台湾法における「株式譲渡の方式」

台湾高等裁判所は、2024年7月23日、2024年度重上字第138号判決において、株券不発行会社の株式について譲渡を行う場合には、譲渡人と譲受人の間で申込と承諾の意思表示の合致がありさえすれば、持分譲渡の効力を生じる、と判示しました。

本件の概要は次のとおりです。

甲は以前、乙が建築プロジェクトの建築許可を取得することに協力し、その協力の代価として、甲乙双方は、2019年6月に「持分譲渡同意書」を締結し、乙が保有する建設会社丙の株式50万株を甲に譲渡すること、また、乙は丙から支払われた株式の配当、特別配当を甲に渡さなければならないことを双方において約定しました。

しかしながら、乙及び丙はいつまでたっても丙の株主名簿に甲を登録せず、また乙は株式の配当、特別配当を甲に渡さないため、甲は、乙及び丙を被告とし、「甲の丙に対する株主権の存在」、「丙は甲を丙の株主名簿に記載しなければならない」こと等について、確認請求訴訟を提起しました。

台湾高等裁判所は、審理後、次のとおり判断を下しました。

一、株券不発行会社の株式について譲渡を行う場合、法律上、譲渡方式の制限はないうえ、裏書または交付することが可能な実体としての株券は実際には存在しないため、このような株式譲渡の成立要件は、譲渡人(記名株主)と譲受人の間で申込、承諾の意思表示の合致のみとされ、当該成立要件がありさえすれば、持分変動の効力を生じる。

したがって、本件では、甲乙が2019年6月に「持分譲渡同意書」を締結した時に、丙の株式譲渡の効力はすでに生じていたということになる。

二、甲が丙の株主として、会社法第165条第1項、第169条第1項第1号の規定に基づいて株主権を行使し、甲を丙の株主名簿に記載するよう丙に求めたことにも根拠がある。

会社法164条は「株券は株券所持人が裏書をすることをもってこれを譲渡し、また、譲受人の氏名または名称を株券に記載しなければならない。」と定めています。この規定は、会社が株券を発行している場合には、このような譲渡方式を満たさなければ持分譲渡の効力を生じることができない、というものです。他方で、会社が株券を発行していない場合には、本判決の説明のとおり、譲渡人と譲受人の間で申込と承諾の意思表示の合致(たとえば、持分譲渡契約が締結された場合)がありさえすれば、持分譲渡の効力を生じるということになりますので、特にご注意ください。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修