台湾法における国家賠償責任

2013年9月、ある女性がオートバイで台北市の道路を走っていた時、路面に穴が開いていたためにバランスを崩して倒れ、骨折などの重傷を負った。この女性は、当該道路を管理する台北市政府工務局に過失があったものと考え、同機関を被告として提訴し、国家賠償を請求した。
2018年6月下旬、台北士林地方裁判所は当該道路の施工に品質不良があり、警戒標識もおいていなかったとして、台北市政府工務局は治療費および慰謝料の計約34万新台湾元を被害者に賠償しなければならないとの判決を言い渡した。

台湾政府の国家賠償責任については、主に国家賠償法の次の条文において規定されている。

  • 第2条第2項:公務員が職務を執行するために公権力を行使する際、故意または過失により、人民の自由または権利を違法に侵害した場合、国は損害賠償責任を負わなければならない。公務員が職務の執行を怠ったことにより、人民の自由または権利が侵害された場合も同様とする。
  • 第3条第1項:公有・公共施設の設置または管理不十分により、人民の生命、身体または財産に侵害が生じた場合、国は損害賠償責任を負わなければならない。

なお、本件において、負傷した女性は、国家賠償法第3条第1項に基づき、台北市政府工務局に損害賠償を請求した。

請求の手続きについては、国家賠償法第10条、第11条の規定に基づき、被害者は国家賠償を請求する場合、先に、賠償義務を負う政府機関と協議を行わなければならず、当該政府が協議を拒否した場合または協議が不調の場合に、被害者は当該機関を被告として損害賠償訴訟を提起することとされている。

また、国家賠償法第15条では、「本法は、外国人が被害者となる場合、条約またはその本国の法令または慣習に基づき、中華民国人が同国において同国人と同等の権利を享受できる場合に限り、これを適用する。」と規定されている。日本の国家賠償法では、外国人の保護について相互保証を定めていることから、日本人が台湾において、公共施設の管理不十分または台湾公務員の過失により、身体の傷害または財産の損害を受けた場合に、台湾において国家賠償を請求することができる可能性はあると解される。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修