第524回 完全子会社の株式を譲渡する際の留意点

多くの日系企業が台湾で100%の株式を保有する株式会社を設立しています。その完全子会社の一部の株式を譲渡した場合、以下の手続きが必要です。

取締役の保有株変更手続き

親会社が株式会社である子会社の株式を100%保有する場合、その子会社は会社法(以下同)第128条の1が適用され、取締役および監査役は株主総会による選挙を要せず、親会社により指名・派遣されることになります。

また、第27条第2項は「行政機関または法人が株主である場合、その代表者も取締役または監査役として選任されることができる。代表者が複数いる場合、それぞれ選任されることができる。ただし、取締役および監査役として同時に選任されまたは担当してはならない」と規定していることから、取締役および監査役として指名・派遣されるほとんどが親会社を代表する者です。

なお、第197条第2項および第227条の規定によりますと、取締役および監査役は任期中にその株式に増減がある場合、主管機関に申告し、かつ公告しなければならないとされ、取締役および監査役が代表する親会社の保有株も含まれますので、株式を少しでも他人に譲渡する場合、主管機関に申告し、かつ公告しなければなりません。

取締役の再選手続き

親会社が子会社の株式を少しでも他人に譲渡する場合、子会社は1人の法人株主により組織される株式会社ではなくなることから、第128条の1は適用されなくなり、取締役および監査役は親会社により指名・派遣されるのではなく、株主総会で選任されることになります。

なお、第128条の1が適用されるケースでは、子会社の取締役および監査役がいずれも親会社を代表する者であることが多いですが、この状況は第27条第2項のただし書き「親会社の代表者は同時に取締役および監査役として担当してはならならない」に該当すると考えます。

そのため、第128条の1が適用されなくなったとき、親会社の代表者が同時に子会社の取締役および監査役として担当することはできなくなるため、取締役または監査役の再選が必要になります。

この場合、実務上、取締役および監査役を全員改選し、全員再任となりますが、取締役および監査役がいずれも親会社を代表する者であるとの状況を解消するため、監査役のみ個人名義で当選させ、取締役は引き続き親会社の代表者として当選させるという手法がよく採用されているようです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。