第30回 業務請負会社の利用

皆さん、こんにちは。Poblacionです。最近、フィリピンのとある大手酒造会社の「労働者達」が行なったストライキが、大きな話題になりました。労働者達は、5年ないし15年以上もその会社で働いてきたにもかかわらず、会社から正規雇用を拒絶されたため、ストライキに入らざるを得なかった、と訴えました。これに対し会社は、ストライキを起こした労働者達は会社の従業員ではなく、あくまでも業務請負会社の従業員であると主張しました。

フィリピンでは、業務委託契約がニュースの見出しになったり、頻繁に労使事件の対象になったりしています。そこで今回は、業務請負会社(一般的には、マンパワーエージェントや派遣会社とも呼ばれています)を有効に利用する方法についてお話しましょう。

業務委託契約とは、当事者である会社が、特定の業務/サービスの実施を一定期間、業務請負会社に委託又は外注する契約のことを言います。この契約では、派遣された労働者は、当事者である会社ではなく、業務請負会社の従業員のままということになります。多くの会社が、雇用者と従業員の関係をもたらすことなく、必要なマンパワーを満たすことができる現実的ソリューションとして業務委託契約を捉えています。フィリピンでは、警備員、郵便物の仕分け係、用務員、IT技術者等の非中核的職種を業務請負会社に外注するのが、会社にとって慣行となっています。

その一方で、業務委託契約は非良心的な雇用者が労働法上の義務(職の確保、法定の手当、組合組織に関する労働者の権利を認めること等)から逃れるための手段にもなりつつあります。たとえば、資産もなく、正当な事業も一切行わないダミーの業務請負業者(法律用語では「労働力のみの請負業者」)を利用する雇用者もいます。その場合、当事者である会社は、業務請負会社との業務委託契約が解除されたと見せかけて、いつでも労働者達に出勤しないよう命令することができます。そして当事者である会社は、労働者達との雇用契約がないことを利用して、違法解雇の主張や労働手当の請求に対抗します。これに対して労働者達は、ダミーの業務請負業者に資産が一切ないことを知って困惑するばかりで、賃金や給付金を求める先もないという状況に追い込まれます。

上記のことから、業務委託契約は、労働雇用省(DOLE)の規制対象となっています。そのため、特定の業務を業務請負会社に外注しようとする場合には、以下の点に留意する必要があります。

業務委託契約が「合法的」なものであり、「労働力のみ」の請負契約ではないことを確実にしなければなりません。DOLEの規則に基づき、以下の要素が揃っている場合、業務委託契約は合法的なものとなります。

  1. 業務請負会社が、DOLEに適切に登録されていること。DOLEに登録されていない場合、その業務請負会社は、労働力のみの請負会社とみなされます。
  2. 業務請負会社は、当事者である会社の事業から独立した、別の事業を運営していること。業務請負会社は、当事者である会社の支配を受けることなく、独自の形式及び方法に従い、自己の責任において請負った業務を遂行しなければなりません。
  3. 業務請負会社に実質的資本金及び出資金があること。DOLEは、業務請負会社が300万ペソ以上の払込済み資本又は純資産を所有していることを要件としています。
  4. 業務請負業者と当事者である会社の間の業務委託契約が、フィリピン労働法を遵守していること。
    なお、業務委託契約には、以下の条項が含まれていなければなりません。

a. 委託される業務に関する具体的記述
b. 作業場所、契約条件及び業務提供料
(業務請負会社が独立した事業を行なっていることの保証として、業務請負会社の管理費用は、業務提供料の10%以上でなければならない)
c. 労働法及びDOLE規則に基づく従業員の権利及び福利の全てについて、遵守を保証する規定
d. 業務提供料の総額と同等とする業務請負業者の正味経済的請負能力(Net Financial Contracting Capacity:NFCC)に関する規定
(NFCCにより、業務請負業者が自己の労働者に対する債務を決済するのに十分な資産があることを証明する)
e. 契約履行保証(当事者である会社が要求する場合)
f. 社会福祉法に基づき要求される納付金を直接支払う業務請負業者の義務
g. 契約期間

また、以下の場合、当事者である会社及び業務請負業者は、禁止されている労働力のみの請負契約をしているとみなされます。

(a) 業務請負業者が、実質的資本金/出資金を有しておらず、労働者が実際に、当事者である会社の事業に必要である、あるいは望ましい活動を遂行している場合

(b) 業務請負業者が、労働者による作業の遂行に対して支配権を行使していない場合

労働法の遵守を確実にするため、DOLEは業務委託契約を行なっている施設の検査を日常的に実施します。DOLEは、業務請負業者とのサービス契約の契約書の提出を当事者である会社に要求することもできます。

業務請負業者が労働者に対して賃金の不払いがあった場合、当事者である会社は、これについて連帯責任を負います。なお、当事者である会社は、リスクを最小限にするため、労働者の賃金の支給を保証するための預託金の提供を業務請負業者に要求することができます。

労働力のみの業務請負契約であると判断された場合、当事者である会社が労働者の直接的な雇用者とみなされ、業務請負業者は、当事者である会社の単なる代理人とみなされます。これにより当事者である会社は、労働者の給与、手当及び退職金の支給並びに組合組織権の認定等、雇用者としての義務を全て遵守することを要求されます。さらに重要なこととして、当事者である会社は、労働者の職の確保という権利を認める義務を負うことになります。つまり、当事者である会社が労働者を解雇する場合には、フィリピン労働法に基づいた非常に厳格な解雇要件を遵守しなければなりません。

以上のことから、従業員を外部の派遣会社から調達する場合は、必ずDOLEに適切に登録されている合法的な業務請負業者を利用するようにしてください。労働力のみの請負業者と取引をすると、不法解雇の訴え、過去の賃金、復職、解雇手当、労働手当、退職手当を始めとする、様々な責任を負うことになります。実際に多くのフィリピン企業も、この現実を苦い経験を通して学んでいます。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。