エスクロー決済サービスに関連する台湾法規
ここでの「エスクロー決済サービス」とは、取引当事者双方以外の第三者が、取引の当事者を代理して提供するインターネット上での代金の受取・支払代行サービスをいう。 本サービスが登場した背景には、
売主はインターネット上で買主に商品を売るにあたり、先に商品を発送すると代金を受け取れない可能性があることに不安を覚え、一方、買主は先に代金を支払うと商品を受け取れない可能性があることに不安を覚えるといった事情がある。
本サービスを利用する場合、まず買主がエスクロー決済サービスを提供する業者に対し代金を送金し、その後、当該業者は売主に出荷するよう通知し、買主は商品を受け取ってから売主への支払を当該業者に通知することにより、売主及び買主双方の取引の安全性を保証することができるとされている。 なお、アメリカの「PayPal」、中国の「アリペイ」はいずれも世界的に有名なエスクロー決済サービスの業者である。
台湾法において、エスクロー決済サービスの提供者については、次の2種類に分類することができる。
- 業者が代金の受取・支払代行サービスを提供し、その保管している受取・支払を代行する金員の残高総額が10億台湾元を超える場合、当該業者は電子支払機関管理条例(以下「本条例」という)の定める「電子支払機関」に該当し、本条例及び本条例の各種関連規則(電子支払機関ユーザー身分確認メカニズム及び取引限度額管理規則、電子支払機関内部規制及び監査制度実施規則、電子支払機関業務管理規則等)の規制を受けなければならない。なお、電子支払機関には資本金規制があり、金額チャージ、口座間の資金移動を取り扱う電子支払機関の払込資本金の最低額は5億台湾元とされ、支払・受取代行業務のみ取り扱う電子支払機関の払込資本金の最低額は1億台湾元とされている(本条例第7条)。 また、電子支払機関がユーザー1人当たりから受け取る台湾元および外貨のチャージ金額は、その残額が合計で5万台湾元を超えてはならないとされている(本条例第15条)。
- 業者が支払・受取代行業務しか取り扱わず、かつ支払・受取を代行する金員の残高総額が 10億台湾元を超えない場合には、「電子支払機関」に該当しないと解される。この場合、当該事業者は主として、「エスクローサービス約款に記載すべき事項及び記載してはならない事項」(中国語名「第三方支付服務定型化契約應記載及不得記載事項」)の規制を受ける。なお、同規定によれば、エスクロー決済サービスを提供する業者は、顧客との契約又はウェブサイトのユーザー規約の中に、企業の事業者情報、エスクロー決済サービスの内容及び料金、為替レートの計算、消費者が支払う金員についての保障、消費者の身分認証等の事項について記載しなければならず、また、「エスクローサービス業者は一方的に契約内容を変更できる」、「消費者は契約のチェック期間を放棄する」、「エスクローサービス業者は契約を任意に終了又は解除できる」等の事項を記載してはならないとされている。
インターネット上の取引が増加するにつれ、台湾でエスクロー決済サービスを取り扱う業者も益々増えているが、エスクロー決済サービスに関連する法律は多くかつ複雑であるため、これらの法律については細心の注意を払い、またエスクロー決済サービスに関連する法律に精通した専門家に相談することが望ましい。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。
【執筆担当弁護士】