第91回 釣銭はきっちりと

皆さん、こんにちは。Poblacionです。先日私は、家族の大事な集まりに参加するために、フィリピンに帰国しました。フィリピンを訪れたことのある方なら、フィリピンと日本の習慣の違いに少なからず驚くことがあるでしょう。どんな違いがあるのか、例をあげてみましょう。

実は私が不満に思っていることの一つでもあるのですが、フィリピンでは、タクシー運転手が乗客に渡す小銭の釣銭額は、きまぐれです。日本では、タクシー運転手が10円単位まで正確に釣銭をくれますが、これは私にとっては驚きでした。フィリピンでは、タクシー運転手が(おそらく「強制的なチップ」として)、料金をきりのよい数字に切り上げることが一般的に行われています。たとえば、タクシー料金が172ペソで、その支払いに200ペソを出した場合、運転手次第で、釣銭として20ペソを渡されることもありますし、全くもらえないことだってあるのです。

ここで朗報です。上記のような行為を禁止するため、2016年7月に共和国法第10909号、いわゆる「釣銭不足禁止法」が施行されました。この法律の目的は、フィリピン国内における詐欺的かつ非良心的で公正性に欠ける販売行為及び商慣行(タクシー運転手に限りません)から、フィリピンの消費者を保護することです。この法律は、その名称が表すとおり、事業者が顧客に対して釣銭を少なく渡すことを違法としています。釣銭がたとえ小額に過ぎなくても、渡されなかった釣銭が1ペソだけであっても、関係ありません。正確な釣銭を無条件に渡すことが、事業者の義務です。

また、商品の販売やサービスの提供を行う事業者が、金銭以外の形で釣銭を提供すること(これもフィリピンの小規模な店舗では慣習としてよく行われています)も、上記の法律で禁止されています。ですから、お店に行って98ペソのスナック菓子を買って、その支払に100ペソを出した場合、お店のレジ係は、2ペソの現金がないからと言って、代わりに2ペソ分のキャンディー等を渡してはいけません。

さらに、適切に値札をつけ、提供する商品やサービスの正確な価格を表示することも、フィリピンの事業者の義務です。これにより、商品やサービスに対して支払うべき正確な価格と、受け取る権利のある釣銭の正確な金額について、顧客の誤解を招かずに済みます。

不当な扱いを受けた顧客は、釣銭が不足する行為のあった日から10日以内に、フィリピン貿易産業省(DTI)に訴えを提起することができます。DTIには、直ちに調査を実施して、訴えの受領から30日以内に認定/決定を下す義務があります。法律違反について有責と判断された事業者には、以下の罰則が適用されます。

初犯 500ペソ又は違反した日の総売上高の3%のうち、いずれか高い方の金額の罰金
第二犯 5,000ペソ又は違反した日の総売上高の5%のうち、いずれか高い方の金額の罰金
第三犯 15,000ペソ又は違反した日の総売上高の7%のうち、いずれか高い方の金額の罰金、及び3ヶ月間の営業許可停止
第四犯 25,000ペソ又は違反した日の総売上高の10%のうち、いずれか高い方の金額の罰金、及び営業許可取消

上記罰則に加え、事業者が渡さなかった、あるいは渡すことを拒んだ釣銭の総額が、顧客に返金されます。

フィリピン国内でタクシーに乗車したり買い物したりする時には必ず、正確な金額の釣銭を受け取るようにしてください。言うまでもなく、タクシー運転手や店主のサービスに満足し、チップとして釣銭分を渡したいのであれば、それは皆さんの自由ですよ!


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。