雇用主による一方的な就業規則の変更
2013年9月18日付けの、台北地方裁判所2011年度重労訴字第8号民事判決によれば、雇用主が労働者と協議せず、一方的に会社の就業規則を変更する場合において、その変更後の内容が労働者にとって著しく不利であるときは、原則として反対する労働者を拘束することはできないが、雇用主が行った変更が、経営上の必要によるもので、また、その変更が合理性を有するときは、例外的に反対を表明する労働者を拘束することができるとされた。
本件の概要は、次の通りである。
原告甲は被告乙の労働者であり、甲は、乙が事前に労働者と協議せず、一方的に業績評価及び人事考課の方法、従業員の業績賞与、並びに成績考課賞与の根拠となる会社の就業規則を変更したことにより、甲を含む多数の労働者の受け取る賞与が大幅に減額されたと主張した。
また、甲は、賞与は従業員の賃金の一部であるため、乙が賃金を引下げようとする場合には、従業員の同意を得なければならないこと、及び、乙が一方的に会社の就業規則を変更したことで従業員が不利益を被っており、乙の当該変更行為は法律における「不利益変更禁止の原則」に違反していることを主張した。さらに、以上を根拠として、甲は、乙による変更は無効であり、また、乙は甲に対して就業規則が変更されたことにより減額された賞与を支払うべきであると主張した。
裁判所は審理の上、以下の通り判断した。
まず、労働基準法第2条の規定によると、「賃金」とは、労働者が労働により受け取る報酬をいい、賞与、手当及びその他名称のいかんを問わない経常的給付が含まれるところ、被告の就業規則には変更前から、「一定の基準に達しない場合には、業績賞与を支給しない。」、「従業員は会社の規定に基づき、賞与を受け取ることができる。」等の規定があったことから、賞与の支給には一定の条件があり、また、支給「しなければならない」ということではないため、労働基準法における賃金の「経常的給付」という要件には該当しない。従って乙の就業規則に規定されている賞与は賃金ではない。
次に、就業規則に定める賞与等の従業員の福利厚生は、労働者の利益のほか、雇用主の経営利益等も考慮しなければならず、よって合理性がある場合には、賞与を支給する対象、資格等に関して、雇用主が一方的に変更又は制限を加えることが許され、かつ、反対する労働者を拘束することができる。合理性については、労働者が就業規則の変更により被った不利益の程度、就業規則変更の必要性等を裁判所が総合的に判断するものとする。
本件の就業規則には、賞与の支給方法は董事会が決定する等の内容が変更前から記載されており、変更の内容は甲の利益を過度に剥奪するものではなく、その変更には合理性があり、また、不利益変更禁止の原則にも違反していない。従って、甲は本件における就業規則の変更による拘束を受ける。
本件は、労働者の承諾を得ない就業規則の変更が認められた事例であるが、そもそも、賞与が労働基準法上の「賃金」には該当しないという事情があったことが、本判決の要因の一つである可能性がある。そのため、合理性がある場合には、どんな場合でも、労働者の承諾を得ない就業規則の変更が認められるわけではないと解される。
しかし、なお一定の場合には、合理性があれば、労働者の承諾を得ない就業規則の変更が認められる可能性がある点において、本判決は留意すべきものと考える。
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【執筆担当弁護士】