台湾の労働基準法における基本賃金について
労働者の賃金について、台湾の労働基準法第21条第1項は、「賃金は、労働者と使用者の双方でこれを決定する。ただし、基本賃金より下回ってはならない。」と規定している。また、同条第2項は、「前項の基本賃金については、中央主管機関(注1参照)の基本賃金審議委員会がこれについて検討し審議した後、行政院が審査し確定する。」と規定している。
つまり、台湾においては、労働者の賃金は、労働者と使用者の約定により決定されるが、使用者が経済的地位を濫用し労働者を搾取するのを防ぐため、労働者と使用者の約定で決定される賃金は、台湾当局が決める基本賃金(最低賃金)を下回ってはならないとされている。
また、労働基準法第79条により、使用者が支払う賃金が基本賃金より下回った場合、使用者は行政上の過料に処される。
現行の基本賃金は、2007年に台湾当局が決めた月額17,280台湾ドルである。台湾の労働者団体はこの現行の基本賃金は少なすぎであり、月額22,000台湾ドルまで引き上げられるべきであるとしている。台湾の労働者団体の要求通りに基本賃金を月額22,000台湾ドルまで引き上げる場合、基本賃金の上昇率は30%近くに達する。
しかし、今年9月の行政院労工委員会の基本賃金審議委員会の決議では、基本賃金は17,880台湾ドルまでしか引き上げられず、増額分は600台湾ドルであった(上昇率は約3.47%)。
行政院労工委員会の官僚は、去年の台湾の経済成長率が芳しくなかったため、基本賃金に対する大幅な調整はできないとしている。
行政院労工委員会の基本賃金審議委員会の決議と台湾の労働者団体の要求額との差があまりにも大きかったため、台湾の労働者団体はこれに対し大きな不満を抱えているとされている。物価が上昇し続けている台湾の現状においては、基本賃金の僅かな調整では低所得労働者が基本的な生活を送ることは難しいと考えられる。
今年の11月に台北市、台中市、高雄市等の台湾の地方自治体の市長選挙と市議員選挙が行われる予定である。今回の選挙の結果は、現在の与党・国民党が2012年の大統領選挙に勝ち、政権を維持できるかどうかの鍵となると考えられているため、行政院労工委員会の基本賃金審議委員会の決議に対し不満を持つ労働者団体は、与党が労働者団体の要求に応じない場合、今回の選挙においては与党を支持しないと考えているようである。
他方、使用者側も不満を抱えている。というのは、基本賃金審議委員会が招集した会議において、使用者側の代表が、基本賃金の上昇率は2%までに抑えられるべきであると主張したにもかかわらず、上昇率は約3.47%に達したからである。
上記の台湾の労働基準法第21条第2項によると、行政院労工委員会の基本賃金審議委員会が決定した基本賃金の額は、台湾の行政院の審査・確定を経なければならないため、今回の基本賃金審議委員会が決定した基本賃金の額はまだ最終的に確定されていない。今後、台湾の労働者団体と使用者の双方が自己に有利な結果をもたらすよう、行政院の最終決定に対し影響力を行使することが考えられる。
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【執筆担当弁護士】