第522回 消防法違反と過失致死罪

2020年4月にKTV(カラオケボックス)最大手、銭櫃(キャッシュボックス・パーティーワールド)台北林森店で火災が発生し6人が死亡した件について、2024年5月15日、当時の店長らの刑事裁判の第一審判決が下されました。

当該裁判では、店長らが消防法に違反して消防安全設備(スプリンクラー、排煙システム、火災感知器等)を使用できない状態にしており、結果として多くの死傷者を出した行為について、過失致死罪(刑法第276条)が成立するかが問題となりました。

店長は有罪

店長の罪責に関する裁判所の判断の主な点は以下のとおりです。

・本件火災はエレベーターの増設工事期間中に発生したが、工事実施の有無に関係なく、店長は、KTVの消防安全設備を作動可能な状態に維持するために、保守し、または監督する注意義務を負っており、消防安全設備が作動しない場合、防火のための有効な代替措置を講じなければならない。

・店長は、消防安全設備を稼働可能な状態に維持するための保守または監督を怠り、かつ防火区画が破壊されており、防火のための有効な代替措置を講じていなかったため、多くの人が死傷したことから、店長は、刑法第276条の過失致死罪の責任を負う。

董事長は無罪

董事長の罪責に関する裁判所の判断の主な点は以下のとおりです。

・本件火災の際、消防安全設備の電源が切られていたが、同店には法律に従い消防安全設備が設置されており、かつ法定の期限に従って保守が行われていた。

・董事長はKTVの支店の事務について随時指揮監督するものではなく、かつ会社内には明確な責任階層があり、支店の最高責任者は店長であった。

・エレベーターの増設工事は董事長の指示に従わず施工方法が変更されていたので、董事長には違法な点がない。

消防法等に違反して、適切に消防安全設備が使用可能な状態にしていなければ、過料が科されるだけでなく、最悪の場合、上記事件のように刑事責任まで負うことになります。このため、消防法等に違反している状態に気付いた場合、直ちに是正する必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。