第73回 非公開会社の創設

皆さん、こんにちは。Poblacionです。会社を設立するにあたり、事業の所有権や経営を仲間うちだけに留めておきたい場合は「非公開会社」での設立を検討するとよいでしょう

非公開会社とは?

非公開会社とは、その定款に3つの重要な制限が含まれている会社です。制限の具体的内容は以下の通りです。

(ⅰ) 全クラスの発行済み株式(自己株式を除く)が、20名以下の特定数の株主のみにより保有されていること

(ⅱ) 全発行済み株式に譲渡制限が適用されること(その制限が付属定款及び株券にも記載されていること)

並びに

(ⅲ) いずれの証券取引所においても会社の上場や会社の株式公開ができないこと

非公開会社としての事業登録を選択する理由は?

非公開会社としての事業登録を選択する理由を、一部以下に挙げます。

・非公開会社では、株式所有が少人数に限定されることから、選ばれた少数の者で会社を「独占」したいと考える投資家にとって、非公開会社の設立は魅力的な選択肢となります。たとえば、フィリピンでは多くの家族経営企業が、その事業を「身内」に留めておくために非公開会社の設立を選択します。非公開会社が、大概に「家族企業」と呼ばれるのも、このためです。

・非公開会社では、株式所有と企業経営が一体となっています。株主は、会社の経営を取締役会や執行役員に任せるのではなく、自分達で直接行うことができます。そのため、会社の経営や運営に積極的役割を果たしたいという投資家には、非公開会社は適切な形態といえます。

・非公開会社による会社の取引遂行は、それほど厳格ではありません。たとえば、非公開会社の取締役は、以下条件のいずれかが満たされていれば、正式な取締役会を招集することもなく、会社の事項について決定を下すことができます。

 ⅰ全取締役が当該行為に書面で同意していること

 ⅱ株主及び/又は取締役が当該行為に関する現実的又は黙示的知識を有していながら、当該行為に対する反論を直ちに行わなかったこと

 ⅲ正式なものではない取締役による行為と、株主による明示的又は黙示的な権利不行使が慣例化していること

・非公開会社の株主は、理由を問わず、自己の所有する株式を公正価格で買い取るよう会社に要求することができます。ただし、会社の帳簿上、その債務及び責任の負担に十分な資産があることが前提です。

非公開会社が実施できない活動や事業はあるか?

鉱業会社、石油会社、証券取引所、銀行、保険会社、公益事業、教育機関、及び「公益を委ねられていると宣言された会社」については、非公開会社として設立することができません。これらを除けば、非公開会社でも、通常の企業と同様の活動や事業を行うことができます。

どのように非公開会社の設立をするか?

非公開会社であっても、その設立方法は通常の会社の場合と同様です(第24回コラム参照)。ただし、定款作成の際には、先述の3つの重要な制限の記載が必要です。

また、非公開会社を設立する場合には、定款に以下の特別条項を盛り込むという選択もあります。

・株式のクラス分け、株式を所有できる人の条件、及び株式譲渡制限

・取締役の分類、取締役選任の投票権を有する株主のクラス

・株主総会及び取締役会における通常より厳しい定足数又は議決要件

・株主に対する会社直接経営権の付与

※この場合、定款には (i) 取締役を選任する必要がないこと、 (ii) 株主が取締役とみなされること、及び (iii) 取締役に法律上適用される責任を株主が負うべきこと、を記載する。

・株主に対する会社の役員及び従業員の直接選任権の付与

非公開会社の株式には譲渡制限があるということですが、具体的にはどのような制限があるか?

会社法上、譲渡制限とは基本的に、当該非公開会社又は既存株主に「第一先買権」を付与することをいいます。つまり、譲渡する株主の株式を合理的条件又は期間に基づき買い取る権利が、会社又は既存株主に与えられるということです。会社又は既存株主がこの権利を行使しない場合、譲渡する株主は、自己所有株式をいかなる第三者にも売却することができます(ただし、定款に記載された株主数の上限に従うことが条件)。

株式が不当に譲渡された場合や、譲渡により株主数が定款に記載された上限を超えることになる場合、会社は、譲渡株式の譲受人名義への書き換えを拒否することができます。

非公開会社では、交渉の行き詰まりや紛争をどのように解決するか?

非公開会社の経営に関して取締役又は株主の意見が分裂した場合、いずれの株主も、証券取引委員会(SEC)に対して紛争の仲裁を申し立てることができます。紛争に関する決定にあたり、SECには、自らが適切と判断する命令を下す権限が与えられます。これには、以下を命じる権限も含まれます。

・定款、付属定款又は株主間契約の条項の取消又は変更

・会社又は取締役、株主もしくは役員による決議又は行為の取消、変更又は禁止

・いずれかの株主が所有する株式の会社又は他の株主による公正価格での買取

・臨時取締役の選任

・会社の解散

・状況から妥当と思われるその他救済措置

もし、家族や友人など、仲間内でフィリピンでの事業を始める際は「非公開会社」の設立も選択肢の1つとしてみてはいかがでしょうか。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。