第65回 「カサンバハイ」法
皆さん、こんにちは。Poblacionです。私が子供の頃、何年も私達家族と一緒に暮らし、両親が不在の時には私達姉妹の面倒を見てくれたお手伝いさんがいたことを今も覚えています。私の両親は二人共フルタイムで仕事をしていたので、お手伝いさんを雇って家事や私達姉妹の面倒を任せるより他に方法がなかったのです。私達は、お手伝いさんに大変恵まれていたと言えます。なぜなら、家の掃除や食事の用意だけではなく、私達姉妹と遊んでくれたり、宿題を手伝ってくれたりと、何から何まで面倒をみてくれたからです。そのため、私達もお手伝いさんを家族の一員のように慕い、一緒に食事をしたり、外出したり、テレビを見たりして、私達家族と一緒に休暇を過ごすこともありました。
フィリピン統計機構の推計によれば、フィリピンには約190万人の家庭内労働者がいます。不幸なことに、その全員が雇い主から好待遇を受けているとは限りません。実際、多くの家庭内労働者が、身体的虐待を受けたり、厳しい労働条件の下で働かされたりしています。このような不幸な現実を踏まえ、2013年、悪意のある雇い主が犯す虐待行為から、弱者である労働者を守るため、家庭内労働者法(「カサンバハイ法」としても知られています)が政府によって制定されました。
フィリピンで暮らし、家庭内労働者を現在雇っている方、又は今後雇うことを考えている方が知っておくべき基本的ルールをいくつか、以下に記載します。
カサンバハイとは誰のこと?
「カサンバハイ」とはフィリピンの言葉で、その文字通りの意味は「家に一緒に住む人」です。「カサンバハイ」は、家庭内労働者、すなわち、ベビーシッター、メイド、調理人、庭師、洗濯係等、雇用関係の下で家事に従事する人です。その家庭内労働者が、雇い主と同じ家で暮らしているか、仕事を終えて各自の自宅に帰るかは問いません。
雇用と登録
雇い主は、見込み使用人と個人的に交渉して家庭内労働者を直接雇うこともできれば、労働雇用省に登録された民間の雇用代理店を通じて家庭内労働者を雇うこともできます。
家庭内労働者が仕事を始めるには、事前に雇い主との間で、両者の理解する言語で記載された雇用契約を締結する必要があります。なお、雇用契約には、以下に関する規定が含まれている必要があります。
(a) 家庭内労働者の職務及び責任
(b) 雇用期間
(c) 報酬
(d) 認められる控除
(e) 労働時間
(f) 休憩及び有給休暇
(g) 食事、住居、医療給付
(h) 配置費用に関する合意
(i) 貸付契約
(j) 雇用の終了
なお、15歳未満の者を家庭内労働者として雇うことはできませんので、ご注意ください。また、家庭内労働者が未成年(18歳未満)の場合、1日に8時間及び1週間に40時間を超えて労働させることはできません。さらに、未成年の家庭内労働者を、午後10時から翌朝午前6時までの間に労働させることもできません。
雇い主には、自分の居住するバランガイ(地区)の家庭内労働者登録所に家庭内労働者を登録する義務があります。また、働き始めてから1ヶ月が経過した時点で、家庭内労働者が社会福祉制度の恩恵を受けられるよう、社会保障制度(SSS)、フィリピン健康保険公社(PhilHealth)及び持家促進基金(Pag-IBIG)にも登録しなければなりません。このような労働者のための社会福祉機関への登録や必要な毎月の積立金の支払を怠った場合、刑事訴追を含め、責任を問われる可能性がありますのでご注意ください。
雇用に関する権利と給付
・最低賃金
家庭内労働者には、定められている最低賃金以上の賃金を支給しなければなりません。支給は、少なくとも1ヶ月に一度、現金で行います。支給された賃金と行われた控除が記載された給与明細書のコピーも提供する必要があります。
ご参考までに、2013年の家庭内労働者最低月給額は、以下のとおりです。
労働場所 |
最低月給額 |
マニラ首都圏 |
2,500ペソ |
市及び一級自治体 |
2,000ペソ |
その他の自治体 |
1,500ペソ |
・他の金銭的給付
1ヶ月働いた家庭内労働者には、「13ヶ月手当」と言われる追加手当の支給を受ける権利があります。13ヶ月手当は、家庭内労働者がその年に受け取る基本賃金の合計額を12で割って計算します。こうして算出された金額を、12月24日までに支給する必要があります。
・休憩
家庭内労働者には、1日あたり合計8時間の休憩を毎日、1週間あたり1日の休暇を毎週、取得する権利があります。
・有給休暇
1年働いた家庭内労働者には、5日の年次有給休暇が与えられます。
・社会福祉分担金
家庭内労働者には、SSS、PhilHealth及びPag-IBIGの給付を受ける権利があります。上述のとおり、雇い主には、これら3つの社会福祉機関に家庭内労働者を登録し、毎月必要な積立金を納める義務があります。家庭内労働者の月給が5,000ペソ未満の場合、雇い主が積立金を負担することになります。
・食事、住居及び医療給付
家庭内労働者には、一日3回以上の適切な食事や快適な寝場所の手配等、基本的に必要なものを提供しなければなりません。雇い主は、家庭内労働者が仕事中に具合が悪くなったり怪我を負ったりしたときのために、基本的な医療支援(すなわち、救急薬品)も提供する必要があります。
雇用の終了
家庭内労働者と雇い主のいずれも、正当な理由なく、契約期間満了前に雇用を終了させることはできません。ただし、契約に雇用期間の記載がない場合には、雇い主又は家庭内労働者のいずれも、5日以上前に相手方に通知することにより、雇用を終了させることができます。さらに、いずれの当事者も、法律に規定された正当な理由がある場合、直ちに雇用を終了させることができます。
なお、不当に解雇された家庭内労働者は、それまでに稼いだ報酬に、15日分の労働に相当する補償金を上乗せした金額の支払を受けられます。その一方で、家庭内労働者が正当な理由もなく離職した場合、15日分の労働に相当する金額を上限として、未払給与は支払われません。
忙しい人に代わって家事などを行ってくれるお手伝いさん、感謝の気持ちを忘れずに、ずっと長く働いてもらえるよう良い関係を築くことが大事ですね!
*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。