労災による傷害等の治療中の労働者の解雇

台湾高等裁判所は、2015年11月30日付2014年労上字第4号判決において、労働基準法第 13 条の、労働基準法第 59 条に規定される治療期間中に、使用者は労働契約を解除してはならないとの規定は、労働者が労災による傷害等により、労働契約に規定されている業務に従事することができない場合で、かつ使用者が適法に、当該労働者を他の業務にも従事させない場合に適用されるものであると指摘した。

本件の概要は次のとおりである。

甲は、1996年、乙に就職し、保険募集業務、保険料の徴収などに関する業務に従事していた。2009年12月、甲は業務執行のため外出した際に交通事故に遭い、そのため、骨折、身体神経障害などの傷害を受けた。甲が数か月間、治療を受けた後、乙は、甲の身体が正常に出勤できる状態となっていると判断したため、甲に休暇の終了と出勤を求める書簡を送付したが、甲から拒否された。そこで、乙は、労働基準法第12条に基づき、正当な理由なく、3日連続して無断欠勤したとの理由により、甲を解雇した。

これに対し、甲は、労働基準法第13条に、使用者は、労災による傷害等の治療中の労働者を解雇してはならないとの規定があるため、乙による解雇は違法であると考え、労働基準法第14条第1項第6号に基づき甲乙間の労働契約を解除し、約170万台湾元の解雇手当を乙に請求した。

台湾高等裁判所は、甲の請求を全面的に退けた。その主な理由は次のとおりである。

一、労働基準法第13条の、労働者が第59条に規定される治療期間(労働者が労災により負傷し、または職業病に罹患した場合の治療期間をいう)において、使用者は契約を解除してはならないとの規定は、労働者が労災による傷害等により、労働契約に規定されている業務に従事することができない場合で、かつ使用者が適法に、当該労働者を他の業務にも従事させない場合に適用されるものである。

このため、労働者が治療を受けた後、労働契約に規定されている業務の任に堪える場合、または他の業務への異動が適法に行われている場合には、労働者は労務の提供義務を負うこととなり、これを拒否してはならない。

二、病院による診断によれば、甲の身体の状況は、労働契約に規定されている業務を執行するのに十分であったことから、当然、甲は出勤義務を負う。本件において、甲の出勤を乙が求めたことは適法な請求であり、よって、甲が出勤を拒否したために、連続無断欠勤が3日に達したことを理由とする、乙による甲の解雇は適法である。

実務上、労災を原因とする労使紛争は少なくない。労働者の身体の状況が出勤に適するか否かは、病院の診断結果に依拠する必要があるが、医師が労働者の陳述内容のみに依拠して診断結果を下すことを避けるため、使用者側からも、別の医師にも診断を行ってもらう等の対策を取ることが望ましい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修