第553回 台湾法上の「政治献金」
台湾の政治スター・柯文哲(前台北市長)が汚職の容疑で2024年12月26日に台北地方検察署に起訴され、検察官により28年6月という重刑の求刑がなされたことは、台湾全土に衝撃を与えました。柯氏がかかわった不法行為には、広く注目を集めた「賄賂を受け取り『京華城』跡地の土地の容積率を不法に引き上げた」事案のほかに、「政治献金横領および不実申告」の事案があります。
政治献金に関する台湾法上の主な規定は次のようになっています。
一、政治献金:「政治献金」とは、政治献金法(以下「本法」といいます)第2条第1号によると、選挙活動または政治に関連するそのほかの活動に従事する個人または団体に対し無償で提供される動産もしくは不動産、対価に見合わない給付、債務の免除またはそのほかの経済的利益を指します。但し、党費、会費またはボランティアの役務はこれに含まれません。
二、政治献金の限度額:本法第17条第1項によると、同一の政党、政治団体に対する1年間の寄附総額は、個人からの場合は30万台湾元(約140万円)を超えてはならず、営利事業者からの場合は300万元を超えてはならず、人民団体からの場合は200万元を超えてはなりません。
三、政治献金の用途の制限:本法第23条第1項によると、政党、政治団体および選挙立候補予定者が受け取る政治献金の用途は、人事費用、宣伝、宣伝車両のレンタル、選挙事務所の賃借、集会、交通旅費、雑費、寄附者への返還、国庫金納付および広報費用などの項目に限られ、また、営利行為に従事してはなりません。
四、政治献金の申告:本法第20条および第21条によると、政党、政治団体および選挙立候補予定者は、受け取った政治献金について収支帳簿および会計報告書を作成し会計士の監査・証明を受けた後、政府機関への申告を行うとともに、インターネット上で公表しなければなりません。
五、違反したときの刑事罰:本法第25条以下によると、政党、政治団体の責任者、選挙立候補予定者が本法に違反した場合には、5年以下の有期懲役などの刑事罰が科されます。
台北地方検察署の起訴状によると、柯氏が横領した政治献金は6234万元もの巨額に達しており、また、監察院に対し申告を行った際に、不実の会計士監査報告書を提出したということです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。