第559回 事故物件と告知しない法的責任
最近、台湾で次のような判決が出て注目を集めました。2021年に高雄の張という女性が家の売却を陳という不動産仲介業者に依頼しましたが、その家が事故物件であるという事実を隠していました。翁という男性は家を購入してから自分が事故物件を買ったことを知ったため、張氏を詐欺で訴えました。
■和解できず懲役1年
台湾高雄地方法院(地方裁判所)は審理後、張氏に有期懲役6月の有罪判決を言い渡しました。張氏と検察官がともに控訴した後、第二審の台湾高等法院(高等裁判所)は有罪を維持、刑罰の程度をさらに重くし、1年としました。
第二審の判決は「21年4月、張氏は自己名義の高雄市前鎮区にあるタウンハウスの売却を陳という不動産仲介業者に依頼したが、『その実兄が10年に火災で一酸化炭素を吸い込みすぎたことにより、その家の中で死亡した』という事実を隠蔽していた。同年5月、張氏は陳氏の仲介の下、この家を900万台湾元(約4100万円)で翁氏に売却した。ところが、翁氏は入居後、隣近所の人から言われてはじめてその家が事故物件であることを知り、怒りを覚え、張氏を詐欺で訴えた」と指摘しました。
張氏は「実兄が家の中で死亡したことは陳という不動産仲介業者に伝えてあったが、仲介業者からは、そのようなことでは事故物件と言えず、買い手に知らせる必要もないと言われていた」などと答弁し、犯行を否認しました。
第一審の高雄地方裁判所は審理後、張氏に有期懲役6月の有罪判決を言い渡しましたが、検察官は「張氏は事案の発生からこれまで3年余りもの時間が経っているというのに翁氏と和解しておらず、極めて悪質である」と判断したため、厳重に処罰するよう判決を変更することを求めて控訴しました。高等裁判所は審理後、張氏は「実兄は病気で死亡したので、事故物件ではない」と答弁したが、張氏は修士の学歴があり、一酸化炭素中毒が病死ではないということをよく分かっているはずであると判断したため、有罪の判決を維持し、有期懲役1年と判決を重くしました。
台湾において、事故物件であることを隠したために有罪判決を受ける事案は決して多いとは言えません(ほとんどの事案が和解で解決されています)。また、台湾法上、有期懲役6月超の場合、入獄する代わりに罰金を納付することができないため、張氏は必ず入獄して服役しなければなりません。本件の判決は特に重いため、注目に値します。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。