第23回 立法院占拠

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

今日は、最近、台湾で一番ホットな話題といえる、学生らによる立法院占拠について取り上げます。3月30日の日曜日には「サービス貿易協定」に反対の意を表するために多くの人が総統府周辺に集結しました。どの程度の数が集結したか正確にはわかりませんが、警察は11万人、主催者側は約50万人と参加者数を発表しているようです(ずいぶん、開きがありますね〜。本当のところは全くわかりませんね)。

「サービス貿易協定」については、ニュースでも何度も説明されているので、詳しくは触れませんが、昨年6月に中国と台湾の間でサービス分野において市場開放を目指すべく、中国が80、台湾が64分野を相互に開放することが取り決められました。具体的には、旅行業、クリーンング、美容関連サービス(散髪など)、建築や関連工事などが対象となっています。

台湾には中小企業が多いという実態があり、「サービス貿易協定」が批准されることで、これらの中小企業が担ってきたサービス分野に資金力豊富な中国の大企業が進出してくることを招き、その結果、台湾の中小企業の切り捨てにつながることを危惧するという流れは筋としては理解できます。もし仮に、自分が日本で中小企業を経営していると考えてみてください。そして、日本のすぐ隣に、毎年8%近くの成長を続ける、日本語を話す10数億の人口を有する国があり、その国に市場を開放するというシチェーションを想像してみれば、少しは今の台湾の状況が理解できるのかもしれません。

ただ、3月30日に多くの人が総統府周辺に集結したのは、現政権の不人気と「サービス貿易協定」批准手続の進め方が拙速であったことが大きいのでしょう。聞くところによると馬英九総統は台北市長時代、特に不人気ということもなかったようですが、現在の支持率はかなり低く、あまり支持する声を聞きません。低支持率の理由の一つに、あまりに中国寄りということもあるようです。

私が、台湾のテレビのニュース番組を見る限り、「サービス貿易協定」に反対する学生を好意的に報道しているような印象を受けます。反「サービス貿易協定」のリーダー的存在である林飛帆と、名前を忘れましたがどなたかについて、「反服貿」王子(「サービス貿易協定」は中国語で「服貿」という略称で呼ばれています。「服貿」に反対するので、「反服貿」となります)はどっち!?などというアンケートをとったりしている、ちょっと笑える報道もありました。まあ、日本でもワイドショー番組なら同じような企画をやりそうですよね。

日本でもTPPに参加するか否かで同様に大きな議論があり、「米」という聖域を確保しつつTPPに参加できるかという点はまだはっきりしませんよね。結局、何かを得るためには、少なくない痛みが伴うものでしょうから、全ての人が納得できる結論などというものは存在しないでしょう。

最終的に、その国がどのような国を目指すかというところから、よく議論しないといけない問題だと思います。そして、仮に市場開放を進めるにしても、状況によっては、見直しや「痛み」を緩和する方策などがなければ、結局、「競争原理だから競争で負けた者は市場から去るだけで仕方ない」で終わってしまうと考えます。

台湾の今回の「サービス貿易協定」の問題は、結局のところ、中国との関係をどうしていくのかにもつながる問題であり、台湾にとっては非常に敏感な問題ですよね〜。今後も立法院占拠の問題から目が離せません。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。