第528回 国家機密の漏えい

2013年に台湾空軍を退役した元大佐の男が、軍内部の人脈を利用して現役の将校に軍の機密情報を集めさせ、その機密情報を中国に売り渡した事案(以下、「本事案」といいます。)について、2024年6月13日、最高法院(最高裁判所)は、退役大佐の上訴を棄却し、懲役20年の判決が確定しました。

今回は、当該事案で主に問題となった台湾の国家機密保護法(以下、「本法」といいます。)について紹介いたします。

本法では、国家機密のレベルは以下の3つに分けられています(本法第4条)。

①絶対機密:漏えい後、国家の安全または利益に極めて重大な損害を受けさせるに足る事項

②極機密:漏えい後、国家の安全または利益に重大な損害を受けさせるに足る事項

③機密:漏えい後、国家の安全または利益に損害を受けさせるに足る事項

また、本法施行細則第2条によると、本法における国家機密の範囲は以下のとおりです。日本の特定秘密保護法は主に、防衛、外交、特定有害活動の防止およびテロ防止に関する情報を対象としていますが、台湾ではより広い範囲を保護の対象にしています。

1.軍事計画、武器システムまたは軍事行動

2.外国政府の国防、政治または経済情報

3.情報組織およびその活動

4.政府通信・情報の秘密保持技術、設備または施設

5.外交または中国事務

6.科学技術または経済事務

7.その他国家の安全または利益を守るために秘密にする必要がある場合

国家機密を国外(中国を含みます)に漏えいまたは交付した場合、3年以上10年以下の有期懲役に処されます(本法第32条第2項)。また、過失による漏えいであっても、2年以下の有期懲役、拘留または20万台湾元(約100万円)の罰金に処されます(同条第3項)。さらに、漏えい・交付したのが絶対機密である場合、その刑は2分の1まで加重されます(同条第5項)。

本事案の退役大佐は懲役20年の判決を受けましたが、これは退役大佐が国家安全法等の他の法律に規定される罪も犯していたため刑が加重されたものと考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。