台湾法上の「虚偽告訴罪」
台湾では最近、珍しい刑事告訴がありました。あるカップルが台湾全土の各地で、146件の刑事事件の虚偽告訴、46件の虚偽の支払命令の申立てを行い、被害者が378名に上ったという事案です。
本件の概要は次のとおりです。福建省連江地方検察署のA検察官が、このカップルの告訴を受理した際に、彼らが他人の名を騙った告訴および虚偽告訴などを行っていることに気付き、さらに、調査を行ったところ、このカップルが同様の手法で台湾全土の各地方検察署に対し他人の名を騙って告訴をしていることを突き止めました。
A検察官が台湾高等検察署に本件の状況を報告した後、高等検察署は台湾全土の各地方検察署において徹底的な調査を実施し、その結果、このカップルは2023年と24年に、他人の名を騙る、弁護士の身分を詐称する、借用証・契約書・通信アプリのトーク履歴・書記官の印章を偽造するなどの手段によって、台湾全土の各地方検察署に対し詐欺、自由の侵害、性的自由の侵害などの罪で計146件の虚偽告訴を行い、かつ、各地方裁判所の民事訟廷に対し46件の虚偽の支払命令の申立てを行っており、これによって378名の被害者が応訴のために大量の時間を無駄に消費させられ、また、司法機関のマンパワーと物的資源が大量に浪費させられていることが判明しました。
このカップルの犯罪の動機は、あろうことか、単に「自分たちとの間に債務関係またはトラブルがある人に報復するため」というものでした。
台湾の刑法第169条第1項では、「他人に刑事処分または懲戒処分を受けさせようとして、その管轄の公務員に対し虚偽告訴を行った場合、七年以下の有期懲役に処する」と定められています。最終的に、台南地方検察署は、このカップルが虚偽告訴罪、印章偽造罪、文書偽造罪、詐欺罪、および個人情報保護法や弁護士法の違反などに該当すると認定し、24年11月にこのカップルを起訴しました。
裁判はこれからですが、今後の成り行きが気になるところです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。
【執筆担当弁護士】