第96回 商売の形態「行號」~その2

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の佐田友です。

少し前の週末、早起きして午前6時過ぎにゴルフに出掛けました。自宅を出てすぐに、近所で火事が発生し、多くの消防車が来ていることに気付いたのですが、煙も見えないし、雨も少し降っているような天気だったので「大したことではないのかな」と思っていました。ゴルフを終え、午後2時半ごろに自宅付近まで戻ってきたところ、消防車はまだ大量に現場付近にとどまっており、ニュースを検索するとビルの1階から3階までが全焼し、上の階の住民ははしご車で救出されたことが分かりびっくりしました。私の自宅があるビルも、どういう理由か分かりませんが火災発生時(午前2時ごろ)に停電したと管理人さんから聞きました。寝ていて全く気付きませんでしたが…。

火事は本当に怖いですね~。たばこを吸われる方は寝たばこにはくれぐれもご注意いただきたいと思います。駐在員で、寝たばこが原因で部屋中がすすだらけになったという方が実際におられましたので、特にお酒を飲んだ後などには気を付けてくださいね~。

保護の範囲が狭い

本日は先週に引き続き「行號(Hang Hao)」について取り上げてみたいと思います。

「行號」とは、台湾において個人が単独で、または他人と共同で経営する小さな商売を指すということ、および「行號」という形態で商売をすることのメリットについては前回ご紹介しましたので、今回はデメリットについてお伝えすることといたします。

まず、「行號」の名称は同一の県市内では重複が禁じられますが、別の県市で他人によって使用されても法的にどうすることもできません。会社名称が経済部に登記された場合、台湾域内で重複使用が認められないのに比べ、保護の範囲が狭いといえます。

この結果、仮にAさんという方が脱サラして「行號」を設立し飲食店を開業して大成功したとします。その成功を知った他者がAさんの「行號」と同じ名称で、同様の飲食店を他の県市で設立し営業してもAさんは法的に差し止めなどを行う権利はありません。もちろん、同じ名称でも味に格段の差があれば、いずれ後追いの店には人が入らなくなるでしょうから、それほど気にする必要はないかもしれませんが。

個人に無限責任

次に「行號」を個人で設立した場合、「行號」の負債について当該個人が自らの財産で弁済の責任を負う、つまり個人が無限責任を負うという点も会社(有限公司、股份有限公司)と異なります。Aさんの例で言えば、残念ながら飲食店にあまり客が入らず、大きな借金をつくってしまったような場合には、Aさんは自分自身の財産、例えば、不動産や車などを個人所有していれば、そのような財産をもって飲食店が負った債務の弁済に充てなければならないんですね~。

他にも、個人で設立していることから、法人の場合に比べ、銀行などの金融機関が信用リスクを感じ、必要な場合に融資が受けにくくなる可能性が指摘されます。もちろん、金融機関からの融資に頼らず、無借金経営ができるのであれば特に問題はないのでしょうが、規模の拡大を検討したくても、資金が足りず断念せざるを得ないというようなケースもあるかもしれません。

上記のようなデメリットはあるものの、先週お伝えしたメリットもありますので、「まずは小規模でよいから自分で事業を起こしたい」という方にとっては「行號」という形態は考慮に値すると考えますので、検討されてみてはいかがでしょうか。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。