その場合には、享受する目的の存在が肯定される可能性が少なくなく、著作権侵害成立のリスクが生じると考えられます。
例えば、プロンプトとして入力された著作物中に表現された「思想又は感情」がその出力結果たるAI生成物に含まれると判断できるような場合には、当該「思想又は感情」は、AI生成物を介して人による享受に供されるということができますので、享受する目的があると判断されて著作権侵害が肯定される可能性があると思われます。
もっとも、著作権法の保護対象は、(「思想又は感情」と区別された)表現のうち創作的部分に限られますので、創作的とまではいえない表現(ありふれた言い回し・フレーズなど)を入力するだけであれば、著作権侵害は成立しません。
③ AI生成物の利用
他人の著作物と同一又は類似するAI生成物が生じた場合、そのようなAI生成物を利用することが著作権侵害となるか否か問題となりますが、これについては現在議論が行われており、成否の判断が困難であるというのが現状です。
問題とされているのは著作権侵害の成立要件のうち「他人の著作物に依拠して」の部分です。
この要件は、偶然の一致又は類似を非侵害とするためのものですが、当該「他人の著作物」が公表済みでアクセス可能といえるようなケースでは、通常、「依拠しない限りこれほどは類似し得ない」といった判断により、比較的緩やかに該当性が肯定される傾向にあります。
しかし、AI生成物の場合は状況が異なります。
AI生成物に関しては、一定の場合に依拠を肯定する見解(AIの学習用データセットに当該「他人の著作物」が含まれる場合に依拠を肯定する見解など)のほか、依拠を否定する見解(学習用データセットに含まれるデータはパラメータとして抽象化・断片化されており「著作物の表現」 は含まれないから依拠不能と考える見解など)も有力であり、裁判等において依拠の有無がどのように判断されるか予測困難です。
このような状況では、依拠が肯定され得るという前提で対応するのが無難であり、他人の著作物と同一又は類似するAI生成物を権利者に無許諾で利用するのは控えた方がよいといえます。
もっとも、ここでの「類似」は、創作的表現における類似に限られます。具体的表現以外の部分(単なるデータ・事実、作風・画風など)、又は創作性がない表現(ありふれた表現、過去に多くの使用例のある表現など)における類似にとどまる場合には、著作権侵害は成立しません。
2. AI生成物に係る著作権について
前述のとおり、著作権法の保護対象は創作的表現に限られるのですが、ここでの「創作」の主体は人に限られると考えられますので、原則として、AI生成物には著作物性が認められません。
もっとも、AI生成物であっても、人の創作的寄与が認められる場合には、当該寄与に係る表現部分について著作物性が肯定され、当該寄与を行った人(職務著作の場合には、法人その他使用者)がその著作権を取得します。
具体的にどのような創作的寄与があれば著作物性が認められるか明確な基準はありませんが、例えば、AI生成物に人が編集・加工を加えた場合において、当該編集・加工部分に創作的表現が含まれるのであれば、当該表現部分に著作物性が肯定されると思われます。
*本記事は、法律に関連する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
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