行政訴訟手続における調停

2024年5月27日、行政訴訟の上訴事件において、初の調停が成立しました(2023年度上字第406号総合所得税事件)。これは、2023年8月に行政訴訟法に調停制度が加えられてから、初めてのこととなります。

本件の概要は次のとおりです。

某建設会社の董事長は、土地に投資して利益を得た後、国税局に税金の申告漏れと認定され、追徴課税および過料処分計1400万台湾元(約6600万日本円)が課されました。当該董事長は、国税局を被告として行政訴訟を提起し、もとの処分の取消を主張しましたが、高等行政裁判所で審理され第一審で敗訴しました。その後、当該董事長は、続けて第二審の最高行政裁判所に上訴し、双方は、第二審で法律上の激しい攻防を繰り広げました。

これまで、行政訴訟には民事訴訟の調停のような制度が欠けており、行政裁判所は、開廷審理・判決という方法によって政府と国民間の紛争を処理するしかなかったため、事件処理の効率が低く、そのうえ、最終的な結果の如何を問わず、敗訴した側はみな不満を抱く状況となっていました。

そこで、紛争事件の処理の効率を高め、事件の審理における裁判官の負担を減らすために、2023年8月、行政訴訟法に調停制度が加えられました。

この新しい制度では、「当事者が紛争の対象について処分権を有しており、かつ、調停が公共の利益に害をなすことがなければ、行政裁判所は訴訟係属中に、当事者の合意により事件を調停に移送することができ、また、必要に応じて、紛争の対象以外の事項についても併せて調停することができ、第三者を調停に参加させることもできる」ことが定められました。

本件において、裁判官が提案した調停案は「過料を本来の0.5倍から0.27倍に引き下げる(200万台湾元(約931万円)の過料の減少に相当)」というものであり、この案は上訴人(董事長)と被上訴人(国税局)に承諾され、双方は2024年5月27日に和解し、調停が成立しました。また、これは、行政訴訟の上訴事件における調停の最初の成功事例となりました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修